なんの幕切れもなく、事態は突如として進む。
「貴方ですよね。“仮面の男” の正体は」
「なるほど。行秋くんは俺がスパイだと?」
「はい。全て裏は取れました」
そうして、静寂が二人の間を包む。
「何故、俺が仮面の男だと?」
「先日のキキョウとの交戦時、貴方はキキョウの身体に触れてワープを行った。瞬間移動の異能ではない」
「証明できるものは? 俺の『ワープ』は、“印を示した相手” 、及び、“印を示した場所” にしか移動できない」
「印は、キキョウの服の裏にでもあったのでしょう。それよりも、貴方のワープの瞬間に目を付けたんです」
これは、行方の頭脳と観察眼でのみ見つけられる。
「貴方のワープは、長距離移動をする時、数センチだけ浮いてからその姿を消す。他の移動系の異能者のどれとも当てはまらないんです」
「なるほど。異能科学を研究している行秋くんらしい推察だね。素直に感心するよ」
「僕は、以前より貴方を疑わしいと睨んでいました」
「そうだね。君が俺のことを注意して監視していることは分かっていた。じゃあ探偵局を辞める? 二乃ちゃんの試験の時にも言われたね。『疑わしければ辞める』って」
「いえ……」
そして、バタバタと夏目の背後から足音が響く。
「行方!! 夏目!!」
駆け付けたのは、春木と『メデューサ』のラムだった。
「なるほど、ラムちゃんの異能で石化して拘束か。今、異能の行使をすれば、簡単に逃げられるけど……」
「それは出来ません。貴方の同行は、発信機で全て記録され、ワープ先、及びアジトの位置も特定済みです。異能警察にも協力してもらい、既に貴方は逃げられない」
すると、夏目はニヤッと笑みを浮かべた。
そして、懐から件の仮面を出し、徐に顔に着ける。
「甘いよ、行秋くん。君は俺を捕まえられない」
「今更……虚勢は異能警察本部で聞きます」
「違うよ。君……と言うより、他の誰にも、俺の唯一のワープ先を知らないんだ」
そう言うと、夏目は数センチ浮いた。
「ラム!! 石化を……!!」
しかし、間に合わず、夏目は姿を消した。
「本当に……知らないワープ先があるのか……?」
夏目のワープ先は、離島の監獄の中だった。
「またここに戻ってくるなんてね……。行秋くん、だいぶ成長していたな。油断は出来ないようだ……。さて」
監獄の中で、夏目は探偵局のバッジを握り潰した。
「流石は『異能探偵局の頭脳』と呼ばれるだけはあるね、行秋くん……。でも、ここまでは予定通りだ。さあ、君は僕の頭脳を上回ることが出来るかな……」
仮面の中で、夏目はニヤリと微笑んだ。
場所は、夕焼けの橋へと戻る。
「春木さん、明日、緊急会議を行います。異能警察の方にも連絡を入れておいて頂けないでしょうか?」
「ああ、分かった。今回はお手柄だったな」
そう言うと、ラムを乗せて車で去って行った。
ポツリと残された行方と二宮。
行方は、そっと二宮に近寄る。
「二宮、お前にとって正義とはなんだ?」
唐突な質問、夕日に照らされる中で、身長の高い行方の表情は暗く覆われているように見えた。
「弱い人を、強い人が守ること……」
再び、静かな静寂、川の音が響いていた。
「そうか」
「何か悪い!? 私の強力な異能なら、沢山の人を助けられるの!! 私の力はその為の力だから!!」
「別に悪いとは言っていない。いい理想だと思う」
「じゃあ……行方くんにとっての正義は何……?」
「僕は……」
行方は、二宮の瞳をそっと見つめる。
「弱い人も強い人も、公平に助けられる人になる」
翌日、春木の招集により、異能探偵局には、交戦に参加する異能警察の部隊が集められていた。
「ふむ、夏目がスパイだったとは……」
幕切りを割いたのは、長官の八百万神子。
遂に、明日に迫った犯罪者グループとの交戦。
その前日に知らされた核となる人物のスパイ発覚。
「まあ、暗い顔をしていても事態が好転する訳ではない。まずは、異能警察からの部隊を紹介しよう」
八百万が手を掲げると、一人のガタイのいい男がズイと前に出て、シュバっと敬礼をした。
「俺は十塚森羅。異能警察の副官だ。よろしく頼む」
次に、先日も参加していた書記の男が前に出る。
「僕は千羽彼方。遠方支援専門です。よろしくお願いします!」
「最後に、危険な男で、交戦が激しくなる時だけ呼ぶことにしている暗殺部隊所属の男を、今回は急遽、声をかけた。こっちに来い」
すると、ずっと椅子に座らず、体育座りで隅にいた男はニヤニヤしながら前に出た。
「百瀬白蘭。この通り危険を体現しているような男だ。背中には気を付けてくれ」
紹介を受けると、また元の定位置に戻って行った。
「そして、私を含めた以上の四名が参戦する」
春木さんも異能探偵局の参戦メンバーを順次紹介して行き、敵組織の人員が書かれた書類を見せていた。
時間が過ぎる中で、作戦といった作戦は提示されず、決行日を迎えることとなった。
「本当に大丈夫なの……?」
帰り道、二宮は行方にふと溢す。
行方は何も言わなかった。
そして、そのまま二宮宅まで着いてしまった。
「二宮」
戸を開ける瞬間、行方は二宮を呼び止める。
「明日になれば全てが分かる。心配するな」
その言葉で、二宮は少しだけ安心を取り戻した。
「信じてるわよ!」
そう言って、二宮は家の中に入った。
「さて……大詰めか……」
行方は、再びバイクを走らせた。
カラン……と、行方は戸を開けた。
「おや、もう閉店時間は過ぎているんだけどね……。行方くん」
「お願いがあって来ました。ジンさん」
行方は、ジンの目の前のカウンター席に腰掛けた。
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