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「レイナ、いくらだった?」


「えっ?」



いきなりそう言われたレイナさんは、驚いた声を出して聖夜さんを見た。



「頼んだもの」


「あぁ!お金はいらないよ。私のおごり」


「そういうわけにはいかないでしょ?レイナに貸しを作りたくないし」


「ホントにいいの。お金はいらないから」



レイナさんはそう言うと、傍に置いてあった紙袋やコンビニの袋を取った。



「これ、晩ごはんね。適当に買って来たから好きなの食べてね」



レイナさんは、パンパンに詰まった2つのコンビニ袋を聖夜さんに渡した。



“ありがとう”と言って受け取った聖夜さんは、コンビニ袋から中身を出してテーブルの上に置いた。



おにぎりにパンにサンドイッチ、サラダやカップ麺、カップスープにカップ味噌汁、ジュースにお茶にお菓子も出てきた。



「すごいな……」



テーブルの上に出された大量の食料を見て、聖夜さんはそう呟いた。



「それから……」



レイナさんは、今度はパンパンに詰まった2つの紙袋を私の前にドンと置いた。



紙袋の中をチラッと見る。



中身は洋服だ。



こんな沢山の服を買って来たの?



レイナさんって、お金持ち?



「これ、私のお古だけど……」



そうか、そうだよね。



いくら何でも、こんな大量の服が新品なわけないよね。



でも、こんだけの量のお古ってことは、レイナさんは、これよりも服を持ってるってことで……。



やっぱりレイナさんは、お金持ちなのか?



って、こんなにもらってもいいの?



「あ、あの……こんなに大量に……その、もらってもいいんですか?」


「うん!ぜんぜん構わないよ!好みもあるだろうから、着ない服はリサイクルショップに売ってくれてもいいしね」


「あ、ありがとうございます……」



私の笑顔、多分、引きつってる。



紙袋から出された服は、どれも高そう。



好みの服もあるけど、そうでないものもあるし、着たことないけど着てみたいなと思うものもある。



それにワンピースが多い。



レイナさんは“ワンピースが好きなんだよね”と笑っていた。



そんなレイナさんを見ると、ワンピースを着ていた。



「下着はね、新品だから安心してね」



えっ?下着まであるの?



驚く私に、レイナさんは今度は下着の入った紙袋を出して来た。



その中にはショーツや靴下、ストッキングにタイツなどが入ってる。



「アキが、雪乃ちゃんが私と同じくらいの体型だって言うから、私と同じサイズのものを買って来たんだけど……。Sサイズで大丈夫かな?」



私はコクンと頷いた。



「良かったぁ!あっ!でもね、ブラのサイズはわからなかったから買って来なかったの。ほら、体型が似てても胸のサイズは違うじゃない?」


「……そうですね」



確かに、胸のない私に比べたらレイナさんは胸はある方だ。



「あとでブラのサイズ教えてね?」


「……わかりました」



そう返事をした私だったけど、ふと頭の中にアル疑問が浮かんできた。



何でレイナさんは、こんなに大量の服と下着を持って来たんだろう……。



さっきまで“ありがとう”と、お礼を言ってた私の頭にそんな疑問が浮かんだ。



私が、もう家に帰れないと知ってるってこと?



聖夜さんは、レイナさんに私のことを何て話してあるんだろう……。



殺人現場を見られたから拉致ったとでも話したのか?



お互い本名を知らない間柄なのに、それはないか……。



「あの、これ……」



そこまで言いかけた時、何て聞いていいのかわからなくなって言葉が止まった。



「ん?」



レイナさんは、私を不思議そうに見ている。



私は聖夜さんをチラッと見た。



聖夜さんは、私が見た事を気にしてないかのように黙々とサンドイッチを食べながら雑誌を読んでいた。



目を大量の服と下着に移す。



「気に入らなかった?」



レイナさんはそう言って、下に向けている私の目を見た。



少し寂しそうな顔をして私を見るレイナさん。



私は頭を左右に振る。



違う……。



違うの。



気に入らないとか、そんなんじゃなくて……。



そういうことを言おうとしたんじゃなくて……。



「あの、あのね、本当にもらっていいのかな?と思って……」



そんなことを聞きたいわけじゃないのに、寂しそうな顔をしたレイナさんを見て、ついそう口から出てしまった。



「何だ~!そんなことかぁ!」



レイナさんの顔に笑顔が戻る。



「いいの、いいの。遠慮しないで。ねっ?私ね、アキから雪乃ちゃんのことを聞いた時に可哀想と思っちゃって、だからついついこんなに大量の服や下着や食べ物を持って来ちゃったの。それにね、私、雪乃ちゃんの気持ちが痛いほどわかるの……。私も似たような境遇だったから……」


