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【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
マチアプで男漁りをする本来はノンケな桃さんと、「男で誰でもいいなら俺でいいやん」な青さんのお話。
桃さんが遊んでる人設定なので苦手な方はお気をつけください。
「…あ、スマホ忘れた」
不意に立ち止まってそう声に出したのは、きつかったダンス練を終えて夜道を歩き出した頃だった。
先を歩いていた2番としょにだが、足を止めた俺を振り返る。
「え、ダンス練した部屋に?」
尋ねられ、小さく頷く。
確認するようにポケットを服の上から叩くけれど、あの無機質な機械の感触はどこからも得られない。
「取ってくるわ。先帰っとって」
「おっけー、おつかれ」
くるりと踵を返し、背中にかけられるそんな声に後ろ手を振る。
そのまま来たばかりの道を戻り始めた。
「……えー」
辿り着いたダンスレッスン室で、扉を開けようとして俺は不意に足を止めた。
中から漏れ聞こえてくる声が一つ。
会話をしているらしいけれど一人分しか聞こえてこないから、電話中なんだろうと想像できる。
楽しそうに「ふふ」と笑い声を零しているのは、ないこだ。
…まだ帰ってなかったのか。
そう思いながらキィと扉を更に開く。
「ごめん」とジェスチャーで示して、スマホだけ取って帰ればいいか。
音を立てなければ電話の邪魔にもならないだろう。
そんなことを考えながら、一歩部屋の中に踏み入ろうとした。
だけどこちらに背を向け、俺が来たことにすら気付いていないらしいないこが言葉を継ぐ方が早い。
「うんいいよ、今から行く。場所はメッセで送っておいてくれる?」
人の通話内容を盗み聞きする趣味なんてない。
だけどこの時、足は完全に止まって棒立ちになってしまった。
「俺も。楽しみにしてる」
ないこが、聞いたこともないような甘い声でそう話していたからだ。
「……」
声を失って部屋の入口で立ち止まったままの俺。
ようやくその気配に気づいたのか、ないこはスマホを耳に当てたままこちらを振り返る。
目を見開いた俺の顔をまっすぐ見つめ返し、「じゃあね。また後で」と通話相手に告げた。
それからスマホを近くの机に伏せるように置くと、「まろ、どしたん」と声をかけてくる。
それはもう、俺がいつも耳にしているないこの声音だった。
「スマホ…忘れて」
小さく言うと、ないこは「あぁ」とひとつ頷く。
何事もなかったかのような…俺の戸惑いになんて全く気にも留めないような、ただ低いだけの声。
「はい、これでしょ」
気づいて回収してくれていたのか、机から黒いケースのスマホを手にする。
そしてそのままこちらに差し出してきた。
そこでようやく、足を動かさなくてはと思考が動き出す。
「…ありがとう」
ないこの元まで歩き、差し出されたスマホを受け取った。
「おつかれー」なんてまるで追い出すような言葉を続けて、あいつはそのままくるりと背を向ける。
近くに出しているタオルやら靴やらといった私物を片付けながら、帰り支度を始めた。
…まるで俺のことなんて欠片ほども気にしていないような素知らぬ表情。
それがやけに心をかき乱す。
「……知らんかった。ないこ、彼女おったんや」
言うつもりなんてなかった。
多分普段なら他人の通話を盗み聞いた上でそんな問いを投げることはない。
だけどこの時、半ば無自覚にそんな呟きを投げていた。
それを自分でも瞬時に後悔したけれど。
「え?」
「…さっきの、電話」
あんな甘い声で親しそうに、「楽しみにしてる」なんて言う相手…それ以外におる?
