「そうだ。倍相も帰ったし、ルームウェア、ちゃんと見せてくれないか?」
「えっ!?」
「アレさ、俺に見せるために着てくれてたんじゃねぇの? すげぇ……その、……か、……か……」
「か?」
「か、わい……かった、んだけど」
愛らしい羽理の雰囲気に、パステルカラーの猫柄パーカーの上下はよく似合っていた。
岳斗の手前、下を長いのに履き替えさせた大葉だったけれど、実際はせっかくキュートに着飾っていた羽理を、しっかり愛でられていなかったし、何よりちゃんと褒めてやれていなかった。
姉の柚子に、言葉足らずなところがいけないんだと散々ダメ出しをされた大葉としては、ちゃんと仕切り直しておきたいと思ったのだが、いざ伝えようとしたら〝可愛い〟という単語は思いのほかハードルが高かった。
「か、可愛かった……です、か?」
ホントに?とソワソワとコチラを見つめてくる羽理に、「ああ、……か、可愛かった! だからさ、その……もう一回ちゃんと着て見せてくんね?」
***
大葉がやたらしどろもどろで照れるから。
何だか羽理までつられて恥ずかしくなってきてしまった。
でも、確かに大葉が言うように、彼に見て欲しくて着ていた服だ。
「もぉ、仕方ないですね」
照れ隠し。
ふぅ、と溜め息まじりに言って立ち上がりながら、羽理は内心(もう! 今の私の態度、全然可愛くない!)と猛反省していた。
ソワソワと脱衣所で先程脱いだ、上と揃いの短パンに履き替えて戻ってきたら、大葉が真っ赤になって目を逸らすから。
「は、恥ずかしくなるのでそう言う反応、禁止です!」
羽理も頬を紅く染めながらぷぅっとほっぺたを膨らませてみせる。
「いや、だって……お前があんまり俺好みだから……」
言って、大葉にぎゅうっと抱きしめられた羽理は、「ひゃっ」と小さく悲鳴を上げた。
「けど、……なんか悔しいな」
だが、ややしてポツンと落とされた言葉に羽理は「ん?」と思って。
「考えてみりゃあ俺より先にお前のコレ、倍相に見られちまってるわけだろ? 何かすげぇモヤモヤすんだけど」
言われてみれば何となく。羽理もそれは嫌だな?と思ってしまった。
「大葉、今度別の可愛いの買ったら……その時こそは」
「ああ。俺に一番をくれ」
***
「よしっ。じゃあ、今夜は俺、お前のベッド脇で寝るから……。寝ぼけて踏んづけてくんなよ?」
ククッと笑ってベッド下の床を指さしたら、羽理が「ふ、布団もないのにそんなところで寝かせられませんっ!」と眉根を寄せる。
考えてみれば、羽理の部屋で二人一緒に夜を明かすのは初めてなのだ。
当初の計画では羽理を上手に丸め込んで、一緒のベッドで添い寝なんか出来たら最高だ!……と目論んでいた大葉なのだけれど、いざ!と思ったら意気地なしのヘタレ虫がそろりと頭をもたげた。
この部屋の片隅に置かれたベッドも、大葉のダブルベッドとは違って小さなシングルサイズだし、そこに羽理とくっついて寝たりして、何もせずにいられるだなんて、思えなかった。
(い、一応避妊具はあるけどな!?)
そうなることを全く期待していないわけではない。
その辺の準備だけは万端なのだが。
(羽理、そう言うの経験ねぇって言ってたし……今日気持ちを確かめ合ったばっかでそんなんは……さすがにダメだろ)
別室に移動しても距離が足りないぐらい、羽理に触れたくて堪らない欲が抑え切れる自信がないと言うのが本音だが、残念ながら部屋数が足りない。
女性用ワンルームをうたっているらしいこの物件。
キッチンや風呂場があるあちら側と、リビングのあるこちら側以外には部屋がないのだ。
玄関から真っ直線に部屋の中が見渡せては良くないと言う配慮からだろう。
キッチンスペースとリビングとの間に取って付けたみたいなすりガラスの仕切り戸はあるのだけれど。
戸があるからと、キッチンの床に寝そべると言うのはいくら何でもおかしいし、すぐそこに見える、リビングに併設されたウォークインクローゼットの中に入って寝るのも妙な話だ。
(俺は『ドラレもん』じゃねぇしな)
未来からきた、レモン色の超有名な国民的アニメの猫型ロボットが、世話になっている主人公の家の押し入れで寝起きしている。
それをふと思い出してしまった大葉だ。