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街灯の灯りだけで照らされた夜道を息を切らした少年が走っている。
遡ること十数分前…
時刻は午後九時を数分過ぎたあたり。その道の両端には家がたくさん並んでいるが、その一つにだって灯りはついていない。
街灯の少しの灯りに照らされた道を
少年・東紡(あずま つむぐ)は一人歩いていた。あたりに人の気配はなく、聞こえるのは自分の足音だけ。
少年は高校二年生だ。勉強は難しくなる一方で頭がついていかない。そこで塾に通うことになった。前まではこんな夜遅くに夜道を歩くなんてかとしたことはなかった。早く帰りたい。お腹すいたし眠い!
そんなことを考えながら狭い道に入る。
そのとき足が止まった。紡の視線の先には建物と建物の間の人が一人通れるくらいの隙間。だが、その隙間を見ているのでは無い。
隙間の中で宙に浮かぶように瞳が浮いている。その瞳がつくべき顔はどこにも無い。しかも一つしか浮いていない。その先にあるのは暗闇。
、、、違う。いくらなんでもこんなに暗いことがあるだろうか。夜道だけど近くに街灯もある。あたりが全く見えないわけでは無い。なのにその隙間は、瞳の奥は、何もかも吸い込みそうな闇の世界が広がっている。
ふと紡は左腕を伸ばした。伸ばした左腕はその闇の世界の何かに伸ばされている。紡は怖がりだ。普段ならそんなことはしない。得体の知れない空間に手を伸ばしたりなんてするはずがない。だが、紡は引き込まれてしまった。なんとなく、理由もなくこの空間に入りたいと思った。触れたいと。そして 左腕の二の腕あたり まで 闇の世界に 入る 。
ズル ルル ズルルルルル
「う、 あぁぁああ”ぁぁぁ”!!!!!!」
なんだ。なんなんだ今のは。何かが腕の中に入った気がする。なんかはわからないが、すごく危なかった。気がする。
ふいに視線を隙間に戻す。なぜだろう。汗が止まらない。嫌な汗がダラダラ額を伝う。暑くないのに。
隙間にある暗闇の瞳はニィっと笑っている。その瞬間頭の中の警報が鳴った。
ー逃げろ‼︎絶対に捕まっちゃダメだ‼︎戻れなくなるぞ‼︎
誰の声かわからない。わからないけど「捕まってはいけない。」紡もそう思う。全くの同意見だ。だがなぜだろう。足が動かないのだ。力が入らず、立ち上がれない。立ち上がれても走れる気がしない。ゆっくりゆっくりと、闇の世界が、闇の中の瞳が近づいてくる。隙間の中の闇が、姿を現す。それはなんの形もしていなかった。液体が意思を持って動き、形をなしている。そして、とてもとても暗い。そうとしか言いようがない。そしてその暗い液体から一つの突起が現れる。それは重そうな動きで紡に近づいてくる。
もうダメだ。今度こそ終わる。
その瞬間だった。今までの頭の中の声が怒鳴った。気づいたらもう、紡は走っていた。今まででこんなに速く、息を切らして走ったことはない。でも足が動いた。後ろで’あれ’が追いかけてる ズルッズルルルルルと不気味な音がする。怖い。怖い怖い怖い。
心臓が、止まるかと思った。掴まれている。左腕が。ものすごい力で。あの暗い液体が左腕全体を覆っている。
ギュゥゥゥゥゥ
「ぐ、い”たいぃぃ!!!はなせよぉっ!!」
液体は覆った左腕を強く圧迫している。そして
ゴリッ「あ”ッ」
骨が砕けるとこんな音がするのか。場違いにも紡はそんなことを考えた。だがすぐに意識は左腕に戻り、今まで感じたことのない激しい痛みが紡を襲った。
「あ”ぁぁぁ”ぁぁぁ‼︎‼︎」
そして体が勢いよく宙に浮かぶ。地面のない3メートルほどの高さで体が自由になるのを感じる。そして体が重力に従って地面に吸い込まれていく。
ドサッ
痛みに悶える声を出すことができない。腹から落下し、呼吸するのも苦しい。
「ハッア”ッ、ハッ ゲホッ」
意識が朦朧としている。液体がまた突起を出す。そして紡の体に触れるー。
女の人の高い声がする。その次の瞬間、あたりが真っ白になる。眩しい。ついに自分は天国に行ってしまったのだろうか、、、?そんなことを考えていたら、うつ伏せになって地面をむいている紡を何者かがヒョイっと抱き上げ、地面を蹴り、空を舞った。そして着地。
「っし、決まった。」
さっきの女の声だ。ゆっくり地面に降ろされる。左腕が痛む。
「あちゃー、これは折れちゃってんじゃない?どー思う?ムサオ」
「あ?俺は医者じゃあねーからなぁ。よく分からん。」
「バカだからわかんないんじゃなく?」
「あまり年上を馬鹿にするもんじゃないぜ」
一人は女の高い声。もう一人は中年の男の低い声だ。紡がうっすら目を開く。
「おっ。意識あったか坊や。よく頑張ったなー」
声の主は、綺麗な女だった。前髪は短く、髪は金髪で二つに分けて結んでいる。そしてその女は細い望遠鏡のようなものを取り出した。石でできているのか、月に照らされ光っている。
「おぉ、坊や、君”持ってる”じゃんか。」
「お?久々じゃないか?俺たちが”持ってる”奴を見つけるのは。」
“持ってる”?なんのことだろうか。ダメだ。頭がぼうっとしてくる。
「あ、、、、の」
残った力を使って声を出す。
「んじゃまあ、いかなきゃだよねー。」
紡の声を無視して女が話し出す。
「それじゃ坊や。君の家教えてくれる?」
今から家に歩いて行くのは正直しんどい。紡は、できれば病院に連れて行ってほしい。
「あ!安心して!歩かせたりしないから。」
じゃあ車にでも乗せてくれるのだろうか、、、?
「ところで坊や、、、」
空中散歩は好き?
第一話終わり