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#へたくそだけど許して
結月
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#元カレ
まぁ
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二人のデートの場はこの家以外の場所だろうし、仮に柚乃が彼を家に連れてくることがあったとしても、予定は事前に分かるはずで、そうでなくてもそんな時には、何かしら理由をつけて外出すればいいのだ。戸崎が一緒にいたいのは柚乃なのだから、私が家にいる必要はない。
そうやって上手に彼を避け、可能な限り会わずに済むように立ち回れば、胸の痛みも徐々に消えて行き、いつかはきっと、寄り添う二人を見てもさほど心を動かされることはなくなるに違いない、と思っていた。
ところが、胸の傷は塞がっておらず、心平らかになる「いつか」などまだまだ先のことだというのに、戸崎が夕食の席にやって来ることになってしまった。二人が会う約束をしている日、その夜の食事を我が家で取ることにしたのだという。
「私のお菓子の試食の時に一度会ってるんだから、ひとまずはそれでいいのにね」
その口ぶりから想像するに、母にせっつかれて仕方なく、ということらしい。柚乃は私にこっそりと愚痴をこぼし、苦々しく笑った。
戸崎を招く予定の日曜日まで、あまり時間がなかった。できればその席に着きたくない私は、友人たちを誘って外食しようと考えた。しかし、皆と都合が合わなかった。
いっそのこと一人で外食しようかと思った。けれど、食事にかかる時間など、せいぜい長くても二時間程度だろうし、私と柚乃、戸崎の三人だけの場ではないのだから何とかやり過ごせるはずだ、と思い直した。
観念して迎えた当日、柚乃が戸崎とのデートで出かけて行った後の我が家では、私とは違った意味で、母も父もどこかそわそわして見えた。
柚乃が戸崎を連れて帰って来るのは、三時間も後だというのに、母は食器選びと冷蔵庫の食材確認に余念がない。
「ねぇ、詩乃。少し、いえ、だいぶ早いけど、下準備、始めちゃおうかしら。手伝ってくれない?」
私は午後のおやつを食べ終えて、リビングでテレビを見ていたが、母に声をかけられて立ち上がった。
父は広げていた新聞を畳み、ソファから腰を上げる。
「それじゃあ俺は、夕方まで書斎にいるとしようかな」
「柚乃が帰ってきたら声をかけますね」
父がリビングから出て行った後、私はエプロンをつけて、母のいるキッチンに向かった。夕べのうちに母と柚乃とでメニューは決定済みのはずだから、私は母を手伝えばいいだけだ。
ひととおり下ごしらえが終わり、後は柚乃が戸崎と共に帰ってくるのを待つだけとなる。
「詩乃、お茶でも飲む?」
「うん、飲む」
母は手際よく緑茶を淹れて、湯飲み茶わんを二つ運んできた。一つは私の前に、もう一つは自分の前に置き、椅子に腰かける。早速湯呑を手に持ち、お茶を一口飲んでから、母は感慨深い顔つきで言う。
「それにしても、柚乃に彼氏ができるとはねぇ。しかもあんな素敵な男の子。よく見つけてきたものだわ」
母はふふっと笑い、その表情のまま私に目を向ける。
「それで、詩乃はどうなの?いいな、って思う人、いたりするの?」
「んっ!」
母の唐突な質問に驚いた。おかげでちょうど口に含んだばかりだったお茶を、危うく口から吹き出してしまう所だった。
「急に何なの?びっくりするじゃない」
「ごめんごめん。だって、詩乃もお年頃だからね。女子大だと学校の中で出会うってことはなかなかなさそうだけど、お友達が紹介してくれたり、なんてことはないの?勉強も大事だけど、やっぱり今の年齢ならではの、青春っていうのもしっかり経験してほしいと思うわけよ」
「青春って……」
聞かされた方が恥ずかしくなるような言葉だ。私はぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「もしも詩乃にも好きな人ができたら、お母さんに教えてね」
私は笑いながら適当に答える。
「あはは。そうだね。いつかそういう人ができたらね」
その「好きな人」には恋人がいるのよと、心の中で母に返しながら、私は残っていた茶を飲み干す。
「お母さん、そろそろ料理、始めない?」
「そうね。そうしましょうか」
母は時計にちらりと目を走らせた。私に続いて椅子から立ち上がり、キッチンに入って、早速料理に取り掛かる。
小一時間以上たった頃、料理は一段落がついた。
「こんなものかしらね。でも、少し多く作りすぎちゃったかもね」
「少ないよりいいよ」
出来上がった料理は、予定していたメニューより数品多かった。
「あとは盛り付けて、テーブルに並べるだけね」
母が言った時、玄関のドアが開く音が聞こえた。
「柚乃たちかしら」
母の言葉にどきりとし、私の全身には俄かに緊張が走る。
「詩乃。お父さんに声をかけて来てくれる?」
「うん、分かった」
二人を出迎えてくれと言われずに済んでほっとした。私はエプロンを外しながら、家の奥にある父の書斎へと向かった。
父に声を掛けてから戻ったリビングでは、戸崎がかしこまった様子でソファに浅く腰を下ろし、母と柚乃の会話に耳を傾けていた。
私はごくりと唾を飲んで喉を湿らせ、三人がいる場へゆっくりと近づいて行った。
「戸崎さん、いらっしゃい。お久しぶりです」
声を上ずらせることなく挨拶ができた。そんな自分を褒めてあげたい気分だった。
私を認めて戸崎はにっこりと笑う。
「詩乃ちゃん、久しぶり。今日は図々しくも夕食の席にお邪魔してすみません」
彼の笑顔にときめいた。けれど、彼のすぐ隣に座った柚乃の顔が目に入った途端、胸がずきりと痛んだ。
私の気持ちを知らない柚乃が、いつも通りに明るく笑う。
「詩乃、ただいま」
「お帰り」
「私も戸崎さんも、お腹空かせて帰って来たよ」
「お母さんがいつも以上に腕を振るったから、たくさん食べて」
ぎこちなくはないだろうかと気にしながら、私は柚乃に笑いかけた。それから母を促す。
「お母さん、料理、出そうよ。もうすぐお父さんも来ると思うし」
「そうね。そうしましょうか」
「私も何か手伝うよ」
立ち上がりかけた柚乃を、母は笑って止める。
「あんたは戸崎さんとお話してなさい。一人にしたら気の毒でしょ」
「それじゃあ、そうしようかな。後片付けは私がやるね」
柚乃は申し訳なさそうに言って、戸崎の隣に座り直した。
パーソナルスペースを無視した密接な距離で隣り合って座る二人から、親密さがひしひしと伝わってくる。
二人から顔を背けた私は、歪みそうになる表情をごまかすために、きゅっと唇を引き結んだ。
コメント
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辛いね。本当に詩乃の気持ち、知らなかったのかなぁ〜