「港先輩の最後の試合が終わりました!今まで本当にありがとうございました!お引越し先でも頑張って下さい!」
弓道場から盛大な拍手が鳴り響く。港先輩は、弓道部のエースだった。港先輩は三年生になって両親の仕事の関係で都会に行かなければならない。港先輩の運命は初めから決まっていた。港先輩は最後の試合で皆中二的、合計六的射抜いた。五ヶ月しか観ていない後輩達は複雑な気持ちを抱いていた。
拍手が鳴り止んだ時、司会をしていた部長が
「港先輩、何か一言貰えませんか?」
と、アドリブ地味たことを伝えた。だが、港先輩は物怖じせずくるっと振り返り
「私は後輩、共に戦ってくれた仲間、そして顧問の清水先生や副顧問の河野先生がサポートしてくださったお陰で今、胸を張って都会に旅立つことが出来ます!今まで本当にありがとうございました!私がいなくても優衣や朱音について行って共に高めあって下さい!私からは以上です。」
更に拍手の音が響く。先程の音とは比べ物にならないほど大きく盛大だ。
そして、先生の話が始まりすぐに終わった。先生の話ではしんみりした空気のせいで拍手の波は生まれなかった。港先輩が帰る準備をしている時、千鶴はスケジュール帳にメモをしていた。それに気づいた港先輩は千鶴に声をかけた。
「千鶴ちゃん!ちょっと架那ちゃんも呼んできて貰える?」
「あ、はい!呼んできます」
いきなり呼び出された千鶴と架那は困惑しつつ弓道場の外の人気の少ない場所に港先輩と向かった。希望や期待に包まれた港先輩の瞳は輝かしい未来を彷彿とさせる。港先輩は立ち止まって
「連絡先交換しない?二人とは部活を通して仲良くなれたし!私、二人のこと大好きだからさ!」
と、スマホを目の前にしてQRコードを表示していた。憧れの港先輩から嬉しい言葉を貰った二人は喜んでQRコードを読み込んだ。ありがとうと、お互いに感謝や激励の言葉を伝えあっていると架那が清水先生に呼ばれその場を後にしてしまった。
すると、港先輩は結んでいたゴムを解いて千鶴の両手を握って
「皆には言わないけど、千鶴ちゃんと架那ちゃんがサポートしてくれたから勝てたんだよね!ありがとう!」
と、言い千鶴は港先輩に抱きしめられた。港先輩は微笑みながら涙目になっていた。本当は辞めたくないし離れたくないんだ。珍しく涙を流す港先輩をみて心臓がきゅっと痛んだのを感じた。
「じゃ、またね!」
頬に流れ落ちた涙を腕で拭いその場を立ち去ろうと北門を出ようとした港先輩に向かって
「また!会えるときまで!!」
と、千鶴は叫んだ。その声に気づき、港先輩が振り向き手を振った。幸せそうに千鶴の目を見た。姿が、見えなくなるまで港先輩を見送っていた千鶴から涙が流れた。
少し経った頃に涙が引き、後ろを振り向くと涼しい風が髪を揺らし引いていた涙が戻っていくのを感じた。涙の所為で前が見えなくなった。港先輩のこと、大好きだったんだとまた自覚した。その感覚に浸りつつ千鶴は弓道場に戻っていった。
架那が目を真っ赤に腫らした千鶴を見てすぐに駆けつけた。
「千鶴!?……大丈夫?」
その声に答える隙はなく、架那の姿を見て更に目元を熱くさせた。千鶴は精神的に不安定だ。架那はその心情を察し、優しく頭を撫でた。これで、少々の慰めになればいいと思った。千鶴は我慢してしまう癖がある。港先輩の視界に寂しがっている弱い自分を写したくなかったからだ。
ようやく、顔を上げた千鶴は架那を見つめて
「ありがと、もう大丈夫」
と、呟き重い腰を上げ架那の手に引かれた千鶴はまたあの優しい笑顔をした。架那の手がほんの少しだけ熱く感じた。
「千鶴、レギュラーメンバーなろうね」
「うん!架那とならやってける!」
二人は手を繋ぎながら練習へ向かった。
続く。.:*・゜
長編になるかもです。これに関しては僕の小説魂が試されますね。千鶴と架那との関係性を深堀っていきたいと考えています!
千鶴と架那はビジュアル公開、致しませんので自分の想像上のキャラや身近にいる人のことを考えながら読んでみると新しい視点に気づくことができますね!
ではまた!!(˶・ω・˶)ノ”ばいび〜
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!