どうして自分はこんなに胸をかき乱されているんだろう。
そう思いながら、受け取ったスマホを握る手に力をこめる。
「あー…」なんて曖昧に声を漏らしたないこは、そのまま苦笑を浮かべて俺を見た。
「彼女じゃないよ。付き合ってないし、何なら女でもないし」
「……は?」
思考が完全に止まるのは本日2度目だ。
そのどちらもが、今目の前にいる男によるものだと思うと余計に頭の動きが鈍る。
「…どういうこと」
重ねて尋ねた俺に、ないこは苦笑い気味に一つため息を漏らした。
「…しょうがないなぁ」と言わんばかりの表情を浮かべ、観念したように近くの椅子に腰かける。
そのまま行儀悪く長い足を組むと、上になった方の膝を抱えるようにして両手の指を絡め合わせた。
「アプリで知り合った人」
「アプ…リ…?」
ためらいがちなこちらの声に、ないこは「そ」と軽く返す。
「さすがのまろでも存在くらい知ってるでしょ、マッチングアプリ」
まさか使ったことはないだろうけど、なんて、ないこの声は言外にそんな響きを含む。
…いや、それくらい分かるわ。出会いを求めた男女がアプリに登録して、趣味が合う相手や結婚相手を求めて出会うアレだろ。
そう答えると、ないこは「ふふ」と眉を下げて笑った。
「そういうのもあるよね、一般的には。俺が使ってるのはちょっと違うけど」
「……ないこはどういうん使っとるん」
「んー…まぁ端的に言えば、その日一緒に過ごす相手を探すだけみたいな?」
俺は結婚相手探したいわけじゃないし、と付け足してけらけらと笑う。
「結婚相手も恋人も別にいらないけどさ、持て余す欲はあるじゃん。それを昇華させてくれる相手を探してるだけ」
「……いや、おかしいって」
胸の奥底がぐわりと熱く煮えたぎるような感覚。
初めて覚えるその感情に名前は付けられず、自分でも戸惑いを隠せない。
それと同時に頭痛まで併発してきた気がする。
「こういう活動してるから面倒なことにならないように、相手は選んでるよ。割と料金高めのアプリを選んでるから変なのも少ないし。あとは…そうだな、変に執着されないように同じ相手とは寝ないようにしてる」
「……そういうことじゃないやろ…」
痛むこめかみの辺りを指で押さえ、ふーーーっと息を長く吐き出す。
立ち尽くしたままの俺を、ないこは椅子に座ったまま見上げてきた。
「ないこって男が好きやったん?」
その目を見下ろす俺の方が、明らかに動揺しているだろう。
性癖や嗜好を暴かれた側であるないこの方が平然と、まっすぐにこちらを見つめ返してくる。
「いや、女の子が好きだよ。でもそれだとリスナーの可能性も出てくるじゃん。男ならまぁそのリスクは減るだろうし、妊娠の心配もなければ後腐れもないしさ。ヤるだけならまぁいけたよ」
「……」
絶句した俺の反応をどう受け取ったのか、そこでようやくないこは口元に浮かべていた笑みを消した。
すん、と真顔に戻り、困り眉なんて言われる下がったそれは少しだけ持ち上げられた。
「……だから嫌だったんだ、まろに知られるの」
「……は?」
「まろ、潔癖なとこあるじゃん。俺がこういうことしてるって知ったら、絶対軽蔑するから」
不機嫌そうに歪められた唇は、自身の最後の防衛のつもりだったのだろうか。
俺に責められるかたしなめられるかするだろうと思っているらしいないこは、そこでようやく目を逸らした。
別に自分が間違ったことをしているわけではない、という自負はあるものの、俺に責められても仕方がないという自覚はあるのかもしれない。
…責める? 自分の胸の内に勝手に沸いた言葉に首を捻る。
俺が今持て余している感情は、そんな生温いものじゃなかった。
もっとこう…身勝手で、「ないこのことが心配だから」なんて善人じみた感情では一切ないことを実感する。
「自分の性欲処理してくれるなら、男が都合いいってこと?」
わざと煽るような言い方をして要点をまとめた俺の声に、ないこがバッと顔を上げた。
その目を見つめ返して、言葉を継ぐ。
「じゃあ俺でもいいん?」
続けたそんなセリフに、さっき一瞬怒気を孕んだように見えたないこの目が丸く見開かれた。
一度深く瞬きをしたかと思うと、こちらの真意を窺うように下から覗き込んでくる。
今度はさっきの俺と逆になったかのように、ピンク色の瞳が揺れる番だ。
「いやいや、まろは無理でしょ」
「何で」
「『何で』!? だってお前、男とヤッたことあんの? ヤレんの?」
まくしたてるようにそう続けて尋ねてくるないこ。
膝を抱えていた手を解き、今すぐにでも立ち上がってこちらに詰め寄ってきそうな剣幕だ。
「ないけど、マチアプ使うとかどんな奴が来るか分からんし危ないやん」
「それで何で『自分と』って発想になるんだよ。お前の方がおかしいことだらけだわ」
先刻の俺のセリフをなぞるようにして、ないこはため息をつく。
「大体お前、男同士でどうやってやるかも知らなそうじゃん」
「どうやってやるん?」
「……まじか……」
がくりとうなだれるように両肩を落とし、椅子に座り直す。
怠惰に背中を丸くして背もたれに預けた。
「BL漫画とか読んだことない?」
「あるわけないやろ」
ないこじゃあるまいし。
そう言えばこいつはその種の漫画まで手を出す雑食タイプだった。
ごくごく普通の道しか通ってきていない自分には、全く理解できない領域だ。
「…本当に話になんないって、お前」
「じゃあやり方覚えたらいいん?」
「そういう問題じゃないって…!」
さっきまで余裕ぶって俺をあしらおうとしていたはずのないこが、声を荒げる。
「もう帰るわ」なんて言って話を切り捨て立ち上がるから、俺は思わずその手首を掴んでいた。
「帰るって、やっぱりさっきの電話の相手と…」
「行かないよもう! そんな気分萎えたわ」
ふん、と鼻を鳴らして、ないこは掴まれた手首を上下に強く振った。
振り払われた手は少し痛んだけれど、それと反比例するかのように内心で安堵の息を漏らした自分もいた。
コメント
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桃さんを必死に止める青さんが見てて可愛いです...💕 桃さんを止められてほっとしてるということは、もしや、!?とにまにましてます😖💘 タイトルのアプリはマッチングアプリのことなのでしょうか、!!?✨✨ 楽しく読ませてもらって最高でした...🥹💓