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第十六章
覚醒
―玄武の加護―
「おらぁ!! 巫女ども! 次は誰がイくんだ!!」
刀骨の怒号が戦場に轟く。
その声だけで空気が震え、大地が微かに軋んだ。
「仲間との別れくらい、済むまで待ってあげたら?」
妖艶な笑みを浮かべた男は煙管を口元へ運び、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
「カワイソウよ……ねぇ? 巫女ちゃんたち」
二人にとって、この惨状さえも退屈しのぎに過ぎない。
「白峰さん!! しっかりして!! 白峰さん!!」
煉華たちは倒れた琥珀のもとへ駆け寄る。
「待って、黒守さん! 頭部から出血してる! 動かしちゃだめよ!」
蒼紫は慌てて詞葉を制し、持っていたハンカチを傷口へ押し当てた。
しかし、真っ白な布は瞬く間に鮮血へ染まっていく。
「……っ
(止まらない……! こんな場所じゃ何もできない……!)」
震える指で巫女服を裂き、当て布を作る。
それでも血は止まらない。
「お願い……止まって……!」
必死の願いも虚しく、琥珀の顔色は見る見る青ざめていった。
「僕が結界を張ります!!」
羅刹が前へ出る。
「ですから、その間に白虎の巫女さまを……どうか、お助けください!!」
「そんなこと言われても…」
煉華は折れた脚へ添え木を当てながら唇を噛んだ。
「これ以上は……。それに白峰さんは……」
その先を口にすることができない。
認めたくなかった。
仲間を失うなど。
絶対に。
「だめ……白峰さん……」
琥珀の手を握り締め、詞葉は何度も名前を呼ぶ。
「お願い……起きてよ……」
ぽたっ……
涙が琥珀の手に落ちた。
その瞬間だった。
――護りたいか。
頭の奥で、静かな声が響く。
「え……?」
詞葉は顔を上げる。
辺りを見回しても誰もいない。
「…?(今の声は……?)」
――命を救いたいか。
厳しくも優しい声。
どこか懐かしく、心の奥深くへ染み渡る響き。
「!?っ(玄武……さま?)」
『他者を護りたい。助けたいと願う、その御魂にこそ、我が力は応えよう。』
詞葉は震える手で錫杖を握り締める。
「(助けられるの……?)」
『ただし、この力には代償がある。』
その言葉に、一瞬だけ鼓動が止まる。
だが。
「(みんなを護れるなら……そんなもの、怖くない!
琥珀ちゃんが助かるなら……私は、何だって受け入れる!!)」
詞葉は真っ直ぐ琥珀を見つめ、錫杖を静かに掲げた。
「待っててね……白峰さん。
ううん…琥珀ちゃん。」
深く息を吸い込み、祝詞を紡ぐ。
「清き禊の水の御力よ。
痛みと穢れをことごとく洗い給え。
常世の息吹、この身に満たし、
命の光よ――今ここに蘇り坐せ。」
祝詞が響いた瞬間。
羅刹の結界内へ柔らかな空気が満ちていく。
それは水ではない。
深い山奥に流れる、澄み切った冷気。
穢れを洗い流し、命を慈しむ玄武の息吹。
淡い翠白の光が琥珀を優しく包み込んだ。
「これは……」
蒼紫が息を呑む。
煉華も目を見開き、その光景を見つめることしかできなかった。
光は次第に強くなり、やがて静かに収束していく。
そして――。
「……あれ……」
琥珀の指先が、ぴくりと動いた。
ゆっくりと瞼が開く。
「あたし……生きてる……?」
「白峰さん!!」
「琥珀ちゃん!!」
煉華たちは一斉に駆け寄る。
その姿を見た詞葉は、安心したように微笑んだ。
だが、その頬を伝う汗は止まらず、身体の奥には今まで感じたことのない重さが静かに刻まれていた。
玄武の力は、確かに目覚めた。
その代償と共に。
コメント
1件
みぅです🤍 読み終わりました……。 詞葉ちゃん、玄武の加護に目覚めたんだね。すごく綺麗なシーンだった。でも「代償がある」って言葉がずっと引っかかってる。汗が止まらなくて、身体の奥に重さが刻まれてる描写、心臓がぎゅってなったよ。 琥珀ちゃんが生き返ってよかった……本当によかった。煉華ちゃんや蒼紫ちゃんの必死さも伝わってきたし、羅刹が結界張ろうとしたところもジーンときた。 続き、気になります。次も読ませてください🌙