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「青い空」
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その日も街のおまわりさんことつぼ浦匠はロスサントス中の小型犯罪現場を駆け回っていた。
そもそも出勤している警官が少なく、同僚たちは大型犯罪の対応に追われて息つく暇もない。そんなときこそサボる口実、いや小さい犯罪にも手を抜かず見て回るのが市民に寄り添う特殊刑事課だ。
今日も大型対応の影で暗躍しようとした犯罪者に悲鳴を上げさせ、人質の白市民にもなぜか悲鳴を上げられ、血と泥にまみれて駆けずり回った。いくつもの事件対応ののち、解放条件として出された犯人との拳のタイマン勝負で負けたつぼ浦は道端に転がって空を眺めていた。
お腹が空いたな、最後に食べたのはなんだったか。傷の痛みよりも腹の寂しさのほうが体に堪える。はらぺこで仕事をするなど特殊刑事課にあるまじき行為だが、それすら気を配れないほど今日は特に忙しかった。
大型の対応で忙しいのだろう、救急隊も一向に来ない。重たい目でぼんやりと眺めていた遠い空を不意に白い機体が切り裂いた。つぼ浦が道のど真ん中に乗り捨てたパトカーを器用に避けて着陸する。軽やかに舞い降りた警察ヘリから青井が駆け足で降りてきた。
「アーティ終わったし、近かったから拾いに来たよ」
「本当っすか、さすがアオセンっすね」
「お前どうせうるさいからって無線抜けてたでしょ、救急忙しいから迎えに行くって言ったんだけどね」
「あー、おもしろ犯人との交渉には繊細な判断が必要なんで」
どんな判断だよ、と苦笑しながら青井はつぼ浦のパトカーをインパウンドしている。青い鬼の面のいかつさとは程遠い長閑な声が今は胸にしみた。
青井は地面で伸びているつぼ浦を抱えあげ、ヘリの助手席に押し込む。たちまちに機体は舞い上がり、目の前が空に変わる。地平線に行くほどに白む青の中を行くヘリは、さながら風向きを気にせずまっすぐに飛ぶ雁のようだった。
「走り回ってたみたいじゃない」
「やばかったぜ。まず西銀だろ、そのあとコンビニ、通りすがりのカージャックを追いかけてたらまた銀行だ」
「犯人は?逮捕できた?」
「おう、今回以外はな!敗因は病院行くヒマがなかったせいだから実質勝ちっすよ」
頭に痛みを抱えてのタイマン勝負はなかなかに分が悪かった。もっと早くにバットを持ち出すべきだった、と愚痴るつぼ浦を見て青井は小さな声で笑った。
「お前頑張るねぇ」
「市民を守るのが特殊刑事課だからな」
「本当、えらいよ、つぼ浦」
噛みしめるような声だった。青井が伸ばした右手が茶色の髪をくしゃりと撫でた。そのまま頭を優しくぽんぽんと叩き、乱れた髪を軽く手櫛で直す。
「お疲れさま」
「……お、おう」
優しい声だった。突然何をされたのかがわからず、つぼ浦は操縦桿に戻される手をただ見送った。
そのあとの病院につくまでのきっと他愛のない話を、つぼ浦は思い出すことができない。横に座る鬼の顔の先輩が、自分を褒めて労ったのだ、と気づくのにそれだけの時間が必要だった。
たしかに今日は辛かった。警察が来て喜ぶ犯罪者などいない。日頃の悪評を知る白市民が諸手を上げて特殊刑事課を歓迎するわけでもない。最後の事件も、あのまま誰も来なかったら見上げるだけの青い空に押し潰された心が”記憶をなくす”ことを選択したかもしれない。
つぼ浦匠のことはほとんどの人が裏表のない明るい男だと言うだろう。その心に潜む他人に見せることを好まない弱さが、闇が、押し殺した苦しみが、青井がくれたただ一つの暖かさで吹き飛んでしまった。
*
その夜、つぼ浦は一睡もできなかった。
つぼ浦にとって青井は空だ。常に上方に在り、ロスサントスを守る翼だ。その優しい声は安心を引き連れ、誠実さは信頼を呼び寄せる。