「えっ?」



私の気持ちが痛いほどわかるって……。



それに似たような境遇って……。



どういうこと?



レイナさんも殺人現場を目撃して拉致られた経験があるってこと?



でも、もしそうなら聖夜さんはそれをレイナさんに話しているってことだよね?



お互い本名も知らない、カレカノの関係ではない人に話すなんて、自ら危ない橋を渡るようなことをするとは考えられない。



「施設から逃げて来たんでしょ?」



レイナさんの口から出た言葉は信じられないものだった。



「えっ?」



思わず、そう声に出してしまった。



施設?



そこから逃げて来た?



どういうこと?



「私もね、親に捨てられて施設で育ったんだけどね……」



私の心とは裏腹に、レイナさんはそんなことを話しだした。



えっ?えっ?



親に捨てられた?



私には両親がちゃんといて、家だってちゃんとある。



でもレイナさんは……。



訳のわからないことを言ってくる。



私の頭の中は混乱していた。



視線を感じて、そちらに向くと聖夜さんが無表情でこちらを見ている。



無言の圧力。



まるで話を合わせろ、余計なことは言うなと訴えてるみたいに……。



私は思わず聖夜さんから目を逸らした。



「雪乃ちゃん?どうしたの?」


「えっ?」



レイナさんの方を見る。



「……あ、な、何でも、ないです」



不思議そうに見るレイナさんにそう言った。



相変わらず、聖夜さんの視線を感じる。



もし、余計なことを言ったら……。



私も、あの女性のように……。



頭に血を流して倒れていた女性の遺体が浮かぶ。



体がガタガタ震えだす。



涙が溢れ出し、ポロポロと落ちていく。



その時、フワッと甘い香りに包まれた。



「大丈夫だよ……」



レイナさんが私を抱きしめ、そう呟いた。



涙が止まらない私の背中を優しく撫でるレイナさん。



「大丈夫、大丈夫だからね」



そう優しく言いながら……。



「ゴメン、なさい……」



私は、泣きながらレイナさんに謝った。



レイナさんの体が離れる。



「謝らなくていいから。ねっ?」



そう言ったレイナさんの頬にも涙が流れていた。



「大丈夫?少しは落ち着いた?」



しばらくしてレイナさんは、そう言ってニッコリ微笑んだ。



私は無言でコクンと頷いた。



「あいつら、ホントに人間のクズだよ……」



そう吐き捨てるように言ったレイナさんの顔からは笑顔が消えていてた。



「さっきも言ったけど、私も親に捨てられて施設で育ったから雪乃ちゃんの気持ちがわかるの」



あぁ、そう言えば……。



さっきそんなことを言ってたような……。



実際のところ、私は施設育ちではない。



親に捨てられたわけでもない。



だからレイナさんが、施設でどんな仕打ちを受けたのかはわからない。



でも、レイナさんの中で私は親に捨てられた施設育ちで、そこを抜け出したことになってて、それを思い出して泣いたと思ってる。



それは多分、聖夜さんの嘘だ。



私は聖夜さんの嘘が作り出した可哀想な少女を演じなくてはいけない。



もし、本当のことがバレたら私の命は……。



「レイナさんも、辛い思いをしたんですか?」



未知の境遇。



可哀想な少女を演じ、レイナさんと話を合わせるには、レイナさんの経験を知る必要があると思ったから私はそう聞いてみた。



「まぁね……」



レイナさんはそう言って苦笑いする。




「あいつらは人間じゃない。人間の面をした悪魔だよ。人を苦しめても平気なね」



人間じゃない。



悪魔。



そう言い切ったレイナさん。



彼女は一体、どんな経験をしてきたんだろう……。



レイナさんの話を聞き終わったあと、私は何て言っていいのかわからなかった。



レイナさんは物心ついた時から施設にいて、親の顔を知らないで育った。



小さい時には、悪さをしたり、食べ物をこぼしたりしたら叱られていた。



