昼休みが過ぎて、教室にいるべき時間だというのに、ひまなつの姿がない。
嫌な予感がした。胸の奥でざらりと何かが這うような感覚。
「…どこ行った、なつ」
怒りにも似た焦燥を胸に、いるまは校舎裏へと向かった。ふと、かすかに聞こえた嗚咽。
次の瞬間、彼の視界に飛び込んできたのは、床に押し倒され、制服を乱され、泣きそうな顔で震えるひまなつと——その上に覆い被さるクラスメイトの姿だった。
「っ、お前……何してんだコラァッ!!!」
怒号と同時に、拳がうなる。
中に入れようと腰を動かしていたその男の顎が、鈍い音を立てて跳ね上がった。
「こいつに触ってんじゃねえよ……このクズがッ!」
倒れた男に馬乗りになるや否や、いるまは感情のリミッターを外した。殴っても、殴っても、気が済まない。
男が気絶しても、なお拳は止まらなかった。
「もう二度と……誰にも……こいつに……ッ!」
「やめろっ! いるま、もう、もういいってば!!」
泣き叫ぶ声で我に返った。
振り返ると、制服をはだけたままのひまなつが涙を溜めて、怯えた瞳で見つめていた。
「っ……なつ……」
「やだ……そんな顔、見たくない……」
震えるひまなつの体を、そっと抱き締めた。
「悪い……怖かったよな。でも、あんな奴に触れられたお前なんて……俺、我慢できねえんだよ」
いるまは誰にも見られないように、ひまなつを自宅へ連れ帰った。
ひまなつは何も言わず、ただ静かにいるまの後ろをついてきた。
バスルームで丁寧に体を洗わせ、すり傷や痣に消毒液を塗る。
ひまなつの震えが止まらない。目を合わせようとしないその態度が、いるまの中の独占欲に火を点けた。
「消毒、まだ終わってねぇだろ?」
「……は? どこに?」
「心と……中身だよ」
「っ、お前……っ、バカじゃないの!? さっきまであんなことされてて——っん!」
言葉を遮るように唇を奪った。
ひまなつはすぐに反発するが、その反応すら可愛くてたまらなかった。
「怖かったろ? なら俺で上書きしろ。アイツの記憶なんか全部、俺で塗り潰してやる」
「いるま……やさしく、しろ……ッ、じゃねぇと、マジで泣く……!」
「泣いてもやめねぇよ。今日だけはお前を、俺のものにしたって証明してやる」
ベッドに押し倒される瞬間、ひまなつの瞳からまた一筋、涙がこぼれた。
それでも、彼は何も言わず、目を閉じた。
——強く、深く、何度でも。
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最悪な日だった。
朝からなんとなく空気が重かった。クラスメイトの視線が妙に絡みつくのを感じて、嫌な予感はしていた。
呼び出されて校舎裏に行ったときには、もう逃げられなかった。
「ふざけんな……離せっ、やめろよッ!」
制服を引き裂かれ、地面に押し倒され、目の前がぐにゃぐにゃに歪んだ。
怖い。
でも、それよりも——
「……いるまに、こんな姿見られたら……」
そう思った瞬間、ほんとうに彼が現れた。
「お前……何してんだコラァッ!!!」
怒鳴り声とともに、聞き慣れた低音が鼓膜に響く。
次の瞬間、俺の上にいた奴は吹っ飛んでた。
いるまの拳が、何度も、何度も落ちる。
「もうやめてってば! もう倒れてんじゃん!! いるま、やめて!!」
止める声が、震えてた。自分でもわかるくらい、情けない声。
怖かった。
でも……
あれ以上殴り続けるいるまを見る方が、もっと怖かった。
気が付けば、俺はいるまの部屋のベッドにいた。
風呂に入れられて、消毒もされた。でも、体の震えはまだ止まらない。
制服の隙間から見えた、自分の痣や爪痕。
目をそらしたくなったのに、いるまはそれを見つめて、吐き捨てるように言った。
「……消毒、まだ終わってねぇだろ?」
「は? はあ!? 何がだよ……って、おまっ、ちょっ……!」
問答無用で口を塞がれた。
強引で、容赦なくて、でもどこか哀しさすら滲んでるキス。
「もう十分だってば……っ、誰にされたと思ってんだよ、あんな……!」
「だから俺で、全部上書きすんだよ」
バカだ……
でも、そのバカみたいな独占欲が、今の俺には救いだった。
「……やさしく、して。じゃねぇと、マジ泣く……」
「泣いてもやめねぇよ」
ズルい、そう言われたら拒めない。
たぶん、俺、最初からこうして欲しかったんだ。
誰にも触れられたくなかった。いるま以外には。
深く、強く抱かれながら、俺は小さく呟いた。
「……ほんとは、ずっと、怖かった」
その声はきっと、聞こえていなかった。
でも、いるまの手が少しだけ優しくなった気がした。
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こいつが他の男に触れられていた。
知らねぇ顔に乱された、こいつの体。怯えた顔。震える声。
——俺じゃない奴に、そうさせられていた。
頭の奥で「許せない」って声が反響する。
止まらなかった。どれだけ殴っても、心の苛立ちは消えなかった。
こいつは俺のものなのに。
俺以外に泣かされるなんて、あり得ない。
家に連れて帰って、風呂に入れて、消毒してやって。