今更言葉にする必要もないほどに信じている人がくれた、唐突な優しさ。しかも本当に救いを必要としている瀬戸際に。青井の撫でてくれた手の感触が、その暖かさが心を揺さぶって離さない。
ぼんやりした頭で出勤したところで無線にいつものような元気な挨拶もできなかった。つぼ浦は寝不足で痛む頭を抱えて風に当たろうと屋上に足を運んだ。見下ろした駐車場では青井と猫マンゴーが何やら話をしていた。
青井の姿を見ると胸がざわつく。たまらず目を逸らそうとしたとき、青井の手が猫マンゴーの頭をわしゃわしゃと撫でる様子が見えた。
「ッ……!」
水分は足りているのに喉の渇きを覚えた。ぞわりと背筋が寒くなる。名前のつけられない淀んだ感情が腹の中にあった。
闇が拭い去られた場所にはただ大きな空白があった。拭われなければ気づくこともなかったその空白は、どれほどの大きさの闇がそこにあったのかをありありと知らしめた。
青井に撫でられた猫マンゴーは嬉しそうだった。つぼ浦がそうであるように、青井の優しさは沢山の人を支えているのだろう。
それはひどい飢えだった。限りの見えないものに夢中で手を伸ばすかのような、足るを知らない渇きだった。無謀が脳裏をかすめるも渇望が身体を突き動かす。
「……何したらアオセンまた褒めてくれるかな」
呟いた言葉は風にさらわれ虚空に溶けた。
事件対応が終わり、時計が3時を過ぎた頃、成瀬は屋上でヘリの修理をしているつぼ浦を見つけた。車ならまだしもヘリの面倒を見ているのは珍しく、成瀬は面白半分でつぼ浦に近づく。
「つぼ浦さん、最近どうしたんです?めちゃくちゃ働くじゃないですか」
「そうか?俺はいつも真面目だぞ」
本気か嘘か分かりづらい調子で返され、成瀬は言葉を探す。
実際、ここ数日のつぼ浦の働きは大したものだった。銀行強盗などの小さな犯罪はもちろん、大型犯罪にすら殴り込み、花火のように散るか嵐のように犯罪者を討ち取っていく。頭が痛いからと嫌がる指名手配リストの更新もしっかりやってのけていた。
明らかに普段と違うことには成瀬も感づいていた。ここまで極端につぼ浦の行動を変えさせるものがあるとすれば、金か、あとはもういくつかしか思い浮かばなかった。
「キャップになんか言われました?」
「ああ、ボーナス請求するの忘れてたな。さすがカニくん、思い出させてくれて助かるぜ」
「……らだおとなんかありました?」
「アオセンと?どうしてだ?」
少し息を呑み、それからきょとんとした顔でつぼ浦は首を傾げる。どうせキャップか、さもなくば対応課の青井関係だと思った成瀬はいまいち手応えのない返答に面食らう。
「あ~、なんもないならいいんすけど。あんま無理しないでくださいね」
「残念だったな、無理したことなんてないぜ。無理ってのは無理だから無理なんだぞ」
埒のあかないトートロジーを言い出す顔は笑っていた。そのいつもの笑顔の裏に不穏さの影を感じたが、成瀬にはそれを指摘することはできなかった。
つぼ浦の異変に気づいたのは上司のキャップも同じだった。流暢でウィットに富んだ文体で書かれた犯罪者のプロファイルを睨み、唸り声を上げる。事務作業を嫌がるのに、いざやると及第点を遥かに超えるホームランを出してくるのがつぼ浦らしい。性根の奥底から滲み出す生真面目さのギャップで頭が痛む。
「あ、らだおくん、ちょうどよかった。つぼつぼの様子気にならないか?」
「えー、また悪さしましたか?」
たまたま通りかかった青井を捕まえ、キャップは問いかけた。つぼ浦関係で声がかかるのは対応課としてのことが大体なので、青井はため息混じりにキャップを見た。
「いやその逆だ」
「逆?」
首を傾げた青井に、キャップは今までの実績を伝える。コンビニ強盗から始まってカーチェイスの末の大捕物まで、心を入れ替えたかのような活躍にさすがの青井もその感情の乗らない声で感嘆する。
「というわけで、今日も4人くらい逮捕してたな。あいつ本気出せば強いのにな」
「へぇ、雪でも降るかもしれないですね」