手を叩かれたり、ホッペをつねられたり……。



周りの子供に対しても、そんなことをしていたから、それが当たり前だと思っていたし、泣いて謝れば許してくれた。



でも、年齢が上がるにつれて、それは徐々に激しくなっていく。



殴る蹴るは当たり前。



何もしてなくても、理不尽な理由をつけられて殴られたり蹴られたりしていた。



顔は狙わないで、服で隠れるとこだけを狙って暴力を振るう。



このことは絶対に言うなって口止めもされていた。



皆、もし誰かに言ったら、それ以上のことをされるんじゃないかと思っていた。



レイナさんもそう思っていて、怖くて誰にも助けを求めることが出来なかったらしい……。



そんな生活の中で自由になれる時間は学校に行ってる時だけで、その時だけは施設での生活を忘れられる唯一の時間だった。



でも学校が終わり、施設に帰ると地獄が待っている。



ある日、レイナさんと同じ施設内で一緒に生活していた親友とで家出を決行した。



それが中学3年の時。



わずかなお金しか持ってなく、遠くに行けるわけじゃない。



1本のジュースと、ひとつの菓子パンをふたりでわけて、ひたすら歩いた。



でも歩いて行ける距離なんて限られていて……。



結局、制服姿だったレイナさんと親友は補導され、施設に連れ戻され、家出は失敗に終わった。



それからも続く躾と言う名の虐待の日々。



家出をしたことで、レイナさんと親友のふたりだけ虐待が激しさを増していった。



殴る蹴るの暴力。



そして……。



レイナさんと親友は、施設職員によって性的虐待をされ、処女を失った……。



それからは施設職員にセックスを強要され、嫌がると無理矢理ヤられる。



施設は中学校を卒業したら出て行かないといけない。



卒業して、施設を出たら自由が待っている。



親友と励まし合い、あと少しの辛抱と自分に言い聞かせ、我慢してきた。



でも、卒業式の1週間前……。



親友が部屋で手首を切って自殺していた……。



ベッドの上で冷たくなっていた親友。



薔薇の花のように真っ赤に染まったシーツ。



同じ時を過ごし、いつも一緒にいて、苦しいときや辛いときも励まし合った親友。



そんな大切な親友を失ってしまった……。



自殺という形で。



でも自殺という自ら死を選んだのに、苦しみから解放された親友は凄く穏やかな顔をしていたと教えてくれた。



遺書は残されてなかったけど、レイナさん宛てに書いた手紙が、亡くなった次の日に机の中から見つかった。



そこにはレイナさんと過ごした楽しかった日々が綴られていて、でも虐待に耐えられなかったこと、中学卒業した後に施設を出たら一緒に暮らそうという約束が果たせなかったことへのお詫びが書かれていた。



レイナさんへの手紙と一緒に封筒の中に、親友がいつもしていたネックレスが入っていた。



親友が施設に預けられた時に持っていたものらしく、親友の名前のイニシャルのMのチャームに誕生石のダイヤモンドが埋め込まれたネックレス。



それは親友がレイナさんに残してくれたもの。



レイナさんに持っていて欲しいという親友の願い。



レイナさんは今もそのネックレスを肌身離さず着けているのを見せてくれた。



そして、レイナさんは卒業を待たず施設を出た。



学校の友達に、お金を貸して欲しいと頭を下げ、何も理由を聞かずに、お年玉からお金を貸してくれた友達。



そのお金を持って、電車に乗り、この街にやってきた。



それから、ずっとこの街にいて、施設のあった街には、友達に借りたお金を返しに行っただけで、それっきり行ってないらしく、今、施設がどうなったかも知らないらしい……。



「あの子の墓参りにも行けてないの……。本当は行きたいんだけどね……」



レイナさんは、悲しそうな笑顔を浮かべて、そう言っていた。




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