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「さっきのは、凄く性格悪いと思う」
「良いだろう、皇太子の特権だ」
「それを付ければいいと思ってるんじゃ無いでしょうね!?アルベドは、いつもの事か見たいな顔してたけど、ブライトは深刻そうな顔してたんだからね!?」
「ほぅ、そこまで見ていたのか。観察眼だけはあるようだな」
「馬鹿にしてる!?」
船は予定通り出航した。
以前、ラジエルダ王国に行くための海路を、世界地図なるものを見せて貰ったが、地理系には詳しくないので、見てもちんぷんかんぷんだった。ここに何があって、あそこに何があるかぐらいはよく分かるのだが、目で見たものしか信じないタイプなので、あの島から島まで何千㎞と言われてもピンとこない。
今の時点では、ラジエルダ王国は見えなかった。と言うか、空模様もよくないし、今にも雨が降ってきそうだった。嵐になると誰か言っていたし。
そうして、私達は、隣に並んで話しているわけだが、聖女と皇太子の間に割って入って話せるような人などおらず、近寄らないでおこうと、周りが私達を避けている状況。だから、多分どんな会話をしたところで大きな声さえ出さなければ聞えない。聞かれたくない内容なんてまあ無いけれど。
(それはいいとして、本当に雨が降ってきそう……)
先ほどまで少し穏やかだった海は荒れ始め、船の揺れが激しくなってきた。遠くて雷雨がなっている。この状況で本当にラジエルダ王国に着くのだろうか。
ラジエルダ王国に着いて詳しく知らないし、皆もそこまで知らないようだから、ここに知っている人が一人でもいればイイのだが。
(アルベドは、別の船に乗ってるみたいだし……グランツは)
あの亜麻色の髪の護衛のことを思い浮かべて私は首を横に振った。裏切った人の事なんて考えても仕方がないのだ。今は、自分の事を考えなければならない。
それはそうと、アルベドは公爵家が作った船に乗っているらしく、私達とはかなり離れている。いくら、同盟を結んだからと言えど、闇魔法の家門であるレイ公爵家を信じられない人がいるのだろう。そういう配慮か、それともこちら側が勝手にそういう風にしているのか。どちらにしても、アルベドが乗っている船の乗組員達は良い気持ちにならないだろう。
(この戦いが終われば、アルベド達が功績を残せば、闇魔法と光魔法のわだかまりが解消できる?)
アルベドの狙いはそれのような気がしたからだ。
アルベドの夢は、きっとそれだろうと、私は前々から考えていた。彼は、闇魔法の人達の仲でも異端とされ、光魔法は勿論闇魔法がと差別され孤独だった。だからこそ、どちらも恨みつつ、どちらにも理解されたいと思っていたに違いない。そういう理由があってか、今回の同名を持ちかけたのでは無いだろうか。
あくまで私の想像だけど。
「船酔いでもしたか?」
「え? 何で?」
「顔色が悪いと思ってな。確かに、波も荒れているが……嵐になるという予報だったしな」
「あーうん。船酔いはしてないけど、揺れるなあとは思ってる……リースは大丈夫なの?」
「俺の心配をしてくれるとは、本当にエトワールは優しいな」
ふわりと微笑みかけられ、久しぶりのリースの笑顔に、心臓が飛び出そうだった。
(は、反則過ぎる!)
今すぐうちわを振って、ファンサ、ファンサ! と叫びたいところだが、私はグッと堪えた。中身は、遥輝、リース様じゃ無いと。
それでもその笑顔が優しくて温かくて、心がぽかぽかと優しい気持ちになる。
本当に反則だ。
「違うわよ。だって、アンタがいないと指揮が執れないし……リースがいてこそ、今回の戦争は勝利を掴めるんじゃ無い?」
「俺に対する期待が大きいな。それは、エトワールも同じじゃないか」
「私には誰も期待してないわよ。本当の意味で」
自分が救われたいが為に縋るのは、本当の期待じゃないと思う。初めから、期待というものはそういうもので、今回私にかけられている期待は、完全に自分たちが助かりたいから、助けてくれという期待なのだ。
自分たちは何も出来ないし、したくないって言う逃げ。
初めから期待してくれていたなら、それに応えたいとは思うけれど、帝国民の殆どは私のことを偽物だと扱った。それなのに、今はトワイライトがヘウンデウン教の手に堕ちて、彼奴が偽物だったんだとか言いだして、鞍替えす。そんな人達を守りたいと思うえるのか。
(私は、性格悪いからなあ……)
トワイライトなら、あのヒロインと言える笑顔と優しさ、慈愛に満ちた子なら、そんな人達も等しく救っただろう。でも、私は違うから。
そう言って、私は胸の前でギュッと拳を握る。震えている拳に、温かい手が重ねられた。
