テラーノベル
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aikoは、休日の午後を愛猫の「みりん」と共にソファの上で溶けるように過ごしていた。エアコンの風量は微弱、膝の上にはモフモフのぬくもり。完璧な休日だ。彼女の人生のゴールは「極力動かずに生きていくこと」である。
その平和が破られたのは、午後二時過ぎのことだった。
「ドスン!!」
ベランダから重い衝撃音が響いた。aikoはピクリと眉を動かしたが、視線はテレビに向けたまま動かない。
(……鳩にしては重い音ね。でも私は動かない)
続いて、ガチャリとベランダの窓枠が不穏な音を立てる。鍵は閉めてあるはずだが、ガラスを割るようなコトコトという金属音が聞こえ始めた。
aikoは静かに溜め息をついた。近所で噂の「連続ベランダ侵入犯」だ。
(困ったわね。警察を呼ぶにもスマホはテーブルの向こう。取りに行くために立ち上がるなんて、今日の私には不可能なタスクだわ……)
aikoはそのまま瞳を閉じ、寝たふりを決め込むことにした。盗まれるような高級品はこの部屋にはない。通報は犯人が去ってからでいい。動かないことこそが、無用なトラブルを避ける最善策なのだ。
その時だった。
「……にゃー?」
膝の上にいた「みりん」が、興味津々といった様子で立ち上がり、ベランダの窓際へとトコトコ歩き出してしまったのだ。
「っ……!」
aikoの脳内に警報が鳴り響いた。
鍵が外され、ゆっくりとサッシが開く。黒い目出し帽をかぶった男が、室内に足を踏み入れた。男の手には、小さく輝くバールが握られている。
「けっ、留守かと思ったら……ん? 猫か」
男は邪悪な笑みを浮かべると、足元に寄ってきたみりんに向かってバールを軽く振り上げ、凶暴な声を張り上げた。
「邪魔だ、どけッ!」
その瞬間。
部屋の中の空気が、絶対零度まで凍りついた。
ソファの上で「死体」のように転がっていたはずのaikoの両目が見開かれる。その瞳から、普段の無気力さは完全に消失していた。
男がバールを振り下ろすより早く、aikoの体が動いた――いや、彼女の意識の中では「動いた」のではない。ただ、物理法則を無視して位置が移動したに近かった。
「ガシッ!!」
「え?」
男の手首が、鉄の万力のような力で掴まれていた。見上げると、そこには無表情のまま自分を見下ろすaikoの姿があった。髪は乱れ、眼光は鋭い刃物のようだ。
「……いま、うちの子に何をしようとした?」
「は、はあ!? お前、いつの間に――ぐあああッ!?」
aikoは男の手首を捻り上げると、そのまま流れるような動作で男の体幹を崩し、背負い投げの要領で畳へ叩きつけた。
ズーン!! と部屋全体が揺れる。
「ガハッ……!?」
呼吸を止めた男の上に、aikoは容赦なく馬乗りになった。男の両腕を背中に回し、一切の無駄がない完璧な関節技で完全に固める。
「いたたたた! 折れる! 腕折れるって!!」
「動かないで」
aikoは冷酷な声で言い放った。
「あなたが動くと、関節が外れるわ。私はこれから警察が来るまで、一歩も動くつもりはないから」
その時、廊下からバタバタと激しい足音が近づき、玄関のドアが勢いよく開いた。追ってきた高橋刑事だ。
「警察だ! 動くな……って、ええぇぇ!?」
高橋刑事が目撃したのは、部屋の真ん中で見事な関節技を決め、空き巣犯を完璧に沈めている一人のOLの姿だった。そしてその横では、茶トラの猫が優雅に毛づくろいをしている。
「あ、警察の方ですか」
aikoは犯人をがっちり押さえつけたまま、無表情で刑事を見上げた。
「現行犯逮捕で引き渡します。早く縄を持ってきてください。私、早くこの姿勢を解いて、ソファに戻りたいんです」
【後日談】
連続逮捕劇の立役者として、警察から感謝状が贈られることになったが、aikoは辞退した。理由は「表彰式に行くために服を着替えて外出するのが面倒だから」だという。
高橋刑事は「あの腕っ節、ただ者じゃない……まさかどこかの特殊部隊か武道家なのか?」と一人で深読みして戦慄していたが、当のaikoにはそんな大層な背景など一切ない。ただ猫を愛する、とびきり筋金の入った出不精なだけである。
今日もaikoは、日当たりの良いソファでみりんを抱きしめている。
「やっぱりね、みりん。人間、無駄に動くものじゃないわ」
みりんの「にゃーん」という鳴き声を聞きながら、aikoはゆっくりと瞼を閉じた。彼女の平和な日常は、彼女が「動かない」ことによって、今日も守られている。
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コメント
1件
読了したよ〜!!📖💕 いやもう、めっちゃ面白かった!!「動かない」が人生哲学のaikoが、愛猫みりんを守るために覚醒するとか天才か!?🦸♀️✨ 普段は省エネモードなのに、みりんが危ないってなった瞬間の豹変っぷりがカッコよすぎて腰抜けたわ😭💥 しかも逮捕後「表彰式行くの面倒」って辞退するとか、ブレなさすぎて笑う😂 日常と非日常のギャップがエモすぎるし、みりんが事件のきっかけになるのも絶妙で萌えた! 続き絶対読みたい…!!🌸🐱