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#シリアス
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「……あー、続きまして、来月の親睦会の茶菓子代についてですが。一案としては昨年のどら焼きを継続するか、あるいは……」
会議室に、もっさりとした空気が漂う。
役員の一人が、一円単位の予算案をダラダラと読み上げとった。
俺は机の上で組んだ指をパキパキと鳴らし、眼鏡を中指で押し上げた。
(……この話し合い、もう三十分もやっとるぞ。どら焼きかモナカか、どっちでもええやろが)
俺の横に座っとる和幸(※書記係として無理やり同行させた)が、俺の「殺気」を察知して、小刻みに震え出しおった。
「……すまんが…ちょっとええか」
俺が低く、ドスの利いた声を出すと、会議室が瞬間冷凍されたみたいに静まり返った。
資料を読み上げとった奥様の手が、ガタガタと震えとる。
「……結論から言え。結局、どっちが安くて、どっちがガキどもにウケるんや。…資料三枚も使って説明するような話やないやろ」
「ひ、ひぃっ! す、すみません! どら焼きの方が十円安くて、日持ちもします……!」
「……やったらどら焼きや。決定。……次いけ」
その一言で、停滞しとった議事が爆速で進み始めた。
無駄な世間話は一切禁止。
結論、根拠、予算。
それだけを簡潔に言わせる。
まるで組の幹部会のような空気になったが、一時間経つ頃には、予定されとった議題が全部片付いとった。
「……ふぅ。……以上か。和幸、今日の議事録、今すぐ全員のスマホに飛ばせ」
「ハッ!了解しました兄貴!」
和幸が爆速でキーボードを叩く。
会議が終わった後、他の保護者たちは
「……すごい、いつも三時間かかるのに」、「……怖いけど、あの人のおかげよね」と囁き合いながら、早々に退散していった。
一人残った俺が、肩を回して溜息をついていると、副委員長の女性が恐る恐る近づいてきた。
「あの……黒龍院さん。ありがとうございました。実は私、いつも会議が長引いて、夕飯の支度が間に合わなくて困っていたんです」
「ホンマか…そら、時間の短縮は大事やからな。……自分の時間を大事にせぇ」
俺がぶっきらぼうに答えると、彼女は少しだけ笑って「次もよろしくお願いします」と頭を下げて去っていった。
目立とうなんて思っとらんが、感謝されるんは、案外悪い気がせん。
事務所に戻ると、ひまりが「パパ、おかえり!」と玄関まで走ってきた。
「今日学校で会議だったんでしょ?大変だった?」
「……いや、掃除みたいなもんや。それよりひまり、腹減ったろ?どら焼き、買ってきたぞ」
「えっ!やった~!どら焼き大好き!」
ひまりが嬉しそうにどら焼きを頬張る。
俺はそれを見ながら、ふと思った。
極道の看板は、人を畏怖させるためのもんやったが、PTAの腕章は、あの子の日常を円滑にするための「盾」なんやなと。
「……和幸。…次回の親睦会の警備計画、もう一回見直せ。学校の周りに、蛇頭会の残党が一匹でもおらんか、根こそぎ調べとけ」
「……兄貴、それ、PTAの仕事の範囲を超えてますって」
不器用なパパの学校改革は、まだ始まったばかりや。
やが、ひまりが安心して学校へ行けるんやったら、ワシは何度でもあの「会議」という名の戦場に立ってやる。