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柱就任
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無一郎はめきめきと剣の腕を上げていき、階級もどんどん上がっていった。
それと同時に、茉鈴も。
無一郎はいつも覚えていないけれど、合同任務の際には茉鈴が同行していた。
茉鈴はいつの間にか、無一郎が独自に風の呼吸から派生させた霞の呼吸を、彼女自身も使いこなすようになっていた。茉鈴が主に使うのは刀ではなく薙刀だったけれど、それでも鬼の討伐には充分効果があった。
無一郎は驚く程強かったし、周りからは“天才剣士”だと謳われていた。以前あまね様から聞いたように、“始まりの呼吸”の使い手の子孫だということも関係しているのだろうか。
茉鈴も茉鈴だ。単に力では無一郎に劣るものの、広い視野と冷静な判断能力で鬼を倒していく。薙刀は護身用に嗜んでいただけだろうに、鬼を相手にした戦いで躊躇なく刃を振るっていた。
無一郎が一点集中してしまって危うい場面も、茉鈴が瞬時に補佐にまわり、彼女のおかげで危機を脱したことが多々あった。
2人とも、強いのはいいんだけれど。
お願いだから、死なないでくれ。死に急いで命を擲つようなことはしないでほしい。
剣士じゃなくたっていいじゃないか。鬼殺の道から退いて、穏やかに暮らしたらいいじゃないか。
でも、無一郎は記憶がなくても鬼への怒りは身体が覚えているようだし、茉鈴は無一郎が剣士である限りは彼女も同じ道を歩み続けるのだろう。
さっさと死んでしまった俺が2人の為に何かできるわけでもないけれど、やっぱり心配で堪らない。
そして、無一郎と茉鈴に柱昇格の話が来た。
でも空席は1つ。そこで提案されたのは、2人で1つの“柱”になるということだった。
他の柱とお館様の話では、記憶を維持できない無一郎だけよりも、同じ階級でいつも彼を支援している宝生隊士も一緒に柱に就任させてもいいのではないかという結論に至ったようだった。
柱合会議に呼ばれた2人にその話がされた。
無一郎は「どうせ忘れるからどうでもいい」と言い、ぼんやりとどこか遠くを見つめていた。
下手すりゃ無一郎よりも強いかもしれない茉鈴は、なんとあっさりと柱の座を無一郎に託すと申し出たのだ。
しかも、自分はこれからは隠として鬼殺隊に仕えると。
「茉鈴ちゃん…、本当にそれでいいの?」
恋柱の甘露寺さんが心配そうにたずねてくる。
『はい。私はこれからは、無一郎くんの専属の隠になろうと思っています』
「お前が奴のことを大事に想ってんのは分かるが…。お前も相当腕が立つのに勿体ねぇな」
風柱の不死川さんだ。
『……正直申し上げますと、私も戦いの最中も無一郎くんの傍にいたいです。でも、栄養たっぷりのごはんや温かいお風呂やふかふかのお布団で、任務後疲れて帰ってくる無一郎くんを出迎えてあげたいと思ったのです。…不安はありますが、彼には銀子ちゃんという特別優秀な相棒がついていてくれますから。ちゃんと毎回帰ってきてくれると信じています』
突然自分の名前を出された無一郎の鴉が驚いたようにぱっと顔を上げて茉鈴を見た。
『霞柱は時透無一郎に託します。私は前線からは退きますが、必要とあらば刀を手に取ります。どうか、私に霞柱様のお世話をさせてください』
丁寧な所作で頭を下げる茉鈴。
「…そうか。柱候補である茉鈴本人がそう言うのなら、そのようにしよう。みんなもいいね?」
「「「「「「「「御意」」」」」」」」
お館様の言葉に柱の8人が声を揃えた。
「無一郎。君を鬼殺隊・霞柱に任命する」
「はい」
助けてもらったことを分かっている無一郎は、反発もせず素直に霞柱に就任した。
解散した後、無一郎が茉鈴に声を掛けた。
「ねえ」
『!…はい』
「君も柱候補で呼ばれたんだよね?僕が柱になってよかったの?しかも隠になるって」
数分前のことは覚えているのか。
『はい。“時透様”のほうが、柱に相応しいですから。私はあなた様が生活で不便を感じられることのないよう傍で尽力いたします』
もう無一郎を上官として接する茉鈴。
“時透様”……その響きがどこかよそよそしくて、でも茉鈴の覚悟が滲んでいるようで。俺は胸がちくりと痛んだ。
バササッ
無一郎の鴉だ。
《話ハ聞イタワ。アンタアタシノコト、チャント分カッテルジャナイ!無一郎ノコトハ任セナサイ!》
周囲に高飛車な態度を取る鴉だが、茉鈴への敵対心はなく、むしろ好意的な印象を抱いているようだった。
『うん。ありがとう、銀子ちゃん。むいち…時透様のこと、よろしく頼みます』
《モチロンヨ!》
生意気な鴉だけれど、茉鈴と一緒に無一郎を支えてくれるなら頼もしい。
無一郎はそんな1人と1羽のやり取りをぼんやり聞いていた。
続く