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呉林は私の左肩を拭いていた消毒薬を湿らせたガーゼを置いて俯いた。不思議な力を使うかのようだ。
すると、
「そういえば、囚人房の奥に調理室があるって、今解ったわ。そこなら何か食べ物があるかもしれないわね」
呉林はそういうと、包帯を私に巻いてくれた。うまい巻き方のようで、左肩の痛みが半減した。左肩は消毒薬のせいか少し冷たくなってきて気持ちがいい。
「俺も腹が減ってきたな」
「私も。走り回ったからかしら」
「僕も」
みんな腹が空いていたようだ。
…………
角田は何気なく医務室の窓から外を眺めた。外は雨が降っていた。
「こんな変な場所にも雨が降るんだな。腹も減るし……」
角田は溜め息交じりに呟く。
「あの……。蛇口から水がでるので、恐らくガスも出ると思います。みなさんここで食事にしましょう。角田さん何か食べ物を持ってきましょうよ。赤羽さんと呉林さんはここで休んでいて下さい」
親切な渡部は気遣ってくれて、そういうと角田を連れて調理室を探そうとした。
「いい。調理室はあなたたち二人がいた囚人房の奥よ。丁字路の左側の奥。私たちはここで待っているわ」
「解りました」
渡部は笑顔で手を振った。
―――
雨音を聞きながら数十分が経たったようだ。辺りは雨のせいで、不安で鬱屈しそうだ。ここ医務室でも頼りない裸電球がぶら下がっている。
食糧を探しに行った角田たちが少し心配になってきた。あれだけ無我夢中で戦った今となってはとても親しい味方であった。今になって見捨てなくてよかったと思えてならない。私には仕事仲間以外友達といえる存在がいないが、角田と渡部には強い親近感が芽生えてきた。
「どお。人助けした気分は?」
「不思議と……初めてなんだけど……いい感じだ」
「そうでしょう。こんな特殊な場所だもの。みんなと力を合わせないと。きっと、あなたは知らなかっただけよ。人の大切さを」
私は寝返りを打った。丁度顔が呉林に向いていない格好になる。
「俺は今まで余り人と関わらなかったからな……」
私は呟くように言った。そう、私には中村・上村には悪いがちゃんとした友達がいない。晴れやかな正社員になっていった同級生にも合わす顔がなく、ひっそりと生活をしている。