テラーノベル
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ハルキは静かに剣山を握りしめた。
先端の針が首筋に当たる。
冷たい鉄の感触が、薄く張り詰めた皮膚に刺さるように伝わった。
「――これが僕にできる復讐方法だ」
その言葉が落ちた瞬間、ためらいなく力を込める。
勢いよく、首へと突き刺した。
鋭い鉄針が皮膚を貫き、喉元から鮮血が噴き出す。
熱い液体が手を伝い、床に滴る。
「ハルキくん!!! なんで!!!」
葉月の悲鳴が教室中に響き渡った。
彼女は泣き崩れ、震える手を伸ばすが、もうハルキに触れることはできなかった。
スダはじっとその光景を眺め、静かに笑みを浮かべる。
「矛盾してるよ、葉月さん」
淡々とした声。
「君が『殺さないで』と言ったのにね。だったら、僕が死ぬしかないじゃないか」
血まみれの手で、ハルキは自分の喉元を押さえながら、弱々しく笑う。
「これで、僕の復讐は完成だよ……」
葉月の顔を見つめる。
「君は僕の死を一生背負って生きるんだ」
その言葉が突き刺さった瞬間、葉月の顔が恐怖と絶望に染まった。
「いやぁああああっ!!」
崩れ落ちるように泣き叫ぶ葉月。
震えながら、何度も頭を振る。
「嫌だ……こんなの……こんなの間違ってる……!!」
だが、ハルキの視線は静かだった。
どこか満ち足りたようにすら見える。
血を流しながら、彼はスダを見上げ、口元に微かな笑みを浮かべた。
「スダ……思ったより切れるじゃないか……これなら、残り時間まで持たなそうだな……」
スダは小さく肩をすくめた。
「さて、どうでしょうね?」
冷めた声。
「でもまあ、いいんじゃないですか? それはそれで、エンターテイメントとして」
その瞬間、ハルキの手から剣山が滑り落ちた。
金属が床に当たる音が、虚しく響く。
そして――ハルキの身体が力なく前に倒れる。
血の海の中に沈むように。
葉月の嗚咽だけが、教室に響いていた。
やがて、黒い布が静かに彼の遺体を覆った。
その光景を見届けると、スダは愉快そうに口元を歪めた。
「さて……残るは君だけですね、葉月さん?」
彼女の耳元に囁かれた声は、地獄の底から響く悪魔の声のようだった。
……鈴原専務? 背の高い彼が謙太の後ろにいた。
なぜ? 専務が……?
電車が来た。
そして……謙太は押された。
私は謙太がバランスを崩してホームに倒れたのを引っ張ろうとしたが謙太が私の手を握ったから私もホームに倒れた。
……ぶおおおおおおおおおおおお!!!
電車の警笛。
何か生温かいものが飛び散る。
すぐに目の前が真っ暗になった。
「謙太あっ!!!」
私は目を開けた瞬間、声を出して体を起こした。
目の前には謙太がいた。
もちろん同じ時に戻っていた。そして彼は微笑み……少し苦笑いしながら。
「……梨花ちゃん……、おはよう」
今までの中で一番ぎこちないおはようである。
「なんで私をあの時引っ張るのよ!」
「……ごめん、咄嗟に」
「咄嗟に、じゃないよ……」
謙太は必死に謝る。にしても……。
「なんで鈴原専務が?」
「鷲見さんの件で……訴えてやるって匿名で会社にリークしたらあっちの方が上手だった」
「……匿名でやったのにバレたってことね」
「そうだよ……」
「叔父さんから止められてたんじゃ?」
「もうあの時には遅かったー。てかやっぱ梨花ちゃんに黙っておけばよかったかな?」
と、あちゃーという顔。
あちゃーじゃないのよ。にしてもまたこの日から戻ったのか。
「もうこの時点では鷲見さんとは……」
「会っているよ。でも大丈夫、体の関係はない」
「……本当?」
「本当だヨォおおお。信じてっ」
私はため息をついた。
ああ、ここからどうしていけば。また色々やらなきゃダメじゃん。
「梨花ちゃん」
そう謙太が私の方を見た。そしていつものように微笑む。
「また、君とこうしてやり直せて良かったと思う……今度こそ2人、生きよう……」
憎めない、この笑顔。
私はそれが好きで付き合い始めたんだっけ。……しょうがないか。
するとテレビであのドラマの予告が流れた。
「あなたはやり直したい過去はありますか?」
……そういえば全くこのドラマ、見られなかったのよね。謙太と目が合った。
「どうする? 見る?」
……。
「うん」
と謙太はいつもの微笑み。ああ、いろいろ幻滅したけども。
きっとちゃんと向き合いきれていなかっただけなんだ。だから裏切られたって思ったけどそれは自業自得だ。
そしてこの微笑みが好きで好きで仕方がない自分がいる。
だから今度こそは、死なせない。
私も死なないから。
終
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