戸惑う私の心の声を無視して、店長の方に振り向く。
店長は、私の様子に全く気づかずひたすらキーボードを動かしていた。
少し縮こまった背中をじっと見つめる。
ーードキッーー
(……!?)
聞き覚えのない音が自分の身体からする。
(何これ…?意味わからない…。ただ店長を見ていただけなのに…どうしちゃったの…?っ…もういい…仕事しなきゃだし、さっさと言えばいいだけじゃん…)
考えれば考えるほど分からなくなる思考を遮断する。
「て…店長っ…」
「ん?どうしたんだい?」
身体ごと振り返って笑いかける店長。
心臓の音が徐々に大きくなっていく。
(な、なんなのほんと…気のせい…。きっと気のせい…)
「あ…の…。昨日は…その…」
うまく言葉が出てこない。胸に空気が詰まったみたいな、表しようのない感覚に支配される。
すると、店長が心配そうに目を細めた。
「も、もしかして…具合が悪いのかな!?すごく苦しそうじゃないか!!」
何か勘違いしたらしく、顔を青ざめさせる店長。
「ち、違います!!あの…だから昨日はっ…」
反射的に顔をあげ、思いっきり否定する。そしてその流れで本来の目的を果たそうとした時ーー
ーーコンコンーー
軽やかなノックと共に…
「失礼いたします。」
絶妙のタイミングで扉が開かれた。
「っ!!」
予想外の展開に心が追い付かず、振り返ったまま固まってしまう。
思考回路ぐちゃぐちゃな頭でも、なんとかそこにいた人物を認識できた。
(……誰…?)
全く知らない女性。40代前半くらい…だろうか。品のある顔立ちに緩くウェーブがかかった髪を後ろで1つに束ねている。
にこやかな笑顔を浮かべ、印象がいい。その年代の人には恐らくモテるだろう。
「あ、おはようございます。いやいや、私店長の代田です。今日からよろしく…。」
どうやら知らないのは私だけのようで、店長は待ってましたと言わんばかりにその女性に向かって腰を低くしながら挨拶する。