「大変なことになるわ。何とかしてここから出ないと」
「ええ!」
渡部は素っ頓狂な声を出す。
「家に帰りたいな……」
私は何かにしがみついていた。
角田はあまり気にしていない。平静さを感じる。
「あ、と、その証拠にみんな寝間着姿や、寝る前の格好をしているでしょ」
そういうと、呉林は考え込んで、ぶつぶつと言い出した。みんな呉林が敬語を使わないことを気にしないようだ。
私は怪我と出血と疲れでフラフラしていた。とても話す気力がない。黙々と煙を吐いていた。
間隔を置いた煙草を3本吸い終わる頃には、やっと医務室に辿り着いた。肩の出血がジャンパーに大きな染みをつくりそうだ。怪我の痛みはあるが、それより出血による精神的なものの方が大きい。
医務室の木製のドアを開けると、中は建物と同じく殺風景である。中央に幾つもの薬品棚と1つの診察室があり、その隣に簡易ベットが複数あった。
私はライフルを床に投げ出して、簡易ベットの一つに呉林によって寝かされ上着を脱がされる。怪我はかなり酷く、左肩の部分が青黒くなっていて、皮膚から血が滲み出ていた。骨も折れていそうだ。
「こりゃひどい」
私の肩を見つめた角田は顔をしかめて、私の肩に薬品棚から持ってきた包帯を巻こうとした。
「ちょっと待って!」
そういうと呉林は素早く消毒薬とガーゼを持ってきた。
「念のためよ。現実の世界で化膿したら大変。こんな世界だもの何が起こっても不思議じゃないわ」
呉林はかなりいろいろと慎重になってくれている。渡部は診察室の奥の水道から持ってきたコップに水を入れる。そして、簡易ベットに横になっている私に差し出してくれた。
「ありがとう。渡部……」
「大変な怪我をしましたね。痛みは?こんな場所だから救急車というわけにはいかないですよね」
渡部の心配そうな顔へ、私はかなり酷い痛みを隠して、笑顔を作った。
「ああ……」
そういえば、私は昔から仕事以外であまり人と関係を今まで持たなかったなと思った。寂しい人生だったのだろうか……。
しばらくすると、私は夕食も夜食をまだ摂っていなかった。緊張が解けてきたせいか、腹の虫が鳴った。
「お腹が空いたの。ここに食べ物ってあるかしら」