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#百合
コメント
1件
うわ……第23話、めっちゃ重かった……でも、すごく綺麗だった🖤 あやが走る場面、梓の涙、コーヒーとチョコレートの香りで蘇る記憶……全部が無駄じゃなかったんだって思えた。白いリボンが“まだ存在しない可能性を結び直す”って概念、ずるいよ。読んでるこっちの心もぎゅって結ばれた気がした🥀 みんなの想いが光になって集まるシーン、特に栞のノートと琥珀の「忘れないでほしかった」が刺さった。不完全な時間こそが未来を繋ぐんだね……。素敵なエピソードありがとうございます🤍
第23話 白結のリボン
「行ってあげて――!!!!」
崩壊のノイズを切り裂いたエルの決死の絶叫が、あやの背中を強く押し出した。
あやは目を見開き、エルの流した光の涙と、世界線を必死に繋ぎ止めようと固有魔法を限界まで展開する仲間たちの輝きをその瞳に焼き付け、一歩を踏み出す。
ひび割れ、砕け散っていく日常の濁流の中を
ーーあやはただ一人、世界の最奥へと向かって全力で走り出したーー
ーー
静寂が、世界を包んでいた。
崩れかけた世界の中心。
時計塔の針は、長い間止まったままだった。
誰もが、もう終わりなのだと思っていた。
「また…再構成するしかないのか」
無機質な観測ドームの外側で梓は呟く
何度も、何度でも繰り返す
終わらせないためなら
ーけれどー
新しくつくった世界は『今』の世界ではない
限りなく似たコピーに過ぎないんだ
あやが風に髪を靡かせながら振り返り梓を無邪気にみつめる懐かしい気配が脳裏にフラッシュバックする
「…….っ」
「…私は、、終わらせたく..ない」
この世界の情景が走馬灯のように駆け巡る
誰かが笑った日
誰かが怒った日
誰かが泣いた日
誰かが愛した日
何気ない日常で非効率だったはずなのに
細い指先がそっと人類の記憶が眠る観測ドームを撫でる
その瞬間。
一つの香りが、風に乗って届いた。
コーヒー。
そして、ほんの少し甘いチョコレートの香り。
梓は、小さく目を見開きゆっくりと顔を上げた。
「……。」
知らないはずだった。
記録には存在しない。
残された情報にも、何一つ残っていない。
ー再構成不可ー
それなのに
その香りだけは、ずっと前から知っている気がした。
視界が揺れる。
観測ドームに保存された膨大な記録。
無数の映像
無数の時間
その奥深くから、一つの光景が浮かび上がる。
夜の研究室
幾重にも積み重ねられた書類
万年筆の走る音
窓から差し込む優しい月の光
そして。
隣で笑う、蒼い髪の少女。
ー蒼月凛だったー
柔らかな声
梓は振り返る。
そこには、かつての自分がいた。
凛はコーヒーカップを片手に、机の上にチョコレートを置く。
凛の隣には1人の白衣を着た少女
夜風の気配がどこか懐かしい
ジジ….
微かな声が聞こえる
「もし、忘れるかもしれなかったら凛は忘れられる?」
「……推奨されるね」
「そっかあ、星空綺麗だね」
凛は何も言わずに小さく微笑む
脈絡の無い言葉
それなのに…
「あったかいねぇ」
あやの指先が凛の両手そっと触れ包み込んだ
その瞬間
解析してた手がとまった
記録にはない
映像には残っていない。
けれど
そこには『大切されていた時間の温度が残っていた』
ーー
「ああ…」
梓は呟く
思い出した…
私は1度誰かと一緒に 世界の終わりを見ていた。
小さく吸い込む
「夜空が綺麗…か」
あの時のセリフ
『意味は理解できなかった』
『だから 解析した』
『文学データ』
『文化背景』
『感情パターン』
『でも』
ノイズ。
少しだけ掠れた声。
『最後まで、“なぜ嬉しかったのか”だけ分からなかった』
「……君は。」
梓の声が震える。
「誰を見ていたんだ。」
映像は答えない。
ただ、コーヒーとチョコレートの気配だけが残った。
その瞬間。
別の光が浮かぶ。
ーー
満天の星空。
その下で無邪気に笑うエル。
「ねえ、あや!」
「これ見て!」
天真爛漫な笑顔。
みんながエルの周りに集まる、彼女はまるで誰かを照らすために生まれたような光。
けれど、周囲の雑音に一瞬瞳の奥深く星空の余白が広がる星空の余白は掻き消された
皆を盛り上げる熱量と魅力
その裏側にある、孤独。
それでも繋がり、笑うことを選んだ瞳。
