翌朝。
彼女と約束を取りつけた会議室。
約束の10時よりも随分早い時間で待つ自分。
仕事が片付いたとはいえ、こんなに早くから会議室に来てしまうなんて、彼女に少しでも早く会いたい気持ちが先走る。
きっと彼女はまだいつも通り仕事モードで時間通りにやって来るんだろうけど。
昨日あんな夢みたいな時間を過ごせて、オレはずっと朝から浮足立ってて。
毎週こうやって彼女に会える時間がこれから待っていることも、彼女に堂々とこれからはアプローチ出来ることも、何もかもが嬉しすぎて。
正直仕事モードに切り替えられるかその時にならなきゃ自信がないほど。
すると、しばらくして彼女が会議室へとようやく姿を現した。
「おはよ」
「おはよー」
彼女がかけてくれた挨拶に軽く返事を返す。
いいね。
オレだけにこうやって言ってくれるこの言葉。
これからこの言葉を毎週聞けるってことか。
「じゃあ始めますか」
とりあえずとっとと仕事の話を終わらせて彼女とオレとの時間を作らないと。
そう思うと、自然と仕事モードに切り替わる自分。
「あっ、これこの前言ってた資料です。こちらでチェックさせて頂きました」
すると彼女もいつもどおりにクールに仕事モード。
「いいよ。いつもどおりで」
だけど。
逆にそのいつもどおりなのが気になって。
仕事だってわかってるけど。
昨日ようやく近づけたのに、まだいつもと変わらずその言葉も接し方も変わらず距離を感じて、そう彼女に伝える。
「え?」
「二人の時は堅苦しいから、敬語使わなくても、いつもどおりの話し方で」
これからいつもどおりは、仕事じゃなくプライベートでのあなたでいてほしいというオレの願望。
せめて二人の時はもう意識してほしいから。
「あぁ。うん。わかった」
すると彼女は受け入れてくれる。
「で、これね。サンキュー。じゃあ、これでオレが考えてる企画ちょっと進めてくわ」
「うん。よろしく」
「この取引先、オレが直接連絡取っても大丈夫?」
「あぁ。うん。大体私が責任者として関わってるから、私の名前出したら話早く通じると思う」
「それぞれ担当者は・・・」
「あっ、それもリストにちゃんと書いてるから、とりあえずその人たちなら私の名前で認識してると思う」
「おー。ホントだ。助かる。じゃあ、それで連絡してみる」
「特に難しい人とかいない?」
「あ~。うん。特には大丈夫かな?」
「へ~優秀なんだ。オレ関わったとこ案外めんどくさいとこも多かったよ」
「そうなの?でもなんとかなったんだ?」
「まぁ。そりゃオレも優秀でやり手ですから(笑) 」
「それ自分で言っちゃうんだ?」
「まぁそれだけ営業と今の部で頑張ってきたんで」
こうやっていつか来るあなたとの仕事する時の為に、オレは営業でも経験をしっかり積んだ。
「だろうね。見ててわかる」
「・・・そっ? まっ、ここにいる為に頑張ってきたようなモンだし」
「えっ?何が?」
「いや、こっちの話」
ずっとオレは描いて来てたから。
あなたとこうやって仕事する時のことを。
その時が来たら、絶対あなたの力になれるようにと、ずっとそれを思って頑張って来たんだから。
年下だからあなたの力になれないのは嫌だった。
だから今オレは、オレにしか出来ないやり方でオレだから出来ることを身に着けて、今あなたの前にいる。
「プロジェクトのリーダーとして今の年齢でそこまで仕切れるのなかなか出来ないよ。これからも出世コース目指してるんだ?」
「あぁ~。まぁ、そんなとこ」
あなたと一緒にいられるなら何だってするよ?
あなたにはきっとまだそういう風な目でしか映らないのだろうけど。
出世も最初から決められていることなら、逆にオレはそれを利用する。
今はオレに与えられたすべてのことは、あなたに少しでも近づく手段だから。
「きっと早瀬くんならあっという間に私もすぐ追い越して遠い人になっちゃうかもね」
オレの目的は出世じゃないよ?
ここにいるのも、ここまで来たのも、ただあなたのそばにいたかっただけ。
あなたに存在を知ってほしかっただけ。
あなたから離れることはオレにとって何の意味もないから。
「そんなことないよ」
あなたには、それをわかってほしくて。
でもまだ全部はあなたに言えないから、少しずつあなたに伝えていく。
「えっ?」
「オレは到底適わないよ。透子のその頑張りには」
あなたをどれだけ見て来たと思ってるの?
あなたが頑張ってる姿が、オレにはずっと輝いてた。
もちろん今でも、ずっと。
あなたのその姿にずっとオレは憧れ続けていた。