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薬局の自動ドアが開く。
元貴は、薬の箱をそのまま両腕で抱えて外に出た。
胸元に押し付けるみたいに、落とさないように。
箱が擦れて、カサカサと音を立てる。
「……これで」
誰に向けたでもない声。
「これで、戻るはずなんだよ」
夕方の風が、やけに冷たい。
人通りはあるのに、世界から一人切り離されたみたいだった。
足を一歩出そうとして、ふらつく。
慌てて抱え直すと、箱の角が腕に当たる。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせる。
「歌えなくなるわけ、ないだろ」
その瞬間。
「元貴!!」
聞き慣れた声が、背中にぶつかった。
振り向くと、少し離れたところに若井。
その横に、息を切らした涼ちゃん。
元貴は、一瞬だけ固まる。
「……なんで」
涼ちゃんが近づいてくる。
元貴の腕の中を見て、表情が変わった。
「それ……何」
元貴は反射的に一歩下がる。
「触んな」
涼ちゃんの手が止まる。
「元貴、それダメだよ」
「全部….」
涼ちゃんの声が、少しだけ震える。
元貴は首を振る。
ぎゅっと抱え直す。
「いや……」
若井が一歩前に出る。
「それで治るって、誰が言った」
「……俺が」
掠れた声。
「俺が信じたいだけ」
涼ちゃんがゆっくり近づく。
刺激しない距離で。
「元貴、早く捨てて」
「今は判断できてない」
その言葉に、元貴の呼吸が荒くなる。
「いやだ……!」
「これ手放したら、何も残らない!」
その言葉に2人は何も出来ず。。。
「いや……」
腕に力を込める。
「いやだ……!」
箱が一つ、腕から滑り落ちる。
コンクリートに当たって、乾いた音がした。
それを合図みたいに、次々と落ちる。
「あっ……」
元貴は慌ててしゃがみ込む。
「だめだめだめ……」
箱を拾おうとして、手が震える。
涼ちゃんが言う。
「元貴、聞いて」
「聞かない!」
声が裏返る。
「これがないと……俺……」
箱をかき集める。
地面に散らばったそれを、必死に。
「ああ……ああ……」
若井が近づくが、すぐには触れない。
「元貴」
低い声。
「それ、耳は治さない」
元貴の動きが、止まる。
「……え」
涼ちゃんがしゃがんで、箱を一つ取る。
裏面を見る。
「これ、全然違うやつだよ」
元貴は首を振る。
「嘘……」
「だって、店の人が……」
声が、途中で途切れる。
箱の文字を見る。
さっきまで希望だったそれが、急に軽く、薄っぺらく見えた。
「……じゃあ」
喉が鳴る。
「俺、何してたんだよ……」
箱を持つ指から、力が抜ける。
一つ、また一つ、地面に落ちる。
涼ちゃんが静かに言う。
「元貴」
「治したいって思うのは、当たり前」
元貴は首を振る。
「でも……俺、馬鹿みたいだ」
「馬鹿じゃない」
若井は即答する。
「追い詰められてただけだ」
元貴はその場に座り込む。
「……怖かった」
小さな声。
「歌えなくなったらって考えたら……」
言葉が続かない。
若井が近くにしゃがみ、目線を合わせる。
「帰ろう」
涼ちゃんが、散らばった箱を集める。
元貴の視界から、そっと外すように。
元貴は、空いた腕を見つめる。
何も抱えていないのに、
胸だけが重かった。
涼ちゃんが立ち上がり、手を差し出す。
「行こ」
元貴は少し迷ってから、その手を取った。
ゆっくり、立ち上がる。
三人で歩き出す。
夕方の街は、変わらず騒がしい。