テラーノベル
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「ねぇ、雪乃?」
窓の外を見ていた聖夜さんが、こちらに目を向けた。
私は名前を呼ばれて、聖夜さんの方を向く。
「ホントにお腹、空かないの?」
私は何も言わずに、コクンと頷いた。
胃の中は空っぽなのに、全くお腹が空かない。
「そっか……。僕はお腹がペコペコだよ」
聖夜さんは、そう言ってクスッと笑った。
人を殺めた人が、よく言うよ……。
この人はホントに犯罪者なのかな?
てか、あの女性はどうなったんだろう……。
その時、窓の外から何台ものパトカーや救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
もしかして……。
「見つかったのかな?」
チラッと窓の外に目をやった彼が、再びこちらに向いてそう言った。
「僕は、絶対に捕まらないよ」
そう言って笑う聖夜さん。
その自信はどこから来るんだろう……。
日本の警察は優秀だって聞いたことある。
それなのに捕まらないって言い切る彼は……。
「目撃者は雪乃しかいないんだ。その唯一の目撃者であるキミは僕と一緒にいる。それにね、証拠は何も残してないしね」
そうだけど、それだけでホントに捕まらないの?
証拠は残してないって言っても……。
……って、目撃者は、もう1人いたはず。
公園で私とぶつかった男。
怯えたような目。
「雪乃?何考えてるの?」
「えっ?い、いや別に何も……」
聖夜さんは罪の意識があまりない感じに思える。
もし、目撃者が、もう1人いたことを言ったら……。
その人を探しだして殺めてしまうかもしれない。
もう、これ以上、人が殺されるのは嫌だ。
それに聖夜さんにも、これ以上……。
「そうそう、ご飯だったね」
聖夜さんはそう言って、カーテンを閉めた。
そして、パーカーのポケットからスマホを取り出して片手で器用に操作する。
しばらくして、スマホをポケットにしまった。
「これから、知り合いがここに来るからね」
「えっ?」
「余計なことをしゃべったらダメだよ?もし、しゃべったら……どうなるか、わかるよね?」
聖夜さんはそう言って、ニッコリ微笑んだ。
もし、しゃべったら……。
聖夜さんの言った意味すること、それは……。
――死。
私はコクンと頷いた。
「雪乃は物分かりのわかるいい子だね」
聖夜さんは、そう言って私の傍に来ると、頭をや優しく撫でた。
ビクンと跳ね上がる体。
「雪乃は、僕の言うことにだけ頷いてたらいいからね」
聖夜さんは、そう言って再び私の頭を撫でた。
私の胸の鼓動はトクトクと早くなっていった。
どれくらい時間が経ったんだろう……。
聖夜さんの知り合いが来ると聞いてから、1時間以上は経ってるような……。
聖夜さんは座って静かに本を読み、私は目を下に向け、一点を見つめていた。
2人の間に会話はない。
その時、来客が来たことを告げる玄関の呼び鈴が鳴った。
体がビクンと跳ねる。
「来たかな?」
聖夜さんはそう言って、パタンと本を閉じると、立ち上がり玄関に行った。
聖夜さんが玄関を開けた途端……。
「遅くなってゴメンね~」
そう言った若い女性の声が聞こえてきた。
「遅いよ」
元気のいい女性の声に対して、静かな聖夜さんの声。
「ゴメンって~」
ゲラゲラ笑う女性。
本当に知り合い?
もしかして知り合い以上の関係なのかも……。
彼女、とか……。
その時、私の胸がチクンと痛んだ。
それがズキズキとした痛みに変わる。
ズキズキとモヤモヤが交差していく……。
胸のモヤモヤは、さっき感じたものと違っていた。
言葉に表せないモヤモヤとズキズキと痛む胸。
耳に聞こえる元気な女性の声と笑い声。
それが凄くイライラさせて泣きそうになる。
私は膝をギュッと抱え、そこに顔を埋めた。
「雪乃?」
聖夜さんに名前を呼ばれて、顔を上げる。
私の前には聖夜さんが立っていて、笑顔で私を見下ろしている。
その隣にはストレートの長い黒髪で、目が大きくて色白な女性がいて……。
綺麗な人……。
これが女性を見た私の第一印象だった。
「この子が雪乃ちゃん?うわぁ!ちょー可愛い!」
女性は私を見て笑顔でそう言って、しゃがむと私に抱きついてきた。
キツすぎない香水のいい匂いが鼻を掠める。
「こらこら怖がってるでしょ?」
聖夜さんがそう言って、女性を私から離した。
離された後も、女性は目をキラキラさせながら私を見ている。
「怖がらなくても大丈夫だからね。このオバちゃんは人間は喰わないから……」
別に怖がってるわけじゃなく、いきなりの事にビックリしただけで……。
でも人間は喰わないからって……。
「ちょっと!アキ?それ、どういう意味よ!それにオバちゃんってねぇ!私は、まだ21歳ですけどぉ?」
女性はそう言って聖夜さんを見る。
「アキ……?」
そう、思わず口に出した言葉。
女性は聖夜さんのことをアキって呼んだ。
「コイツの名前」
女性は再び私の方を見ると、そう言った。
そして「本名は知らないけどね」と、付け加え、クスッと笑った。
「お互いの本名を知らないなんて、おかしな関係でしょ?」
レイナさんはそう言ってクスッと笑った。
「アキとは、カレカノの関係じゃないしね」
聖夜さんとレイナさんの関係……。
レイナさん自ら教えてくれた。
やっぱりカレカノの関係じゃないんだ……。
じゃあ、2人の関係って、何?
「ねぇ、雪乃ちゃん?」
「あ、はい!」
「私とアキの関係、知りたい?」
レイナさんはそう言ってクスクス笑う。
「えっ?」
私は驚いて、レイナさんを見た。
まるでレイナさんに心を見透かされたようだ。
「レイナ!」
聖夜さんが、レイナさんの名前を呼ぶ。
まるで、いらないこと言うなと警告しているかのように……。
レイナさんは、私を見て肩をすくめて笑うとペロッと舌を出した。
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