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水浴びを終えた俺とキュルル。用意してくれてたのは……どう見ても
スカートと上着。
うわああーーーーーーーー! なんで十八の男がスカート履かなきゃいけ
ないんだ!
……もう自分の着ていたドロドロの服が無い!
はぁ……仕方ない。これは異世界の洗礼。着るしかない。
前世のように何でも上手くいくわけなんて無い。
着るものがあるだけ贅沢って思おう。
まともに着るものが無い国だってあったんだから。
……布でキュルルを先に拭いてやって、その後自分の体も拭く。
キュルルに巻けっていってるような大きさの布を上手く巻いてやると、目と口と尻尾部分
以外あんまりよくわからないヘンテコな生物に見えるようになった。
……もうちょっと可愛く見えるようになるやつ、買ってあげたいな。
今は贅沢なんて言えたものじゃない。
明日の宿にだって困る、一文無しなんだから。
キュルルを連れて洗い場を出ると、マシェリさんが木で出来た
飲み物入れ……グラスとは言い難い物で飲み物を飲んでいた。
お酒かな?
「良く似合ってる。可愛いよ、ファウちゃん」
「からかわないで下さいよ。どうして男だって言ってくれなかった
んですか!」
「だってねぇ。ここの宿にいる子供ってほら。あの娘だけだから。それとも
店主のおじさんの、でかい服借りるよりマシだろう?」
「えっ?」
マシェリさんが指し示す方向を見ると、小さい女の子が食べ物を運んでいるの
が目に入った。
やっぱり俺の背丈より大きい。年上かな。
こっちに気付いて食べ物をお客に渡すと駆け寄って来る。
「私の服、サイズぴったり! ねえお名前は? 私はリーシュアル・トゥ
ーナ! 皆リシュナって呼ぶのよ」
オードレートの挨拶は止めておこう。つい癖で出てしまうかもだけど……。
「えっと……ファーヴィルです。ファーヴィル・ブランザス。ファウって
呼ばれてます」
「ファウったら顔真っ赤。ふふっ。私はもう一杯飲んでるから、ゆっくり話したら
席につきな。食事にするよ」
そりゃそうだよ! だって俺、男なのに、目の前の女の子の服を借りるはめに
なってるんだよ?
男だってばれたら絶対軽蔑されるよ!
「マシェリさん!」
「ファウちゃんって言うんだ。お姉さんの妹さん?」
「えっと、その。そんな……トコ、かな。はは……」
リシュナという子は同じ年齢位なのかな。
前掛けを身に着けて、しっかりお手伝いしてるように見える。
少しトーナの様な雰囲気のある、癖毛の女の子だ。
髪色は黒色だけど、マシェリさんよりは茶色っぽい黒かな。
背丈は、俺の方が小さい……。
「ふぅーん。後で食事持っていくから、お話しよ。同じくらいだよね?
私、九歳だよ」
「僕は、七歳です」
「年下なんだ! 私より年下だと、ずーっと小さい子しかいないの。お友達に
なってよー」
「うん……僕でいいなら。でもあの……」
「やった! また後でね!」
行ってしまった……どうしよ。宿屋にそんな長居はしない……よね?
だったら一晩だけ借りて返せば、そんなに怒られないかな。
「さぁファウちゃーん。こっちこっち。何食べるか」
「マシェリさん、ちょっと酔ってません?」
「何言ってるんだ。たった二杯で私が酔うか。何だったらファウちゃんも
飲んでみる?」
「いいです! 僕まだ七歳ですよ。飲めるわけないです!」
「真面目だな、ファウは。さて、冗談はこれくらいにして……リシュナ
ちゃーん。こっちにロブゥのもも肉二つとハリシンの盛り合わせね」
「はーい。マシェリお姉さん、直ぐ持っていきまーす」
「この宿はもう、長いんですか?」
「今日で十日目になるか。まぁまぁ長い方だね。請け負った依頼が三つあった。
うち二つは今日で終わったよ」
「一度に三つも依頼を受けるんですか!?」
「受けれる依頼は同時に三つまでって決まりがあってね。受注場所はここから
離れたエストマージの都だから。もっとまとめて受けたい位なんだけどねぇ」
「そうだったんですか。何処の町でも依頼を受けれるわけじゃないんですね」
「町長や町民から突発で頼まれる依頼はあるよ。有名な冒険者ならね。
その場合はこっちで依頼書を書いてやらないといけないから、面倒なんだけど」
「逆受注ですか。管理が大変そうですね……」
「そう。偽装するバカな奴もいてね。たまに捕まったりしてる」
「どうやって発覚するんですか? それって」
「ルークアシェンダリー」
これは……再び俺の体が青く光を強く発する。
そして光は直ぐ消滅する。
「これ……最初に会った時に使ってたラギ・アルデの力ですよね?」
「真実の光と呼ばれるラギ・アルデの初歩術だ。これがあるお陰で
悪人はそうそう町に入れないのさ」
「そうか。入り口の門番さんも使用してましたもんね」
「そう。お金は取られるけど。青い光を発する者は取り調べの必要が無い。
黄色なら取り調べ。赤は……暗殺者の類とか、危険過ぎる奴らだね」
「そうだったんですね……」
と、話していたところでリシュナが美味しそうな骨付き肉二つと
野菜の盛り合わせのような物を担いで持ってくる。
それ以外にもスープを二つ持ってきてくれた。
「あれ? これは頼んでないよ」
「うん。スープも一緒に取れ! って」
「そっか。せっかくだし頂いておこう。何せお代は込みだし」
「ええと……はい。それじゃせっかくなので」
……お金、早速借りる事になっちゃうけど仕方ない。
頼んでもらったんだし食べよう。お代込みってどういう意味だったんだろう?
