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「ナオトォ~!パンが、パンが〜!!」
給食の前の掃除中、
教室のドアが勢いよく開き、月島ももがトレーを持って飛び込んできた。
「……またパン落としたのか?」
直人はももを見るなり、うんざりしたように言った。
「ちがうよ!?パンが空飛んだの!ガチで!」
「おまえの”ガチ”はガチじゃないんだよ……」
直人は、ももに近づき、疑う。
「な、何?!嘘じゃないからね!」
「本当に 屋根にのっていたんだから!」
「…..なんで屋根?」
「私がさ、給食運んでたらさ、前から来た一年生とぶつかっちゃって、それでパンがこう、ポーン:って空に浮いて、それで風が、ぶわっ!ってきて、そしたらーー」
「うん、もういい。つまり、飛んだっていうか飛ばしたんだろ」
「でも見て!まじで屋根に刺さってるから!」
教室の窓から見える体育館の屋根に、確かに、コッペパンが立っていた。
……確かに、刺さっている。
「……どういう物理法則だよ」
「ナオトも飛ばしてみる!?次、あんパンでやってみようよ!」
「やめろ、給食係に怒られる」
そして、ももは本気でこう言った。
「ナオト、私さ…..パンを、空に帰したいんだよね……..」
「パンは宇宙から来てないけどな、」
「うるさいぞ、月島ア!!」
体育教師の怒鳴り声が廊下から響いてきた。
「…..あ、ヤバッ」
そして、ランチルームに行く2人
ランチルームでは、人が沢山いて混雑している。
ももは、ピンと背筋を伸ばし、
まるで何事もなかったかのような顔で、直人の目を見ずに牛乳をちゅーっと吸いはじめる。
(遅えよ……)
直人は心の中で突っ込みながら、そっとため息をついた。
「でさ、ナオト……」
牛乳を飲み終えたももが、真剣な顔で言う。
「パンって……自由じゃない?」
「え?」
こいつは、本当に何を言うのやら、
「ほら、だってさ、ふわふわしてて、焼かれてて、トングで掴まれても文句言わないしーーでも風が吹いたら、ふわっとどこかに飛んでっちゃうじゃん。もう……自由の象徴って感じじゃない?」
「お前が言うと、全部台無しになるんだよな」
あと、本当はふわっと、パンは飛ばねぇよ。
「えっ、めっちゃ詩的じゃない?ナオト今、感動して泣いた?」
「泣かねぇよ」
ももは口を尖らせたかと思えば、急ににやっと笑った。
「….ナオト、今日の放課後さ、パン、飛ばしに行かない?」
「いや何の誘いそれ」
「だってあれ、絶対もっと飛ぶよ。私さ、飛ばせる気がするんだよね!今日の私、風を読める気がする!」
「…..それ、占い師とかが言うやつじゃん」「えへへ、じゃあ決定~〜!屋上集合ねっ!」
「ちょ、勝手に決めんなって!」
ももは立ち上がり、給食トレーを片手にスキップするように廊下へ飛び出していった。
「……本当に、止まらねぇな、あいつ」
そうつぶやいて、直人は残された自分のパンをじっと見つめた。
ふと、パンの端が、少しだけ揺れた気がした。
(まさかな……)
彼は頭を軽く振って、トレーを持ち上げる。
その頃、廊下の先ではーー
「うわあああああああああ!!」
ももが廊下に思いっきり滑って転んでいた。
パンは、見事に空中で回転しながら、
再びーー
飛んだ。
「もも、大丈夫かっ!」
直人が急いで廊下に出ると、床にぺたんと座り込んでいるももが、じっと天井を見つめていた。
「……飛んだ……」
「何が?」
「パンが……一回転半して、逆さまで飛んだ…..。
そして、消えた……」
「消えたってなんだよ…..って、うわ」直人も見上げた先一一廊下の開いた窓の向こう、空には、パンが旅回しながら見事に落下していく姿が見えた。二人はしばし、それを見送る。
「…..スロー映像みたいだったな」
「うん……あれ、オリンピックで金取れるレベルだった」
「パン投げ種目とかないから」「じゃあ私が作る!」
「やめてくれ」
立ち上がったももは、なぜか、床に転がっていた、給食のミカンをぺりっと剥がして直人に見せた。
「見て、ミカンが私に忠誠を誓ってる!」
「その前にお前、ミカンに謝れ」ふたりは笑い合いながら保健室に向かった。
ももの歩き方は少しぎこちなく、直人は黙って隣を歩く。
それでも、どこか楽しそうだった。
パンが飛んだ午後は、ちょっとだけ、空が広く見えた。
その日の放課後。
「ナオト!屋上いこっ!」
…….まだやるのかよ
「もうパンないから、今日は紙飛行機にした!」
「……まあ、それならいいか」
てか、まず、パンないだろ……
二人は屋上へ向かい、夕焼けの中で、いくつもの紙飛行機を飛ばした。
ももは何度も失敗しながらも、笑って、また折り直した。
そして一機の飛行機が、ふわりと風に乗り、遠く へ遠くヘーー
「……飛んだ!」
「…..お前も、少しだけ風を読めたな」
「でしょ!?やっぱ今日の私は、風の巫女……!」
「調子乗るなって」
夕焼け空に、笑い声が響いた。
翌朝。
教室の窓から差し込む朝日が、教室の隅々を温かく照らしていた。
ももは、昨日の”空飛ぶパン事件”を思い出しながら、机を見ていた。
「ねぇナオト」
「ん?」
「パン、もう一回飛ばしてみない?」直人はノートを広げながら、少しだけ苦笑した。
「もも、昨日のはただの無然だって。パンは飛
ばねぇよ」
「そうかなぁ?だってあの時の風、完璧だったもん」
「完璧ってお前、本当に風の女王か何かかよ」「うふふ、ナオト、あたしはパンを空に返す使命があるんだよ」
「…..使命は大げさすぎる」
授業が始まるチャイムが鳴り、先生の声が響き渡る。
「さあ、今日は理科の実験を始めます。テーマは『空気の力』です」
ももは目を輝かせた。
(空気の力……これって、もしかして……!)
放課後。
校庭の片隅で、ももは小さな紙袋を抱えていた。
「ねえ、ナオト!今日は絶対、パンの耳を飛ばす方法
見つけるよ!」
直人はももの手から紙袋を受け取った。中には、パンが何枚か入っている。
「またパンの耳か……」
てか、なんで食パン……
「これ、きっと魔法の明になる!」
「そんなわけねえだろ」
「じゃあ、実験だ!」
ももはパンの耳を空に向かってぱっと投げた。ふわりとパンの耳が舞い上がる。
「見て、見て!パンの刃が空を舞う!」
直人はじっとそれを見つめていたが、ふと顔をしかめた。
「…..おまえ、パンで遊びすぎだろ」「遊んでない!研究だよ!」
夕暮れ時。二人は校庭の芝生に座りながら空を見上げていた。
「パンは、きっと自由に飛びたいんだ」
「おまえも自由に飛べよ」
「飛べるもん!」
「いや……おまえは地に足つけるよ」
ももはくしゃっと笑った。
「じゃあ、明日も一緒に飛ぼうね、ナオト」
「……はいはい」
そんなふうに、
“空飛ぶパン”の物語はまだまだ続くのだった。