休憩が終わり、俺は坂道をその先にある地獄へと歩いていくことにした。音星も一緒に来てくれるそうだ。
それにしても……。
う、うっぷ……。
腹がはち切れそうだった。
「火端さん。そんなに食べるからですよ。大丈夫ですか? まだ休憩していた方がいいですよ」
「いや、大丈夫だ。おじさんの特性大盛りご飯にはもう慣れたよ……うっぷ」
「もうー、そんなに頑張って全部食べなくても」
「ははっ、う……うー。うっぷ……」
殺風景な坂道を大勢の死者たちと歩いた。
閻魔大王が台座から、こちらをチラっと見たので、俺と音星は頭を下げた。
延々と続く坂道は、そのまま門を潜り抜けると、今度は急な下り坂になっていた。
下り坂をひたすらに降りていくと、それぞれの地獄へ行く巨大な洞穴があった。洞穴には細長い立札が、まるでお墓の塔婆のようにあって、等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄と書いてあった。
叫喚地獄。
大叫喚地獄。
あったぞ。
延々とした下り坂を降りていくと、大叫喚地獄の入り口の洞穴を見つけた。
空は相変わらず鳥もなく。風もなく。
殺風景なところだ。
そんな中に、洞穴が大口を開けている。
妹はこんなところから、大叫喚地獄に再び戻って行ってしまった。
罪悪感?
そんなに大したものだろうか?
確かに罪悪感は恐ろしいものだ。
けれども、俺はどうしても妹を救いだしたかった。
音星も来てくれているんだし。
これは……ひっぱたいても妹を地獄から救いだしてみせるよ。
あの世のことだ。
後はあの世に任せてみようと思う。
運が良ければ仏様が何とかしてくれるかもしれないからな!
大勢の死者と共に音のしない洞穴をくぐると、そこは意外にも明るかった。人魂が洞穴の天井に所狭しと浮かんでいたからだ。
「あ、そこ大きな石があるから足元に気をつけて」
「はい。こんなに明るいのに気づきませんでした」
洞穴は、外と同じく下りの坂道になっていて、先に進むと、段々と坂が急になってきた。両脇を音もなく歩いて行く死者たちも、殊の外歩く速度が速くなって来る。
俺も音星も半ば早歩きで、下り坂を降りていくと、広い空間にでた。
「あれ? ここは? また坂道だ」
「ええ、それにしても、とても広いところですね」
俺たちは、そこで坂道を進んでいくと遥か向こう側に、巨大な扉がそびえ立っているのを見つけた。
その扉の両側には、恐ろしい形相の大きな鬼の銅像が二つ置かれてあった。
鬼の銅像は、どうやら右が青い色の身体をしていて、左は赤い色の身体をしていた。扉よりも大きな二つの鬼の銅像は、両腕を上げ、扉を通って行く大勢の死者たちに向かって、威嚇しているような何かに怒っているような姿勢をしていた。
俺は扉へと、妹を探しながら慎重に歩いて行った。
終始。絶え間ない死者たちの群れに混じって、弥生がどこかにいるはずだと俺は目を皿のようにしていた。
だけど結局、弥生は見つからずじまいだった。
とうとう、俺たちは大勢の死者たちに混じって扉をくぐってしまった。中は真っ暗闇だった。鬼か獣かの咆哮が周囲に木霊している。今更だけど、もう戻れないし、やっぱり生身で地獄にいるのは、とても怖いや。
俺は音星の手を強く握った。
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