それでも俺の苛立ちは消えなかった。
視界に映る、ひまなつの痕。
それが「アイツの痕」だと思うだけで、ぶち壊したくなる。
「消毒、まだ終わってねぇだろ?」
「は? どこが——って、お前、っんむ!」
唇を塞いだ瞬間、体の奥が痺れた。
やっと、手に入れた。俺のもんにする、今度こそ。
「全部……上書きしてやる。お前が誰のもんか、身体に教えてやる」
「や、やだっ、バカ……そんな、強引にすんなよ、バカ!」
強引に脚を開かせる。嫌がるくせに、抵抗が弱い。
それが俺をさらに煽る。
「嫌がっても、感じてんのバレバレだぞ。……煽ってんのはどっちだよ、なつ」
「違っ、俺、そんなつもりじゃ——っぁ、あっ、や、やめ、やめろッ!」
乱暴に奥をかき回す。
あいつの痕なんて、跡形もなく、俺のに塗り替える。めちゃくちゃにして、俺の匂いで満たしてやる。
「他の男にこんな顔見せてたとか、マジ許せねぇ……お前の全部、俺だけのもんだろ?」
「やだ、やだ……いるま……壊れる……っ、ぁ、も、むり、むりぃ……っ!」
「壊してやるよ。……他の奴なんか思い出せねぇくらいにな」
もう、俺は止まれなかった。
ひまなつが涙を流しても、必死に叫んでも、その声すら愛おしい。
こいつが泣く理由は、もう他の誰かのせいじゃなくていい。
俺だけでいい。俺だけが、お前を泣かせて、震わせて、潤ませてやる。
何度イったかわからない。
ぬるついた肌を抱きしめながら、熱の残る頬にキスを落とした。
「泣くのも、笑うのも、全部俺の前だけでしろ」
「……ばか……どうして……こんなに……」
「好きだからに決まってんだろ」
言葉は嘘じゃなかった。
狂ってる? いいよ。
なつさえ壊れずにそばにいてくれれば、それで。
お前をぐちゃぐちゃにする権利は、俺だけなんだから。
「やだっ、やだよ、いるま……も、むりだって……!」
「無理じゃねぇ。だって、身体はちゃんと俺を欲しがってんだろ?」
夜はとうに越えて、何度イかされたかわからない。
目を潤ませ、声も掠れ、脚も震えてるくせに、なつの奥はまだ俺を締めつける。
「こわれる……っ、ほんとに、ほんとに無理……っ!」
「壊してやるっつってんだよ。俺のしか、思い出せなくなるまで、何度でも犯してやる……っ!」
泣きじゃくる声。
シーツを握り締める指が白くなるまで必死に耐えるその姿。
「泣くな。泣くくらいなら最初から他の男に隙見せんなよ……バカ……」
言いながら、キスを落とす。
暴力じゃない。これは支配でもない。
——愛だ。俺なりの、独占の証。
「いるま……なんで……優しく、してくんないの……」
「優しくされたら、他の奴のこと思い出すかもだろ? だったら痛くしてでも、俺だけを刻む方がマシなんだよ」
「……最低、……っ」
「知ってる。でも、お前もそんな最低な俺に、今……感じてんだろ?」
たぷん、と奥まで飲み込まれて、ひまなつの体がビクンと跳ねる。
その快感に震える姿を見て、俺の中の何かがまた軋んだ。
「好きだよ、なつ。お前がどうなろうと、全部俺のもんにするからな」
もはや言葉も出せず、熱に喘ぐその体。
壊したい。奪いたい。潰したい。
その全部が「愛してる」って気持ちの裏返しだった。
朝、目が覚めた瞬間、体が動かなかった。
……いや、正確に言えば、“動かせなかった”。
脚に力が入らない。喉がヒリつく。
皮膚のあちこちが熱を帯びて、擦り傷みたいな違和感が、寝返りを拒む。
ベッドの横で寝息を立てているいるまの顔を見て、胸の奥がずきんと痛んだ。
「……やりすぎなんだよ、バカ……」
囁くように呟いても、彼は眠ったままだった。
風呂場の鏡を見て、思わず息を呑んだ。
首筋、鎖骨、太もも、腹の奥まで——
あちこちに、赤や紫の痕。爪で刻まれた線。
それはまるで、「お前は俺のものだ」と無言で主張しているようだった。
「……ほんとに、壊されるかと思った……」
自嘲するように笑っても、心の奥で残っている感情は、意外と単純だった。
——怖かった。でも、嬉しかった。
「……なつ?」
風呂から戻ると、ベッドで寝ぼけた声がした。
いるまが半身を起こして、俺を見ている。
その目が、優しかった。
「……ごめん、やりすぎた。って思ってる。ほんとに」
「……やりすぎどころじゃねぇし」
タオルを頭に乗せたまま、睨むふりをして言い返した。
「でも……」
「でも?」
「……いるま以外だったら、きっと、もっと壊れてた」
「……なつ」
「俺、ほんとはちょっとだけ……こうされたいって、どこかで思ってたのかも」
気づかれたくなかった本音が、ふっと口からこぼれた。
こんなにめちゃくちゃにされて、
身体の奥まで熱を入れられて、
泣いて、叫んで、それでも最後に思ったのは——
「好きだよ」
たったそれだけだった。
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リクエストありがとうございました!!!
コメント
2件
天才、、ありがとうございますT^T10回しかいいね押せないのが悔やまれます...本当にありがとうございました🫶🏻🫶🏻🫶🏻