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ご本人様方とは一切関係ありません
犯罪組織と戦うメンバーさんの、戦闘パロ のお話です
水視点
「しょうちゃん、もしうちのチームの中に裏切り者がいたらどうする?」
そんな問いを彼に投げかけたのは「あの」任務の前夜だった。
りうちゃんの看病でつきっきりになるあにきに部屋を譲り、しょうちゃんは早々にこちらへ来ていた。
いふくんのベッドを借りるという名目だったはずなのに、今は僕のベッドの上で携帯ゲーム機で遊んでいる。
「え? 何? 裏切り者?」
聞き返しながら、しょうちゃんは寝そべっていた態勢からゆっくりと体を起こした。
胡座をかくような姿勢で座り直したのは、僕の口から不穏な単語が出たせいだと思う。
真面目に話を聞こうとしてくれる辺り、本当にしょうちゃんは他人思いだ。
手にしていたゲーム機をぽいと投げ出し、しげしげと僕の顔を見つめ返した。
「例えば…の話だよ」
マウスをカチカチと鳴らしながら、僕はその視線から逃げるようにモニターに目を向ける。
そんな言い訳が通用するとは思えなかったけれど、しょうちゃんはそこで深く追求することはしなかった。
「裏切り者…裏切り者ねぇ」
低く掠れ気味の心地良い声が、そんなふうに繰り返す。
少し思案するような間をあけた後、白い前髪をくしゃっと掴んではまた離した。
「とりあえず、話聞くかなぁ」
「話?」
思いがけない返事に言葉を繰り返す。
それまでしょうちゃんから背け気味だった目で、まじまじと見つめ返してしまった。
「だって、この中の誰かやろ? 家族同然の中で誰かがそんなことするなんて、よっぽどの事情があるに決まっとるやん?」
ニコッと笑って、しょうちゃんは実に彼らしい言葉を口にする。
…そう、そうだった。
僕は、しょうちゃんのそういう愛情深いところが好きだった。
仲間や家族想い。衝動的に人を疑ってしまう僕とは違う。
ないちゃんにひどい言葉を叩きつけた僕を、しょうちゃんは一体どう思うだろう。
疑わしいことがいくつもあったとしても、裏付けする証拠は何一つなかった。
その段階でないちゃんを疑った。
僕の口から発された刃に傷ついたピンク色の瞳が、目に焼き付いて離れない。
「ほとけっち…大丈夫?」
集中治療室の前。
ブラインドが閉ざされた向こう側で、今しょうちゃんは生死の狭間をさまよっている。
姿は見えないのに凝視するように窓の前で立ち尽くした僕に、りうちゃんが心配そうに声をかけた。
振り向くこともできないまま、弱々しく小さく頷く。
血圧なのか心拍なのか分からないけれど、しょうちゃんの体に異常が起こっていることを示唆する機械のエラー音が耳障りで仕方がない。
…大丈夫。しょうちゃんは大丈夫。
自分に言い聞かせるように、心の中で何度もそう唱えた。
口元で組んだ両手の指は、気を抜くとガタガタと震えそうで力をこめる。
しょうちゃんが今起きたら、どう思うだろう。
ないちゃんにひどいことを言った僕のことを知ったら、きっと怒るに決まってる。
…ううん、怒られるならまだいい。
しょうちゃんが愛する仲間を…家族を、話も聞かずに疑ったなんて知ったら軽蔑されるかもしれない。
「…軽蔑…」
頭に浮かんだそんな単語が、意図せず口から零れ落ちた。
それを掬い上げるかのようにりうちゃんが「え?」と目を丸くする。
しょうちゃんに呆れられるのは、イヤだ。
いつだって曇りない愛情を注ぐ彼に、見合うだけの自分でいたかったはずなのに。
「…りうちゃん、ごめん…っ」
バッと顔を上げて、僕は勢いよく振り返った。すぐ斜め後ろに立っていたりうちゃんは少し驚いたように首を捻った。
「僕、ないちゃんに謝ってくる…!」
だって、しょうちゃんが目覚めたとき胸を張っていられる自分でいたい。
しょうちゃんはきっと……きっと目を覚ます。
だからその前に、またないちゃんと笑い合える関係でいたい。
覚悟を決めたような僕の表情から、りうちゃんは全てを読み取ってくれたらしかった。
「行ってらっしゃい、気をつけて」そう言ったりうちゃんは、最年少らしからぬ穏やかな表情で僕の背中を押した。
表通りでタクシーを捕まえて、家へと急いだ。
今日ほど信号待ちの赤い光がもどかしかったことはない。