「リース?」
「……怖いのは分かる。だから、無理をしなくていい」
「でも、期待には応えるって決めたから……期待というか、私が成し遂げたいことのために、戦うって決めたの」
「お前は強いな。矢っ張り、変わったと思う」
「…………変わってないと思う。変わったというよりかは、昔に戻ったというか。アンタ、私の過去見たでしょ?」
「不本意ながらにな」
と、リースは申し訳なさそうに言う。
そんな顔する必要ないのにと私はもう片方の手でリースの手を握る。
私も、リースの過去を見た。同じように家族関係に悩まされてきたと。でも、リースは私と違って強かったから。確かに、私と同じで親友の助けはあったかも知れないけれど、それでも独りで生きていけるほど強かった。それが、私とリースの違い。
「努力は出来るの。目標があれば努力できる……継続力もかなりあるの。ただ、めんどくさがって、最近は楽な方へ逃げているだけ」
「そうか……」
「だから、変わってない。でも、変わったって言うなら、アンタのこと知れたからかな」
「俺のこと?」
「あ、ごめん、今の無し!」
私は慌てて、リースの手を離した。リースは名残惜しそうに手を見つめて、柔らかく笑う。どことなく傷ついたようなかおをするので、私の良心が痛んだ。
(そんな、寂しそうな顔しなくても良いじゃない。たかが、手を離したぐらいで……)
でも、好きな人に拒絶されるほど悲しいことってないんじゃないかなあとも思った。ちょっと自惚れが入るけれど、それでも、私も両親が初めのうちは好きだった。だから認めて貰いたくて、頑張って、拒絶されて勝手に傷ついた。ただそれだけ。
(でも、変わったって言うのは確か。リースの過去を知って、過ちに気づいて、それから色んな人と向き合ってみようって思ったのは)
ブライトのカミングアウトや、アルベドがパートナーとしてついてきてくれたからもあったかもだけど。一番は、一番知りたかった人の心の内を知れたことだろうか。
暴走したリースを思い出すのは怖いけど、あの時救えてよかったなとか、あの時行動出来てよかったなとか、達成感はあった。あの時逃げずに向き合えたからこそ、今があると。
「えーっと、じゃあ、話逸らすけど」
「何故、それをわざわざ口にして言うんだ? それに、先ほどの話が気になって仕方がない」
「あれは忘れてっていった。早く忘れて」
「気になって、夜しか眠れないだろ」
「夜寝れたらそれでいいじゃない!」
そんな冗談も言うのかと、思わず笑ってしまった。私の笑顔を見てか、自分で言ったことが笑えたのかリースもプッと吹き出した。
付合っていた当時は、こんな風に笑い合えなかったのに、不思議だ。
「エトワールがそれほど言うなら、仕方がない。それで、何の話なんだ?」
「トワイライトを……トワイライトを見つめても殺さないで欲しいの」
「トワイライト……ああ、お前の妹だと豪語していた少女のことか」
「あのね、言って置くけど、一応あの子がこのゲームのヒロインなの。それで、私は悪役になるはずだった存在なの」
「そういう設定だったと、長らく忘れていたな……そうか」
そうか、何て軽い言葉で片付けられたらたまったもんじゃ無い。そう思いながらも、リースに頼み込んでいる形だし、機嫌を損ねるわけにはいかないと私は心を落ち着かせる。
(こちら側としては、トワイライトは裏切った聖女になるし、見つけ次第処刑しろ的な雰囲気なのかも知れないけど……あの子は混沌の手によってああなってるだけで)
元は良いこなんです、何て言葉が簡単に通用するわけじゃ無い。でも、リースに言っておけば、周りもそれに従わざる終えないだろう。
リースは、考え込んだ末に「分かった」とだけ、短く言った。
「本当に!?」
「エトワールの頼みだからな。それに、トワイライトが死んで、お前が悲しむ姿を見たくない。大切なのだろ?」
「うん、とっても大切なの。本当の妹みたいで可愛くて。私に妹がいたらあんな感じだったのかなって……」
実際にいないからこそ、いれば良いなとは常々思っていた。
そんな感じに、和気あいあいと喋っていると、ぽつ、ぽつりと雨が降り出した。一気に波が荒れ、船が揺れる。
私はバランスを崩し、リースにもたれ掛るような形で倒れ込んだ。
「大丈夫か、エトワール」
「う、うん。ありがとう」
ドキドキと煩い心臓を抑えながら、私はリースの顔が見えずにいた。
(何で?)
顔まで熱くなっている。いつも良くあることなのに、そう思っても、こういう緊張した場面だと吊り橋効果ならぬものが発症するのかと。
そんなことを一人で考えていると、船の甲板にいた人が叫んだ。
「敵襲、敵襲――――ッ!」