「あんなに頑張ってるならランクを上げてやらにゃならんかもしれん」
「案外、なにか欲しいだけなのかもしれないですよ」
「確かに。ランクよりもロケランのほうがいいか、いや、しかしだな……」
喜びと困惑と不安を混ぜて伸ばしたような顔でキャップは腕組みをしている。不真面目だったはずの部下の突然の豹変に戸惑うキャップを置いて、青井はゆっくりその場を後にした。
青井とて気づいていなかったわけではない。大型対応のために無線を分けたときにもつぼ浦がいた。ヘリで犯人をピックし、からくも現場から離れるときにも地上で時間稼ぎをするつぼ浦がいた。視界の隅に入っていることは気づいていた。頑張る姿はいじらしく、破顔するに値する行いだった。
何かを変えることへの恐怖と変わらないことへの不満なら、青井は喜んで後者を選ぶ。変えようとして後悔するくらいなら、変化のないぬるま湯のほうがましだ。それがそれ以上の青井の行動を止めさせた。
廊下で考えを巡らせていると、地下に続く階段からつぼ浦がうきうきと駆け上がってきた。青井の顔を見るなりぱっと目を輝かせ、いそいそと寄ってくる。
「アオセン、その……今日は3件片付けましたよ!」
何かを期待する目だった。無邪気に言うさまは子犬みたいだなと青井は思った。
「どうしたの?ここのところすごい頑張ってるみたいだけど」
「アオセン、真面目なの好きっしょ」
「そりゃあね、そりゃ普通そうでしょ」
「だからっすよ」
「え、そんなことで?」
それは本当になんの気なしに青井から出た言葉だった。そんなこと、という言葉が鋭いガラス片のようにつぼ浦の胸にずきりと刺さる。痛みの理由はわかるがなぜこんなにも痛いのかがわからない。突然顔を曇らせた自分を見て戸惑っている青井に気づき、つぼ浦は努めて明るい顔で口を開いた。
「アオセンの役に立てるなら嬉しいっすよ」
「ああ、そうなんだ。ありがとね」
柔らかい声だった。きっと仮面の下でも微笑んでいるのだろう。じわりと広がる暖かさがつぼ浦の空白を抱えた心に染み、疲れも迷いも溶かしていく。
だが青井の手が頭に伸びることはなく、背を向けて歩み去ってしまった。
つぼ浦にとって青井は空だ。温かい太陽も冷たい月も引き連れる絶対的な存在だ。
空は誰かを贔屓などしない。誰かの頭上を避けることもない。
あまねく広がる空をこの手に入れるためには無謀にも手を伸ばし、届くところまで落ちてこいと吠え立てなければならないのだ、とつぼ浦は気づいた。
その日はパシフィック銀行の強盗が可能な曜日だった。署員が警戒する中、案の定通知が入り、慌ただしく現場へと出動していく。
青井もヘリを駆り、上空からIGLをしていた。流れていくダウン通知と飛び交う無線に耳を澄まし、チェスのように全体を統括していく。
珍しくつぼ浦が対応にあたっていることは青井も把握していた。最近無鉄砲なつぼ浦が無茶をしないかが気になり、時折黒いSWATの服を着た彼が配置された屋上の上を旋回する。
戦況は刻一刻と移り変わる。要衝に配置したはずの同僚のダウン通知を見て、手早く作戦を変える。
『つぼ浦、向かいのビルに移動させるからヘリ乗って』
『ああ、いいぜ』
揚々とした返事を聞き、青井はつぼ浦のいる屋上へとヘリを近づけた。しかしもう少しのところで地上から無数の銃弾が撃ち込まれる。たまらずヘリを上昇させた青井の目に、屋上の縁から犯人に向けて撃ち返し、そして弾丸を食らって倒れるつぼ浦が見えた。
とっさに叫びそうになったが、煙を吹くヘリを盾にしながら屋上に着地させる。つぼ浦は頭から血を流して倒れていた。慌てて包帯を取り出し傷の処置をしていると、辛そうに呻いて目を開けた。
「なんで無理したの」
「だってアオセン、撃たれてたから」
撃たれていたから撃ち返す、これ以上ないくらい当然な答えが返ってくるが、胸の奥がじわりと痛む。
「いつもパシフィックなんか来ないじゃんお前、なんで来たの」
