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その日の放課後、俺はマナを屋上に連れ出した。そして、2度と飯塚と2人で会わないように説得した。でも、俺の言葉が届いていないのはマナの表情から見て取れた。
――あれから数週間経ったが、マナが飯塚に会っているのかどうかは、わからない。とはいえ、あんなことがあったばかりだ、さすがに直ぐに2人きりで会いはしないだろう。
また、俺とマナの仲だけど、飯塚の名前を口に出さなければ、マナは以前のよう人懐っこく接してきた。それに、授業中や休み時間には俺の弁当を早弁し、昼になれば俺がコンビニで買ったパンとおむすびを遠慮することなく食べていた。
学校が終われば、駅の近くのファミレスで宿題を見てやった。もちろんマナの目的の大半は宿題というよりも、そこで飲み食いすることだけが――。相変わらず、マナは俺を上手く利用していた。
「マナ、少しは自分で宿題をするようにしないとダメだぞ。俺だっていつまでマナの傍にいられるかわからないんだからな」
今日は学校に向かう途中にあるコンビニに寄れなかったので、昼休みになるとパンを買いに食堂へ向かっていた。すると、俺の後をマナがついて来ていた。
「大丈夫だよ。圭ちゃんは絶対私を守ってくれるもん。どこにも行かないよ」
確かに、これから先何もなければ、俺はマナの傍で今のように見守って行くんじゃないかと思う。でもその関係は、俺ではなくマナ次第でどうにでもなる。今回の一件のように、マナにとって都合が悪いことでも、マナのためにならないことなら例え嫌われようが諫めなければならない。それがマナにとって受け入れ難いことなら、きっとマナは俺から離れて行くだろう。
「それに少しずつでも自分のことは自分でやれるようにならないとな。高校を卒業したら進学か就職する訳だからな」
「そんなのしないよ。私は何もしないで遊んで暮らすの。お小遣いはパパが沢山くれるから大丈夫だし」
「お前な、それじゃただのダメ人間じゃなっ――」
「うっ――」
「どうした?」
突然マナが口を押さえ、腹を抱えて苦しそうにその場にしゃがみ込んでしまった。顔色もみるみる青ざめていった。
「マナどうした? 気持ち悪いのか?」
「――――」
「おいっ! 大丈夫か?」
「うっ――」
するとマナは急に走りだし、トイレに駆け込んで行った。心配になり後をついて行くと、トイレの前で待つ俺の耳にマナの嗚咽が聞こえてきた。
「おぇっ――おぇ――」
俺はこの時、理由はわからないけど、妙な胸騒ぎがしてならなかった。
「あれ? もしかして圭ちゃん心配して待っててくれたの?」
しばらくすると、マナはハンカチで口を押えながらトイレから出て来た。
「そんなんじゃねえよ! それより大丈夫なのか?」
「何が?」
「何がって、お前今吐いてただろ?」
「あんなの吐いたうちに入らないよ」
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって! 心配しないでよ。それより早く食べっ――うっ――」
すると、マナは再び口を押さえながらトイレに駆け込んで行った。
「おぇぇぇ――」
しばらくの間、何度も何度も嗚咽を繰り返していた。