〜注意事項〜
・一話参照
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俺はずっと一人で生きていくんだと確信した時があった。
1度なんかじゃない。何度も。
俺は、無口で自分から喋りかけるのが苦手だ。
いざ喋ったとして、思ったことが全て口に出て皆は離れていく。
空気が読めない、なんて誰からも言われることだ。
学生時代、それが原因で孤立し、仲間はずれにされることがよくあった。
直接的なイジメではないため、どう相談すればいいのかも分からない。
誰に言えばいいのかも分からなかった。
そんな時、1人の生徒が同じクラスになった。
どうやら年は1つ上なのだが、とある事情で1年間学校を休んでおり、学力が追いつかず、そのままの学年で過ごすことになったらしい。
彼は途中からやってきたのに、明るい性格から友達はすぐに集まった。
どうせ彼も、なんて少し期待していたのは恥ずかしいものだ。
だけれど、彼は俺に話しかけてくれた。
「なぁ、shpくんやんな??俺と飯食おー!」
同じ人間のはずなのに、どうしてここまで違うのか。
嫉妬したことがあった。
でも、嫉妬なんてものはすぐに無くなり、同情することだってあった。
何故かって、彼は車椅子だからだ。
「…なんで俺っすか。」
「えっなんでって、うーん。。なんとなく!」
「いいです。必要ない。」
「ちぇ〜…けち。」
彼は車椅子を押して席から離れた。
いつものように陽キャ達の所へ行かず、自分の席で黙々と食べ始めた。
なんだか、居心地悪いじゃないか。
俺は早めに食べて、トイレで時間を潰そうと考えた。
それから、何度も何度も近寄ってくる彼と距離を置いた。
なのに、彼はずっと俺に構い続ける。
だけど。
それも終わるであろう日があった。
「おいshp邪魔だから退けよ。」
クラスのリーダー的存在の男とその仲間が俺に嫌がらせを始めた。
等々そこまで来たか、と思いつつ言うことを聞いていた。
それが確か、1週間続いたくらいだったか。
彼はその時、検診が何かで休んでいた。
クラスメイトは気まずそうに見て見ぬふりをしていた。
まあ、ここで変に助けられても恩ができるだけで困るし。
そして、彼がやってきた。
彼はいつも通り俺の隣にやってきてニコニコと会話を始めた。
俺は拒む気力もなく、仕方ないが聞くことにした。
彼は驚きながらも喜んでいた。
「おいci、その陰キャから離れろよ。キンが移るぞ。」
男がニタニタと笑みを浮かべて俺を指差す。
俺は無視しているが、彼はジッとその男を見つめていた。
どんな顔をしていたかは分からない。
でも、怒っていた。
優しく、笑顔ばかりの彼が、怒声を上げるなんて誰も思ってなかった。
「なんでわざわざ怒ったん。」
帰り道、彼と帰っている時に尋ねてみた。
彼はうーん、と悩み、それから笑顔で俺の手へと手を伸ばした。
「友達だからかな!」
「…俺を庇ったから、お前数人の友達と喧嘩になったやんけ。」
「ああー…。でも、俺にとってshpくんの方が大切な存在だって思ったんやで。」
「…俺が、たいせつなそんざい、?」
「うん!shpくん、無視はするけど俺の話聞いてくれるやん。アイツらは自分のことばっか。」
「…はあ。」
「俺こんなんだからさ、ほんもんの友達おらへんねんな。遊びにも行けへんし。」
伸ばされていた腕が、ぷらんと垂れそうになる。
ああ、彼には俺が必要なのだろうか。
俺は、いつからか彼の笑顔を見るのが好きになっていたのかもしれない。
膝に乗せられそうになった腕を取り手を握る。
それから後ろに周り車椅子を押した。
「は、え…。」
「友達って、作るの難しいよな。」
「…うん。恋人と同じで、運命的ななにかなのかも知らん。」
「…は、じゃあなに。俺とciは赤い糸で結ばれとるっちゅーこと?ええ…いややなぁ。」
「俺だって彼女ほしーわい!!!!!!!」
「あははッ!」
笑った。
俺が、他人と笑いあった。
ああなるほど。
これが、友達か。
友達も、運命的な何かによって結ばれるのかもしれないな。
……ああ、そりゃ友達やで。
可愛い女の子(小さい子)がいっちゃん好きだし。
