「呪いです」
「……呪い?」
彼は怪訝そうに眉根を寄せた。
私は頷き、経緯を話した。
彼は目を見開いて、その整ったかんばせを悲しそうに歪ませる。
その表情に、私は苦笑した。
彼の顔に、心配しているとわかりやすく書かれているのである。
「ご両親や姉君はご存知なのか?」
「いいえ。でも、私の専属侍女は知っています」
私がそう言うと、彼はどこか安心したような表情をした。
「良かった。なら、ひとりで抱え込んでる訳じゃないんだな」
「……あなたはお優しいですね」
私は微笑んでそう言う。
十年近く前の幼なじみのことなんて、どうでもいいだろうに。
すると彼は無表情になった。
そして、はあ、と深いため息をつく。
「……そんなことない。というか、友人が呪われているなんて言われたら、普通驚くし心配にもなるだろ」
その言葉に、私は目を見張った。
「……友人?」
「違うのか?」
彼はきょとんとした顔でそう言う。
かと思うと、目を見開いた。
「お前……、何で泣くんだ」
「はい?」
私は、自分の頬に手を当てる。
すると、生温かい雫が手を濡らした。
私は、確かに泣いていたのだ。
「ご、ごめんなさい」
私は止め処なくあふれる涙を拭う。
と、彼が私に歩み寄り、自分の袖で私の目元をごしごしと拭いた。
「っ!」
「お前は昔から泣き虫だな」
私の涙を拭いながら、彼はそう言う。
「え?」
首を傾げる私に、彼は答えた。
「昔、エクストレトルの王城の庭園で、ひどい怪我を負った野良猫をお前が拾ってきたんだ」
私は静かに頷く。
「で、お前が猫の怪我を治して欲しいと国王陛下に頼んで、国中の獣医に診てもらったけど全く良くならなくて、最終的に猫が死んで、お前はその時泣いてた」
「……」
確かに、その時の記憶があった。
「見ず知らずの野良猫なのに、お前は最後まで諦めなかった」
彼は親指で私の瞼をこする。
「お前は優しすぎる」
彼が、どこか歯痒そうに言った。
私は、私の頬をなでる彼の手を取る。
そして、両手で包みこんだ。
「そんなことありませんよ」
ただ、あの猫が可哀想だったから助けたかっただけ。
と、彼が私の左手を握る。
「……何で、痣のことは家族に内緒にしてるんだ」
何で?そんなの決まってる。
「迷惑をかけたくないからです。いつか、死ぬ身体ですから」
「……死ぬ?」
彼の美しいかんばせがこわばった。
「はい」
私は頷く。
「……それはどういうことだ」
彼の声が低くなった。
そして、私の肩を掴む。
「え、ちょ、アレク…」
「何でお前が、そんな仕打ちを……!」
彼は、とても苦しそうに言った。
と、彼は我に返ったようにはっとし、私の肩を離す。
「……悪い。取り乱した」
「い、いえ」
私は驚いてそれしか言えなかった。
さっきまであんなに落ち着いていた彼が取り乱すと思ってなかったから。
彼は私の方に向き直り、口を開く。
「解呪の方法を探そう」
彼は、怖いくらいの無表情でそう言った。
コメント
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アレクシス怖いと思った人、正直に挙手