少しの苛立ちが声に出た。血を流す左手を取り、傷に包帯を巻こうとしてふと古傷に目が止まった。マメが潰れた跡と、まだ治っていない割れた爪を見て、これが気まぐれや一時の衝動ではないことを青井は感じ取った。
この後輩はどういうわけか至極真面目にずっとずっと犯罪対応をし続けていたのだ。おそらく青井が見ていないところでも、ずっと。
「……なんで、こんな無理してたの」
無意識に語尾が震えた。青井の頭に浮かぶのは厳しい言葉ばかりで、目の前で苦しむ後輩の無茶を優しく問いただす言葉が思いつかない。
「前……褒めて、くれたじゃないっすか。頑張ったねって、頭、撫でてくれて」
つぼ浦は泣きそうな顔ではにかんだ。そう言われて青井の脳裏にもあのときの情景が思い浮かぶ。
あの日も度重なる事件対応でつぼ浦は疲れ切っていた。そんなときに伸ばしてしまった手がどれくらい重かったのかを悟り、青井は言葉に詰まる。
「まさかそれで、……」
「また、撫でてほしくて」
それは祈りにも似た願いだった。青井は空で、つぼ浦にとって全てだった。その空に向けて伸ばした傷だらけの手を、青井は強く握りしめた。
「そんなのでよければいくらでもやるよ」
そのまま強く身体を引き寄せ、両腕を背中に回し抱きしめた。
「だから、無理しないで」
傷に触ったのかびくりと肩を震わせたが、青井が優しく頭を撫でるにつれてつぼ浦から力が抜ける。
服越しにも伝わる暖かさがあった。鬼の面の下、目を閉じぎゅっと抱きしめる青井の腕の中で、つぼ浦はただ目を開けていた。
無線にけたたましい報告が入る。青井は慌ててつぼ浦から離れて立ち上がると、ヘリが限界でIGLを交代する旨などをてきぱきと報告する。
つぼ浦もふらつく身体で立ち上がった。頭の中がごちゃごちゃで、景色は溶けたかのように立体感がなく、無線の声は意識の狭間にすり抜けていく。
「そん、なの…?」
ずっと欲しかった暖かさよりも先に、青井の言葉が胸を深く突き刺していた。
ついに手が届いたと思った空は、途方もなく大きかった。
自分にとって全てだと思っていた暖かさが、彼にとっては取るに足らないほんの一部であったことを思い知り、思わず目尻が熱くなる。
この飢えを、苦しみを吐き出せば憐れんでくれるかもしれない。だが己の不幸をひけらかしてまで振り向いてもらうことは、つぼ浦にはどうしてもできなかった。
青井は足取りのおぼつかないつぼ浦に肩を貸し、ヘリまで付き添う。離陸しようにもダメージの大きいヘリにダクトテープを巻く青井を横目に、屋上の縁から街路を見下ろせば、先ほど撃った犯人が倒れているのが見えた。ちゃんと仕留めていたのだ、とつぼ浦の心が少しだけ沸き立つ。だが、もはや虚しかった。
血の足りない身体を支える足がもつれる。踏ん張ればとどまることもできた。しかしつぼ浦にその気力はなかった。
ぐらりと景色が反転し、揺れた視界いっぱいに空が映った。
すべての色を超えてただ青だけを返す空が、ちっぽけな身体を押し潰さんばかりに広がっていた。それでもその青から目を離すことはできず、つぼ浦は重力に引かれるままに墜ちていった。
遠く悲鳴が聞こえた気がした。
空には、いくら手を伸ばしても届かなかった。
青井はつぼ浦の名前を叫びながら屋上の縁から身を乗り出す。
はるか下方で真っ赤な血溜まりの上に倒れる姿と、ダウン通知が同時に飛び込んでくる。
「なんで……なんでだよ!?」
状況が飲み込めず、ただ憤りの声だけが吐き出される。
自分があの日気まぐれに伸ばした手が、与えてしまった暖かさが、どれだけつぼ浦を動かしてしまったのかを嫌と言うほどに理解した。
何かを変えることへの恐怖があったはずなのに、変わらない不満から手を伸ばしてしまったことを青井は強く後悔した。
「届いたと思ったのに……!!」
嘆く声を風がかき消す。悲痛な顔は鬼面の下に隠れて見えはしない。
つぼ浦が強く慕ってくれているということを青井は知った。