「……つせねれものちぃちこほほろなみユトォ・イミテェ。ふゐめいみをきぃちをぉゐつろときぃはら
へせをあぁもぬ、ろゐめもるるりぃけわ」
『……天と地を育む大いなる
ラギ・アルデ。実りある食事の提供に感謝を込め、祈りを捧げます』
……あれ? 俺は何かおかしな事を言っただろうか?
「なぁに、いまの?」
「ファウ。それはこの国では使わない言葉だ」
「あっ……」
思わず口を手で押さえる。そっか。自然と食事前の言葉が出てしまった。
この辺の人間じゃ無い事がばれてしまう。
気を付けないと。
「おお。このスープ美味いな!」
「お父さん、ファウちゃんの事私より可愛いって言うのよ。失礼しちゃうよね」
「ははっ。そうだな。リシュナだってこんなに可愛いのに。将来いいお嫁さんに
なりそうだろう? なぁ、ファウちゃん?」
「ファウちゃんは止めてください……そうですね。確かにこのスープ凄く美味しい……」
「スープの話じゃなくて私の話だよ、ファウちゃん!」
ぼーっとしてしまったが、気を取り直してスープを飲んでみたら、実に
味わい深かった。
コンソメスープとはちょっと違うけど、オニオンスープとも違うし、うーん。
でも、こんな美味しいスープ飲んだの初めてだ。
何せ飲んでるそばから冷たくなってしまうスープしか飲んでいなかった。
温まる……凄くほっとする。トーナやエーテにも飲ませてやりたい……。
「ファウちゃん? 美味しくなくなった?」
「ううん。とっても美味しいよ。体の底から温まるんだ」
「ファウちゃんはね。寒いところにしばらく住んでたから、温かい物が好きなの」
「そうだったんだ……それなら、スープお代わりして。私よそって来るから!」
「あっ……なんか僕、余計な心配させちゃいましたよね。九歳の女の子に」
「何言ってるの。七歳の女の子のファウちゃん」
「もう! マシェリさん!」
「はいはい。さっさと食べて寝室に行くぞ。そろそろキュルルもお腹空いてそうだ」
「うん。急いで食べますね」
ちょっと気が引けた、ロブゥという謎のお肉もぷりぷりしていてとても美味し
く、野菜も色々な味がしたけど、前世の食べていた野菜以上に美味しく感じた。
お代わりのスープも食べ終わり、久々に満腹過ぎる程の食事を食べ、マシェリ
さんと共に寝室へと向かった。
「あの……ベッドが一つしかありません……」
「当たり前だろう。一人で泊ってたんだから」
「そうですよね……僕、床で寝ますから」
「何言ってる。子供何だから一緒に寝るよ」
「はぁ……わかりました。キュルルの下の世話だけ。どうにかお手洗いだけ覚えて
もらわないと」
「キュルルー?」
「竜は賢い。きっと教えれば直ぐ覚えるだろう。明日は買い物に行く。
ファウにも手伝ってもらいたい仕事があるんだ。それを手伝ってもらう代わりに
キュルルに似合う服、買ってやんな」
「本当ですか!? やった!」
「ふふっ。さぁ早く寝るよ。明日も早起きしてやる事がいっぱいだ」
「はい! ……あ、一緒に寝るんでしたよね。はぁ……」
結局女性服のまま髪を撫でられつつ寝る事に。
外見は七歳でも中身は十八歳。
こんなの落ち着いて寝られる訳ないだろ!
精神的に辛い夜が、始まろうとしていた。
でも、体が七歳だから直ぐ眠れるんだよね……。