早く、早く…逸る気持ちを抑えながら、今まだ自分の心ない言葉に傷ついているだろうないちゃんの顔を思い浮かべては胸が痛んだ。
会ったら、1番に謝ろう。ごめんねって。
あのときないちゃんは「俺じゃない!」って言っていた。
その言葉をもう一度信じて話を聞いてみよう。
そう何度も心に誓いながらようやくたどり着いた家の前。
僕は飛び出すようにタクシーを降りた。
家の手前の駐車スペースには、いふくんが停めたワゴンが置いてある。
恐らく中はまだしょうちゃんの血で汚れているだろう。
そんな想像をしてしまいながらも、目を背けたくて玄関までの道を急いだ。
傷ついたないちゃんを、いふくんなら優しく慰めてあげてくれてるかな…。
そんな気持ちを抱きながらも開いた玄関ドア。
中へ飛びこんだ瞬間に、向こう側からぬっと現れた影に思いきりぶつかりそうになった。
「え、いふくん…」
思わず驚いて目を丸くしてしまった。
どこかに行くの?呑気に尋ねかけたそんな言葉が、喉の奥で飲み下される。
後ろではパタリと音を立ててドアが閉まった。
いふくんの肩には、ないちゃんが担がれていた。
うなだれるようにだらしなくぶら下がった両腕。
ピンクの髪の隙間から見える横顔は、恐ろしいくらい真っ白だった。
血の気を感じさせないその白さに目を瞠りながらも体に目線を移すと、胸や肩が全く動かないことから一目で分かった。
…死んで、る……。
バッと勢いよくないちゃんから上に視線を移す。
いふくんをまっすぐ見据え、思わず声を荒げた。
「ないちゃん…? いふくん、ないちゃんどうしたの!?」
取り乱したような僕の高い声に、いふくんはわざとらしいくらいの大きなため息をついた。
「はぁ」とはっきりと言葉で聞き取れそうなほどの吐息。
僕の質問に答える気はないらしく、面倒くさそうに目線をわずかに逸らすだけ。
その態度ひとつで理解してしまう。
…ないちゃんをこんな目に遭わせたのは、彼だ。
「いふくん…ないちゃんに何したの!?」
「……何で戻ってきたん、お前。…だる」
そう付け足すいふくんの目は、驚くほど冷たかった。
普段から怠惰を豪語する彼だけど、今日ばかりはいつもとは比にならないほどの気怠さが垣間見られる。
いふくんは、ないちゃんの身体をラグマットの上にそっと下ろした。
その一連の流れるような動作を、僕は目で追うしかできない。
「僕…ないちゃんに謝らなきゃって…」
何とか絞り出そうとした声は、醜くひしゃげるように掠れた。
「ひどいこと言っちゃったから…。もししょうちゃんが今起きて、僕がないちゃんに言ったこと知ったら絶対怒るだろうな、って…」
「……」
「だから、しょうちゃんが起きるより前にないちゃんにちゃんと謝らなきゃって…」
怜悧と人に評される目を細め、いふくんは僕を見下ろす。
すんと鼻をすすりながら、僕はそれでも臆することなく彼を睨み上げた。
「何でないちゃんにこんなことしたの?」
腹の奥底からふつふつと沸き起こりそうな衝動。
しょうちゃんがやられたときに、ないちゃんに向けたそれと似ていた。
「ないちゃんじゃなくて…いふくんが僕たちを裏切ってたの!?」
思わず叫んだ僕に、いふくんはまっすぐ向き合う。
そんな彼が纏う凍てつくようなオーラに気圧されて、僕は半歩分だけ後ずさった。
「俺の殺しのターゲットはないこだけやねん。お前はなんも関係ない」
退がった分と同じだけ、いふくんが距離を詰める。
背筋を冷たいものが走るのを感じ、僕は思わずゴクリと息を飲んだ。
「お前が今そこどいてくれたら、余計な手間かからんで済むんやけど」
『余計な手間』って何。
苛立ちまじりに問い返したかったけれどそれも全て呑み込んだ。
代わりにもう一歩退がる。
だけど今度は背中が玄関のドアにトンと音を立てて当たった。
「…!」
完全に退路を断たれ息を飲む。
逃げ道はない。
…そう思ったけれど、すぐに考えを改めた。
違う。逃げちゃダメなんだ。
ここで逃げたり衝動的に言葉を叩きつけたりしたらそれこそさっきまでと同じ。繰り返すだけだ。
「いふくん…何か事情があるんだよね…?」
脳内で『とりあえず、話聞くかなぁ』というしょうちゃんの言葉が蘇ってくる。
ないちゃんのときと同じ過ちは繰り返さない。
そう思いながら目の前の彼に尋ねたけれど、現実は理想ほど甘くはなかった。
「事情があったら、ないこを殺しても許してくれるん?」
