テラーノベル
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「ナオトオーーー!海いこ!今すぐ!水着はもう着てる!」
「まだ朝の7時だぞ」
夏休み3日目の朝、直人の家のインターホンが怒涛の連打で鳴らされていた。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン。
「まさかとは思ったけど……ももだよな」
玄関を開けると、そこには浮き輪を腰に巻き、麦わら帽子にラッシュガード、手にはスイカを持った夏の怪物・月島ももが立っていた。
「スイカ割りも準備オッケー!バスは8時に出るよ!もう1時間しかないよ!早くパンツ履いて!」
「いやもうパンツは履いてるわ」
海行きのバスの中でも、ももは止まらなかった。
「ナオト、日焼け止め貸して!」
「持ってない」
「え、ナオト、夏に日焼け止め持ってない人類な
の!?レア種!?」
「おまえは持ってるの?」
「持ってないよ!!」
「じゃあ言うな!!」
「だから聞いたの〜」
海に着くなり、ももは大はしゃぎ。
「見てー!海って潮の味するー!!」
「そりゃそうだよ」
「でもさ……この水、飲めないのって…..かわいそうだよね…….私たち」
「海に感情移入すんな」
そのあと、スイカ割りでは人のいる方向にスイカを投げつけて叱られ、(てかなんで、スイカ投げてんだよ……)
砂浜では貝殻を集めるふりして貝の中に砂入れて遊び、
結局最後はナオトのTシャツを勝手に自分の濡れた体を拭いて俺に怒られた。
「…..もも、ほんとマジで止まらんな」
「えへへ、夏だし!」
浜辺に打ち上げられたように、ももは大の字になって寝転んでいた。
空は真っ青で、遠くでカモメが鳴いている。足元では波がさらさらと砂をさらっていく。
「ナオトー、泳ぎ疲れたー。ナオトも寝転がってよ、波と一体になる?」
「一体になってどうするんだよ。っていうか、おまえ日焼けやばいぞ?肩とか真っ赤」
「うそ!?ちょ、ちょっと見て、ナオト、触って、これ火事じゃない!?火事の皮膚じゃない!?」
「火事の皮膚ってなに……」
「ねえ、ナオト。帰りにアイス食べよ!チョコミントがいい!」
「さっきポテチ食ってたじゃん」
「ポテチはポテチ!アイスはアイス!これは別腹の概念!”ベツバラ”っていう日本語を発明した人はノーベル賞とってほしい!」
「おまえ、夏になるとテンション三倍くらいになってるな……」
「えっ?普段のわたしってそんなテンション低いの?じゃあ今くらいが普通でしょ?」
「いや、今が非常識だろ」
帰りのバスでは、さっきまで元気だったももが、ナオトの肩にもたれてぐっすり寝ていた。
「…..おまえ、ほんと子どもみたいだな」
直人はため息をつきながらも、その顔をちらりと見て、ふっと小さく笑った。
ももの寝顔は、無防備で、ちょっとバカっぽくて、でもどこか憎めない。
バスは揺れながら、夕暮れの街へと走っていった。
翌日、ピンポーン。
「……誰だ?」
玄関のチャイムが鳴り、直人がのんびりした声で聞くと、
「ナオト~!ももだよー!」
ももが元気いっぱいに声をかけてきた。
直人はドアを開けると、ももはリュックを背負い、サングラスを首からぶら下げている。
「朝からパワフルだな」
「夏は朝から元気じゃなきゃダメでしょ!」
「そうだけどさ…..寝てる時間はないのか?」
「ももは昼寝?そんなの必要ないよ!」
「何言ってんだこいつ」
そう言いながらももは、いきなり直人の家に上がり込み、ソファにどかっと座った。
「ナオト、ゲームやろ!スマホも持ってきたから、一緒にするよ!」
「え、ももゲームできるのか?」「もちろん!スマホのゲームはバッチリだよ!…..って、えっ、今、ナオトの目が死んでる…….?」
「いや、ちょっとその準備がめんどくさいだけだ」
ももは笑いながらスマホを取り出し、直人に画面を見せる。
「ほら!これが新作のバトルゲーム!めっちゃおもしろいから!」
直人は半半疑でスマホを受け取った。
「じゃあ、負けたら…..二学期の給食のパン、3日分お
ごりな」
「ふん!負けないよ!」
二人はゲームに夢中になった。
時々ももは奇声をあげ、直人は苦笑いしながらコントローラーを握った。
「….なんか、ももといると時間が早いな」「でしょ!夏休みってそういうもんだよ!」
「俺もそう思う」
窓からは蝉の声が響き、夏の午後がゆったりと過ぎていった。
夕方になり、ももは荷物をまとめる。
「また来るからね!」
……もう来週も来る気だな」
「その予定~!」
にぎやかな夏の日々は、まだまだ続く。
あ、あと ももは給食のパン奢りになりました。
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