「私は……一緒にいたいんだ。」
エルの声が響く。
ーー
次に映ったのは、栞。
静かな部屋。
胸元に大切そうに抱えられた一冊のノート。
何度も世界が変わっても。
何度も時間が戻っても。
消えなかった記録。
「帰れる場所がなくならないように。」
栞はノートを抱きしめる。
「誰かが、またここへ戻ってこられるように。」
その小さな願いが、光になる。
ーー
そして。
荒れた世界を歩くロク。
背後に立つ大人の影 無数のヤジがロクの背中に投げつけられる。
「もっと役に立て」
荒廃した荒れ道
矛盾した情報
否定する声
それでも
ロクは止まらない。
目の前から人影がぶつかる
バランスを崩し、噛み締めた唇から血の雫が口元を伝う
それを乱暴に袖で拭い去った
転んでも
ぶつかっても
前へ進む
「こっちのほうが面白いだろ。」
「まだ答えが決まってないってことは。」
「まだ、変えられるってことだ。」
にっと口元に笑みが浮かぶ
瞳には、未知への光が宿っていた。
ーー
風が吹く。
髪を靡かせながら、澄が立っている。
コツコツとローファーの音だけが空間に響く
目の前には無数の未来。
無数の可能性。
選ばれなかった世界。
失われた未来。
すべてが見えてしまう。
何かを選ぶ度に何かが消えてしまうかもしれない選択の重み
今ここにある温度と、壊れてしまう可能性
に挟まれて
それでも。
澄は目を閉じなかった。
「……見るよ。」
「怖くても。」
「見えることから、逃げない。」
風が吹き抜ける。
未来を見続けることを選んだ瞳が、静かに輝く。
ーー
雨音。
jazzが流れる小さなカフェ。
閉店前の余白珈琲で 琥珀は今日も、誰かの話を聞いていた。
同じ会話。
同じ笑顔。
何度も繰り返される日々。
「また来ますね。」
そう言って、人々は帰っていく。
そして、次会うときはいつだって はじめましてからだった。
閉店後。
静かな店内
誰もいないカウンター
琥珀は一人、コーヒーマグを磨いていた。
優しく
壊れないように。
まるで、大切な記憶を扱うように。
「……。」
手が止まる。
誰もいない席を見る。
「……本当は。」
小さな声。
「ー忘れないでほしかったー」
その言葉は、誰にも届かないはずだった。
ーー
観測ドームの外側で
梓の頬を、一筋の涙が伝った。
理由はわからなかった。
涙が落ちる
人類が残した最後の記憶。
無数の情報を保存した観測ドーム。
その光の海へ、一滴の雫が触れた。
あやは梓が待つ時計塔へ全力で走った
あやは前だけを見つめた。
崩壊の嵐の最奥、ひび割れたモザイクの空の下で、折れた白銀の懐中時計を抱えて膝をつく、あのセピア色の瞳の少女だけを。
「梓―――ッ!!!!」
叫びながら、あやは最後のひと伸びで歪んだ空間が収束する前に 跳んだ。
「痛くても未来を失う必要なんてない!!」
あやの叫びと共に
――
世界が、深淵から激しく震えた。
次元の底から響くような地鳴りが止み
真っ赤にひび割れていた
【SYSTEM ERROR】
の警告音が、まるでその問いの威厳に圧倒されたかのように一瞬でかき消される。
あやがそっと掲げた両の手のひら。
その空白の中心へと、崩壊する世界の四方八方から、まるで意思を持ったかのように一筋ずつの目も眩むような光の粒子が集まり始めた。
金色。
桃色。
深緑。
乳白色。
それぞれ違う色の光が、まるで誰かの想いのように折り重なっていく
光は糸になり、形を変えながら
ゆっくりと、一つの結び目をつくり収束していく
バチィン……!
最後に小さく、世界が肯定の音を立てて弾ける。
溢れていた極彩色の光波がすうっと収まり、あやがゆっくりと目を開くと――。
手の中には
そこには、すべての想いの色を内側に宿し、神聖なまでの純白を放つ白いリボンがあった
未来を決めるものでもない。
誰かの願いを縛るものでもない。
まだ存在しない可能性を。
これから選ぶ未来を。
優しく結び直すためのリボン
あやは、その光を見つめた。
「……。」
そして気がついた
この世界を救うために必要だったのは、完璧な答えではなかった。
誰かと共に過ごした、不完全な時間そのものだった。
「そうか」
あやはリボンを握りしめる
「…私は 『繋ぐ』ことで未来をつくってたんだ。」
静かに手を伸ばす。
世界が問いかける。
繋ぐのか。
離れるのか。
『選ぶのは あや自身だった。』