まあでも。
友達っていいな、なんて。
思えば自分がいることに驚くわ。
…。
まあ、なんだかんだあって一緒に住んでる訳だが。
お察しの通り、俺にはciしか友達がいない。
別に他にいるとも思ってないが。
「shp、お前俺の他に友達おらんの??」
「おるわけないやろ。お前が1番知っとるくせに。」
「嬉しいけどさー…、なんかあった時のために作っとけよ〜。」
「なんかあった時って…?」
「…。それこそ、utさんとか仲良くしとけよ〜」
ciはペペロンチーノを啜る。
窓の外は小雨が降っている。
そんな雨音も忘れてしまうほど、ciの声は俺の耳に残っていた。
耳から。頭から。記憶から。
消えてしまったらどうしよう、と。
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仕事で会社に行き、車で帰っていた時のこと。
真っ暗な道路を進んでいると、お墓の前を通った。
お墓は、暗く静かでどこか怖い。
いるはずのない何かがいる気がして。
今日も、目を逸らしながら通り過ぎようとしていた。
のだが。
「…あれ、utさん、?」
お墓の中へと入っていくutが目に入った。
ここにutの知り合いの誰かの墓があるのだろうか。
こんな夜中に歩いてきたのだろうか。
shpは色々と気になって咄嗟に車を停めてしまった。
興味本位で知り合いのお墓を見るのは行けないだろうか。
なんて不安になりながらも、utの姿を探しにお墓の中へと入っていく。
「…、!」
utはお墓に囲まれている、周りよりもひとつ小さなお墓の前に座り込んでいた。
パンを置いて、その場にただ座り込んだまま動かなかった、
shpは声をかけずに帰ろうとした。
どう声をかければ良いのか、分からなかった。
でも。
やはりこんな夜中に1人は危ない気がした。
shpは車へ向かう足を止めて、引き返す。
座り込んでいたのが、蹲っている、に変わっていたutの傍に近寄り肩に手を置く。
「ひぐっ…、う"ッ、うぇ、?」
「…ut、さん。」
「ひぃえ…ッ、shp、さんッ。」
utはなぜかよそよそしく、こちらを見た。
shpは違和感を覚えながらutの隣にしゃがむ。
「歩いてきたんすか。だったら帰り送りますけど。」
「…え、と、あ、うんッ、いゃ…、あ、」
「…?」
utはきょろきょろと周りを見ながらモジモジとしている。
まるで、人が変わったように。
あんなに明るいutがshpを見て震えるなんて、なにがどうなっているのだ。
そう考えていると、utが墓を撫でて呟いた。
「…ぼくの、しんゆうの、は、はか、です。」
「…そうなんすか。」
「…、こ、こいつ、も。ciさんと、同じように…、あしが、不自由、で。」
「…。」
ぴたり、shpの動きが止まった。
utは、親友を失っていた。
それは、なによりもshpが恐れていたことだった。
「…そいつの名前、knって…言うんですけど。」
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「おい金出せよ陰キャくーん。」
「お前オタクだから推し活のために金持っとるやろ〜?」
「ひ、ひぃッ…。」
蹲るのは、情けないだろうか。
でも、これが僕なりの生き方だった。
強者には勝てるはずがない。
自分は強者にはなれない。
だから、生まれた時から間違いだったのだろう。
そろそろ、こんな人生も飽きてきた。
もう、終わらせても良いだろうかな。
「どしたん。」
「…ん、ぁ、?」
財布から金を抜かれた僕は、壁にもたれていた。
そんな僕を見て見ぬふりをして通り過ぎていく人々の中に、1人だけ。
1人だけ、声をかけてくれる人がいた。
そいつは、車椅子を精一杯押しながらやって来た。
「おれァ、kn。まあ、kn様って呼んでくれてもええで?」
「kn…さま。」
「いやまて。ほんまに呼ぶやつがどこにおるんや!」
knはうるさい程明るい笑い声をしていた。
そんな笑い声に、救われたのかもしれない。
僕に手を差し伸べるknの腕の高さは低い。
でも、どこか確かに引っ張られた。
僕は、彼から生きる希望を分け与えられた。
