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「僕は君と同じで何度も死んでいる。この前は僕が錯乱してしまって君と一緒にベランダから落ちてしまった……電車に轢かれるよりも意識がずっとあって嫌だった」
……どういうこと? 謙太さんも繰り返していたってこと? てか嫌だったとか、こっちが嫌だったし!
「私も繰り返していたのは分かっていたわけ?」
「……君も繰り返していただろ。他の人よりも全く行動が違っていた」
「気づいていたのになんで……」
「ごめんね。ようやく軌道修正出来てきた。本当に君には怖い思いをさせたかもしれない」
「怖いも何も……謙太を助けなきゃって」
なぜ謙太も……。それに私たち夫婦がなぜこんなにもやり直しをしているのだろうか。
「原因はよくわからないけど。梨花ちゃんも分からないよね」
「分からないに決まってるじゃん。でも繰り返してくれているおかげで……いろんなことを知ったというか、なんというか」
「だよね。僕もよく分からないけどもっと生きたい、梨花ちゃんのためにも生きたいって」
電車のチャイムが聞こえてきた。そろそろ時間だ。
「……なぜ最初は死んだの?」
「それはその……わかってるかぁ、ねえ」
笑い事じゃないし。好きな彼の微笑みがここぞとばかりムカつく。私は少し口をむぐっとした。
「色々積みに詰んでしまったから梨花ちゃんに申し訳ないなぁって。そう思ったら戻っていたんだよ。なぜか」
「まさか最初のときって鷲見さんと体の関係持ってしまったとかじゃないよね?」
そう言うと少し答えが遅くなったが謙太は頷いた。
「ごめん、本当にごめん、だからその後は絶対関係は持ってはいけないと誓った!」
「……最低」
気持ち持ち直したのに少しがっかりしたけど二回目以降はやり直そうと努力してくれたのね。それには努力したことは認めよう。ここで追い詰めて絶交だとか言ってホームに飛び込んで死なれたら困るし。
「でもなんであの日に毎回戻るのだろうか」
「……わかんない。そもそもなぜ戻るのかもわからないのに」
電車はどんどん近づいてきた。心臓がバクバクする。
「ねえ、2回目以降は……分かったの? 死んだ原因」
あと少しで電車が来てしまう。
「ああ、だからこうしてここに移動したんだ」
「……」
もしかして原因を知って……。
すると謙太が震え始めた。
「嘘だろ……」
「えっ?」
「……ごめん、梨花ちゃん。もうだめだ」
どういうこと?! ダメって……ねぇ!!!
ふと私は気配を感じた。
……鈴原専務? 背の高い彼が謙太の後ろにいた。
なぜ? 専務が……?
電車が来た。
そして……謙太は押された。
私は謙太がバランスを崩してホームに倒れたのを引っ張ろうとしたが謙太が私の手を握ったから私もホームに倒れた。
……ぶおおおおおおおおおおおお!!!
電車の警笛。
何か生温かいものが飛び散る。
すぐに目の前が真っ暗になった。
「謙太あっ!!!」
私は目を開けた瞬間、声を出して体を起こした。
目の前には謙太がいた。
もちろん同じ時に戻っていた。そして彼は微笑み……少し苦笑いしながら。
「……梨花ちゃん……、おはよう」
今までの中で一番ぎこちないおはようである。
「なんで私をあの時引っ張るのよ!」
「……ごめん、咄嗟に」
「咄嗟に、じゃないよ……」
謙太は必死に謝る。にしても……。
「なんで鈴原専務が?」
「鷲見さんの件で……訴えてやるって匿名で会社にリークしたらあっちの方が上手だった」
「……匿名でやったのにバレたってことね」
「そうだよ……」
「叔父さんから止められてたんじゃ?」
「もうあの時には遅かったー。てかやっぱ梨花ちゃんに黙っておけばよかったかな?」
と、あちゃーという顔。
あちゃーじゃないのよ。にしてもまたこの日から戻ったのか。
「もうこの時点では鷲見さんとは……」
「会っているよ。でも大丈夫、体の関係はない」
「……本当?」
「本当だヨォおおお。信じてっ」
私はため息をついた。
ああ、ここからどうしていけば。また色々やらなきゃダメじゃん。
「梨花ちゃん」
そう謙太が私の方を見た。そしていつものように微笑む。
「また、君とこうしてやり直せて良かったと思う……今度こそ2人、生きよう……」
憎めない、この笑顔。
私はそれが好きで付き合い始めたんだっけ。……しょうがないか。
するとテレビであのドラマの予告が流れた。
「あなたはやり直したい過去はありますか?」
……そういえば全くこのドラマ、見られなかったのよね。謙太と目が合った。
「どうする? 見る?」
……。
「うん」
と謙太はいつもの微笑み。ああ、いろいろ幻滅したけども。
きっとちゃんと向き合いきれていなかっただけなんだ。だから裏切られたって思ったけどそれは自業自得だ。
そしてこの微笑みが好きで好きで仕方がない自分がいる。
だから今度こそは、死なせない。
私も死なないから。
終