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私が土井先生の長屋に転がり込むことになったのは次の休みから。私は少ない荷物を土井先生の長屋に運び込んで終わったのはついさっき。
土井先生ときり丸に手伝ってもらいながらある程度は片付け終わり、早めの昼食の準備をしているときり丸も手伝いをしてくれた。
「姉ちゃんのご飯、美味しかった。」
きり丸はそっぽを向きながらそう言う。
私はそんなきり丸に笑ってしまう。
照れるとそっぽをむく癖は治ってないんだな、と思ってしまう。
「嬉しいなぁ」
___
姉ちゃんの笑った顔は俺と一緒に住んでた時と同じ顔だった。
姉ちゃんと出会ったのは俺が村から逃げて1年も経たないうちだった。俺の手を引いてくれたのは、姉ちゃんのじいちゃん。
当時、俺は怖かった。
戦争孤児である俺にいい顔するやつなんていないからだ。何度も何度も俺を騙して働かせるだけ働かせていらなくなったらポイッと捨てるから。
姉ちゃんは違った。
爺ちゃんが俺と手を繋いで家の戸を開けて中に入ると、姉ちゃんが出迎えた。
姉ちゃんは、俺が見た中で綺麗な顔立ちをしていて視線を逸らしてしまって第一印象は最悪だったと思う。そんな俺に構わず、姉ちゃんは俺の手をとって家の中に入れた。
姉ちゃんは俺を板の間に座らせて、足を布巾で優しく優しく、壊れ物を扱うように吹いてくれた。
俺はどんな顔をすればいいのか分からなくて、表情は出てなかったと思う。姉ちゃんは俺を抱き上げて、爺ちゃんに風呂を準備してきて欲しいと言い、俺を風呂に入れてくれた。
俺は気持ちよくて寝てしまって気がついたら、布団に寝かされていた。隣の部屋から声が聞こえた。爺ちゃんと姉ちゃんの会話が聞こえた。
嗚呼、今日だけか、なんて思っていた。
それは俺の思い違いだった。
「弟ができて嬉しいです。お爺様。」
姉ちゃんは団子のような甘くて優しい声でそうはっきりと言った。俺は涙が止まらなかった。
今日だけだ、と思っていたから姉ちゃんはそうじゃなかった。ずっとずっと一緒にいてくれるって言ってくれたように感じたから、俺は嬉しくて嬉しくて仕方が無かったんだ。
姉ちゃんは俺が困らないようにとたくさんのことを教えてくれた。話し方や料理の仕方、アルバイトに役に立つからと算術や五車の術も教えてくれた。
姉ちゃんが学園に通い始めた時、俺は泣いて泣いてじいちゃんと姉ちゃんを困らせた。でも、姉ちゃんは怒らなかった。姉ちゃんは俺にお揃いの組紐を作ってくれた。
じいちゃんが亡くなる前に言われた。
俺はこの家から逃げなさい、と……
俺は嫌だ、と言ったけどダメだった。
俺は逃げて、働いて姉ちゃんと同じところの学園に通うためにアルバイトに励んだ。
姉ちゃんに大切なことを言わないで。
食器を片付けている姉ちゃの後ろ姿が目に入る。昔、俺は姉ちゃんの隣で手伝って2人でやったなと俺は姉ちゃんの隣に立った。
「……?……きり丸?」
姉ちゃんは首を傾げながら、隣に立つ俺に声をかける。
「へへっ」
俺は姉ちゃんに笑いかける。
俺の大好きな笑みを浮かべる姉ちゃんは、やっぱり綺麗だ。
________
隣のおば様と大家さんに挨拶をするために土井先生(半助さんと呼ばせていただくことになった)ときり丸で行くことになった。
しかし、それも杞憂に終わる。
隣のおば様がいきなり、庵を覗き込むようにこちらを見ながら入ってきたからだ。
「土井半助、ドブ掃除の件で話が……」
私の存在に気づいたのか、驚いた顔て私を凝視する。私はそんな彼女に頭を下げる。
「その子は……」
土井先生の方に目を向けると口角が歪み、どう言い訳すればいいのか、わからない、と困った表情になっている。
「俺の!姉ちゃんです!!!」
その言葉でどれほど大変な目にあうとわかることになるのか、今の私たちは知らない。
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