「なー、utー。」
「なに、kn。」
「俺さ、パン屋になりたいねん。」
「ぱんや、?」
「そ、パン屋。これ、俺が考えてるパンの案なんやけどさ。」
knは小さな紙にパンの作り方などを書いていた。
それを僕に見せながら嬉しそうに話す。
「でもおれァ、こんな足しとるから。utと一緒に経営したいわ。はッはッ、お前と一緒に居たいだけかもしらんけどなァ。」
「…僕、人と喋んの無理やで。」
「ええねん。そこはおれァやるから。utはパン作ったりしててくれれば。」
「…、なら、ええかも。」
「せやろ!?うわぁぁッ、楽しみやなァ。世界一目指そーな!!!!!」
それが、僕の。
僕たちの、夢だった。
ただの夢なんかじゃない。
キラッキラした、世界一の夢。
「パン作りって案外難しいねんな。」
「そーなんや、」
「おん。」
ある日、knとパン作りの材料を買いに行っていた時。
僕がknの車椅子を押しながら歩いていた。
だが、途中で手を離してしまった。
信号を待っていたから、油断して手を離していた。
knの隣を、男の子が飛び出した。
もしくは、突き飛ばされた。
横から車が来ているのに気付かぬまま。
僕は咄嗟に動けなく、ジッと見ていた。
周りの大人もそうだった。
男の子の同級生であろう男の子らは、走って逃げて行った。
確信した、この子も僕と同じ。
いや、こんな僕と同じにされるのは嫌か。
バァンッッッッ!!!!!!!!!
車に突き飛ばされ、宙に2人の影が舞う。
…ふたり。
男の子は足に大怪我を負ったものの、足だけで他は怪我をしなかった。
knのおかげで。
knは車椅子を自分で動かし、男の子に手を伸ばした。
届かぬと判断したknは車椅子から立ち上がり不自由な足を無理矢理動かして男の子を突き飛ばした。
knは全身を強打した。
地面にぶつかった時、knは赤。
赤、赤、赤、赤。
全身に赤を巻き付けていた。
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そいつの夢であったパン屋。
僕は、それをknの代わりに叶えてやるしか、彼のためにすることは無かった。
でも、僕は人が苦手で、怖くて。
knの案であるパンを作ることは可能でも、売ることはできずにいた。
もう行き詰まり泣きそうになっていた時。
そんな時、knが笑っていた。
目の前で、嬉しそうにケラケラ笑っていた。
抱きしめてやろうと思ったが、すり抜けた。
彼はもうこの世にいない。
でも、knは僕を慰めるようにふよふよとその場を浮いていた。
それから、knが僕の身体の中に入ってきた。
なぜだが、気分が良くなり涙も引っ込んだ。
きっと、knが僕の背中を押してくれている。
僕とkn、2人でひとつとして夢を叶えれば良いのか。
僕は、knを表として生きてきた。
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「…だから、ほんまのutは、ぼく、です、」
「…俺は別にそのutさんも好きっすよ。」
「………なんで、」
「俺と似てるから。ああいや、同じにされるのは嫌っすよね、」
「んん、全然いい。shpさんみたいに、って言われるのは、全然うれしい、けど。」
車の助手席に乗ったutは、俯いたまま静かに過去を話した。
今までの自分が偽りだったこと。
shpが恐れていたこと、親友を失っていたこと。
話しながら、目の前をちら、と時折見ていた。
そこに、彼。knがいるのだろうか。
「ciもきっと、どんなutさんも好きっすよ。」
「ほんまぁ…?」
力強く頷き、車を運転する。
utはこちらをジッと見ながら窓から入り込む風に前髪を乗せていた。
ふう、と息を着き身をknに預けたのか。
つづくよ
暑いね、熱中症気をつけてください🫠
コメント
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ぐぁぁあ!!泣ける! ciクンが言ったなんかあった時 ってのが、伏線?的なのになるのかって思ったンゴ🤔
まさかの亡くなっていたのか、!! でも二人で1つっていうのが好きすぎる!!