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#ファンタジー
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「え、本物のももかちゃんじゃん! 俺ファンなんだけどさ、俺達と遊ぼうよ〜」
深夜のカラオケ帰り、平と新田は3人の若い男に言い寄られていた。2人きりの楽しい時間を久々に過ごせた直後だというのに、何も考えていないような馬鹿な男に囲まれる。平は苛立ち拒否の意を示した。
「ちょっと……やめてもらえますか?」
「女の子だけじゃつまんなくない? 絶対、絶対楽しくなるって」
3人は酒に酔っている。まともに取り合うのは不可能と判断した新田は平の腕を掴みその場を去ろうとした。しかし逆効果。男達はふらつきながらも追いかけてきた。心の底からの恐怖が膨らんでいき足取りもおぼつかない。振り向かず逃走経路を探ろうとした新田が見つけたのは、こちらに歩いてくる男の人影。一定の歩幅を常に保っている彼の顔が街灯によって照らされ明らかになる直前、走り出した。
「な、なんだお前……!?」
3人の男の酔いはすぐに覚めた。倒れ込んでからようやく声を出せた。酔っていたとはいえ、3人全員が反応できない速度でのローキックが行われていた。
「覚えていないのか? 救いようがないなやはり。お前達のように犯罪を繰り返すクズは。前回は無免許運転だっただろう」
頭を踏みつけながら、2人を助けた男は素早く110番通報。ここで振り向きようやく全貌が見えた。30代らしき男。冷ややかな目。身長は170cm後半。後にデスゲームを画策する男、黒野 将吾だ。
「あの……助けてくれてありがとうございます」
「こ、怖かった……」
平に抱きつかれながらも感謝の意を伝える新田。ここで黒野は平の顔を見て少し驚いた。
「ももかチャンネルの……ももか? 本人なのか?」
平のYouTuberとしての活動を把握していた。『ももかチャンネル』は登録者1000万人を超える日本最大級のYouTubeチャンネルであり、知らない人間の方が珍しいと言える程の有名人だ。
「え、そうですけど……?」
「……今から言う、俺の思想に共感してくれるのならば──力を貸してくれないか?」
黒野の理想、野望。平の影響力をもってすれば叶えられる物事ではあった。線密な事前準備や計画はもちろん必要。黒野は仲間を欲しがった。
数多の銃撃により建物や人間が傷つく音。助けを求める悲鳴。それに応じてやれない自身の不甲斐なさを噛み締める。
「なんだって急に……」
戦場カメラマン久保田 青輝は戦闘に巻き込まれていた。前線からは離れた安全地帯のはずが、突如として危険な戦場のど真ん中に。近くにあった家の庭に駆け込み、塀を背にして隠れていた。このままほとぼりが冷める事を選んだ久保田だったが、銃声や足音はどんどん近づいてきた。
「まずっ」
久保田の予想外の場所から敵対兵士は現れた。庭に身を隠していたが、その家の中から返り血を浴びた1人の兵士がやってきた。住人を今殺してきた様子のその兵士は久保田の顔もろくに確認せず銃口を向け発砲の音が鳴り響く。しかし飛び散った血は、久保田からのものではない。後頭部を撃ち抜かれた兵士から。
「日本人がこんなところに居るとはな」
兵士を蹴り飛ばし久保田と顔を合わせたのは黒野。続いて彼の背後から新田と平も現れた。
「大丈夫ですか!? 怪我は?」
「ここに住んでる人ではないっぽい感じ?」
突然に現れた援軍に戸惑いを隠せない久保田。ひとまず命は助かったのだと安堵はできた。しかし戦闘は未だ続いている。無事にここから脱出できる保証はない。
「戦況を見てきたぞ、黒野」
すると更に2人の男が。大型の狙撃銃を抱えるのは黒野よりも年上の警官、羽田 十兵衛。
「政府の軍に味方すればひとまずは凌げると思うけど」
手首や足に大量のナイフをぶら下げ、どんな状況下でも投擲できるようにしているその男は少年の姿をしている。後に“サトル”として赤沼家に入り込み、高浪に殺される男だ。
「脱出が最優先だ。できるだけ戦闘は避けろ……動けるか?」
呆然とする久保田に対し優しく手を伸ばした黒野。予想外の救援は彼の人生を大きく変える。手を掴んで歩き出した直後、黒野からの質問が繰り出された。
「南 橙子はどこだ? ここに来てるんだろ? 見当たらなくてな」
「あぁ、確かに一緒に来てましたけど。彼女は視察で、僕はこれが仕事なので。その南さんですが……戦闘が始まる直前に姿を消したんです」
「そうか。やはり、探ってみる必要がありそうだ」
「……あの、貴方達は?」
長年戦場カメラマンとして活動していた久保田にとっても黒野達の存在はイレギュラー的なもの。少数の日本人で構成された、どの軍勢にも属さない勢力。
「そうだな。特に名前は決めていなかった……俺達はただ “犯罪者を力ずくで白に染める”ために動いているだけだ。この俺の思想に共感してくれるなら、お前にも着いてきてほしい」
「黒野 将吾はどんなに軽い罪でも見逃さず、旧知の仲だろうと逮捕に踏み切っていたんだよ」
小走りでそう説明した高浪は珍しく焦っていた。赤沼と共に船内プールまで戻ると作戦を練り始める。黒野はアサルトライフルを所持している。対して高浪が持つのは羽田が遺したピストル。真正面からの撃ち合いでは現役警察官の射撃技術に敵うはずがない。実際に一瞬で水谷の脳天を撃ち抜いている。
「なぜ、その黒野という人物はあの船に乗っていたんですか?」
歩きながら赤沼との会話が始まる。竹之内の死体が残っているレストランまで戻ると、厨房にある包丁を吟味。
「……私達もデスゲームを用意してたんだよ。黒野達6人を誘拐して、“争奪”を強制させるゲームをね。でもまさか、黒野の方も同じようにデスゲームを仕掛けてたとは」
白と黒。片や凶悪犯罪者。片や正義の警察官。対照的なのは表面だけ。
「先に動いたのはあっちだね。ここに集められてなかったけど、私達に協力してくれてた茶山さん。彼が状況を把握したんだと思う。急に私やタケさんと連絡が取れなくなって、このゲームに巻き込まれたんだと知ると……黒野達を誘拐してゲームを開始。私達を助けようと来てたはず。さっきの揺れは激突したときのものだよ」
「ですが、黒野はあの船から出てきました」
「操舵室の前で死んでた羽田って人。あの人が私達を監視してゲームの進行やってたんだろうけど、いきなりやってきた茶山さんと戦って……多分相打ち。だから私は茶山さんが助けに来てくれて無事解決したと思ってたし、黒野の方は逆に、羽田が助けに来てくれたと思ってたんじゃないかな」
双方予定外の事態が起こっていた。そして今の戦力差は酷いものだ。武装した黒野がいつ襲ってきてもおかしくない。対して高浪と赤沼の2人だけでは対抗も難しい。羽田の遺したピストルは残り弾数が3。
「別の場所から外に出られるように操舵室にあった合鍵は沢山持ってきました。で、作戦は」
「私が時間稼ぎをするからさ、悟くんには。仲間を増やしてほしいんだ」