しかし彼が求めてきた小さな暖かさなどはるかに超える巨大な感情が胸の中にあることを、つぼ浦に伝えることができなかった。きっとぶつければ簡単に潰してしまえるその感情を、低すぎる自尊心が押し込めた。
間違いなく掴んだはずの手は大きくすれ違っていた。
手荒にダクトテープを巻いて、落ちたつぼ浦を回収しようと青井はビルから下を覗き込んだ。だが血溜まりしかなかった。誰かに連れて行かれたか?と腹の底から怒りが湧いた直後、無線に声が入った。
『救急隊です。病院につぼ浦さん現れたんですけど、その……どなたか事情のわかる方いらっしゃいますか?』
一瞬、なんのことかわからず思考が止まる。だがすぐに理解して、青井はまだ煙を上げるヘリに飛び乗った。
悲鳴を上げるヘリをギリギリ病院まで飛ばし、着陸するやいなや青井はもつれる足でエントランスに駆け込んだ。
「まったく、特殊刑事課はスナック感覚で記憶を放棄するんだから……」
愚痴る神崎を横目に、青井はつぼ浦のいる病室に駆け込んだ。ベッドに腰掛けてぼんやりしていたが、青井と目が合うと白い歯を見せてニッコリと笑う。
いつもと同じその笑顔が逆に不安を助長する。心臓の鼓動がうるさい。青井は慎重に尋ねる。
「……つぼ浦、どこまで覚えてる?」
「あ?なんでも覚えてるぜ。アンタはアオセンだろ?」
「つぼ浦はなんの仕事してる人?」
「アオセンは心配性だな、特殊刑事課に決まってるだろ」
エリート部隊だぜ、と得意げに腕を組んで見せる。以前、何度かあった記憶の放棄ほど深刻ではないことを確認し、青井はひとまず胸を撫で下ろす。
しかしまだ確認しなければならないことがあった。最も重要なそれを聞くために、青井は恐る恐る口を開く。
「じゃあ……最後に対応した事件は?」
「えーっと?ああ、そうだ。西銀行って、コンビニ強盗倒して、なんか色々あってまた銀行だ。すごい疲れたっすよ」
「ッ……!!」
あの日、彼に暖かさを与えてしまった前まで戻っていることを察し、青井は息を呑む。
ここ数週間のつぼ浦の頑張りが本人の中から消えてしまった、それが辛くて青井は所在なく目を彷徨わせる。それは徒労と断ずるにはあまりにも純粋で、青井が想像するよりもずっと切実であったはずなのに、その努力はもはや周囲の人間の記憶にしか残らなかった。
「つぼ浦……」
青井は思わず座ったままのつぼ浦の頭に手を伸ばす。だが柔らかな茶色い髪に触れるよりも前にためらいが手を止めさせた。
押し潰さないように、自分がどれほどの感情を抱えているのかを見せてちゃんと手を握れると思っていた。だがつぼ浦から伸ばされる手はもうなかった。
「なんすか?」
「……なんでもない。そこまで覚えてるなら大丈夫だよ。パシの後始末しなきゃ」
「エッ、俺パシフィックなんか行ってたんすか!?確かにSWATの服だけど」
「そうだよ、そこで倒れて今こうなってる」
「本当っすか、いや~きっと大活躍しちまったんだろうなぁ。キャップからボーナスもらわないといけないっすね」
ウキウキと病室から出ていく後ろ姿を見送りながら、青井はかけることができたかもしれないいくつもの言葉を飲み込んだ。
エントランスは遅れて運ばれてきた警察と、対応する救急隊員でごった返していた。
その中でも同僚から状況を聞き取り、てきぱきと捌いていく青井の姿をつぼ浦はぼんやりと目で追う。
「俺、パシなんか行ったのか。……アオセンまた褒めてくれるかな」
ぽつりと吐き出した言葉は虚空に消えた。
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たまにはつぼ浦が嫉妬して仕方ない話にしたかっただけなのになぜこんなことに…
バッドエンドっぽいですけどこの先めちゃくちゃ頑張ればちゃんと和解して付き合いそうな気配がするのでハピエン厨のわたしもニッコリです
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最高の🟦🏺に心打ち抜かれて無いなりました…!!