口角を持ち上げていふくんは笑う。
それに合わせるように藍色の髪が小さく揺れた。
煽るような言葉に触発されてそんな彼を睨み上げたときには、体の横で握った拳が怒りで震えそうだった。
「何で…何で!? いふくん、ないちゃんのこと好きだったんじゃないの!?」
いふくんと一緒にいるときの、ないちゃんの楽しそうな表情を思い出す。
いつも優しいないちゃんが、それでも彼に見せる笑顔は僕の目から見てももっと特別なもので。
そしてそれを見つめ返すいふくんの目も穏やかで、きっと彼もないちゃんと同じ気持ちなんだろうと思っていたのに。
「あにきもそんなようなこと言うとったけどさぁ…」
…目の前にいる、冷たい声音のこの男は誰だろう。
知らない。こんな人、僕の知ってるいふくんじゃない。
「俺が一回でも、そう言うたことがあった?」
「!! …っ」
現実を突きつけられた気持ちで、僕はぐっと言葉に詰まる。
「お前らが勝手に勘違いしただけやん」
吐き捨てるような声で言い置いて、いふくんはもう一歩僕に近づいた。
「そこどけよ」と凄むような声が耳を突き刺すように響く。
「…どかないよ」
覚悟を決めて、僕はポケットからダガーナイフを取り出した。
手の中で一回転させ、グッと握る。
…ないちゃん、ごめんね。せめてないちゃんの体だけは、僕が守ってあげる――。
「お前が俺に勝てると思う?」
人を嘲るような声は、いつも僕をからかういふくんのそれからも想像できないほどの冷たさだった。
その目の前に、容赦なくナイフを突きつける。
切っ先をすぐそこで向けられても一歩も退がらないのはさすがだと思った。
「仲間を殺されて、黙ってられるわけないよ」
現実的に、たしかに僕がいふくんに敵うわけはない。
でもここで退けるわけがない。
ないちゃんに謝ることすらできなかった僕が、その遺体を持ち去られることまで許すわけにはいかない。
「…っ」
右手に持ったナイフを、びゅっと音を立てて思い切り振り下ろす。
それを当たり前に予想していたらしいいふくんは、スッと軽い身のこなしで難なく躱した。
右から、下から…次から次へと攻撃を繰り出す。
だけどいふくんには全て読まれているのか、一向に僕のナイフが当たることはない。
焦りと苛立ちを感じた次の瞬間、必要以上に手を伸ばして大振りになってしまったのを自覚した。
しまった、と思ったときにはその隙につけ入られる。
いふくんの大きな手が、僕の首を掴んだ。
冷たい指先が食い込むように爪を立てたのが分かる。
そのままガンと後ろのドアに叩きつけられ、痛みで目の前の視界がグラリと歪んだ。
「…は…っ」
うまく声が出ない。
苦しい、苦しい…!
いふくんの手を離させようと自分のそれを伸ばしかけて、ナイフが指先をすり抜けた。
もがくように彼の手首を掴んだけれど、力が入らない。
「安心しろ。苦しいんは一瞬やで」
僕の首を掴んだのとは反対の手が、何かを取り出すのが見えた。
上向きに構えられたそれは小さな注射器で、薬液が先端から1滴漏れる。
目を大きく見開いてそれを見やるけれど、相変わらず声は出ない。
「『あっち』でないこに謝るんやな」
地面を這うように低いいふくんの言葉が脳内に到達したときには、首筋に小さな痛みが走っていた。
(な…いちゃん…)
ごめんね、と、伝えたかったそんな言葉は心の中でもうまく形にならない。
(しょ…ちゃん…もう一回、会いたかっ…)
フッと暗くなる視界。
その自分の目から、一筋雫が零れ落ちた気がした。
コメント
8件
水さん視点もいいですね…!✨ 白さんと水さんの家族同然の仲間を思う気持ちが優しすぎます! 改めて青さんの話し方や態度がいつもの青さんらしからないのでかっこいいです(( 青さんと桃さんのお互いを見る目も尊い…!!
水さん視点のお話ですか…!! 白さんが優しいすぎて泣きそうです(( 水さん視点から見ると青さんはまぁまぁ屑ですね…((殴 青さん、水さんに会った時のあの対応は演技か素なのかどっちなのでしょうか…、? わぁ〜…!次回が楽しみです!!
水さん視点のお話ですね。 これは、水さんが目覚めていたとして青さんへの信頼はあるんですかね…。 自分も桃さんも生きてる事がわかったとしても、かなり青さんの印象が悪くなっていたので、信頼の回復が難しそうです。 次回も楽しみにしてます!