テラーノベル
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「やめて、エリカ! 来ないで!」
美波の悲鳴が雨の屋上に響き渡る。
かつては命令一つで動かしていた「手下」のエリカが
今は血走った目でカッターを振り回し、自分を殺そうとしている。
この皮肉な逆転劇を、私はレンズ越しに冷徹に見つめていた。
「あんたのせいで全部失ったのよ! 医者の妻の座も、タワマンも、私の人生全部!」
エリカの刃が美波の頬をかすめ、赤い線が走る。
美波はなりふり構わずエリカの髪を掴み、二人は泥沼の取っ組み合いを始めた。
高級ブランドの服が引き裂かれ
泥にまみれる様は、彼女たちがひた隠しにしてきた醜い本性そのものだった。
そのとき
美波のポケットの中でスマホが震え、大音量の音声が流れ出した。
『あはははは! 痛い? ねぇ、痛い?』
それは、死んだ愛華の声だった。
10年前、私を囲んで笑っていた時の、あの下劣で突き刺さるような笑い声。
「いやあああ!消して、消してよ!!」
恐怖でパニックに陥った美波が、エリカを力任せに突き飛ばした。
エリカの体が大きくよろけ、錆びついたフェンスに激しく打ち付けられる。
ギギギ、と嫌な金属音がして、フェンスが外側に歪んだ。
「死ね……死ねばいいのよ、あんたなんて!」
美波が形相を変え、エリカの胸元を突き飛ばそうとしたその瞬間——。
バァン! と、屋上の重い鉄扉が蹴破られた。
「そこまでだ」
九条刑事の声。
背後には数人の警察官。
美波の手が止まる。
だが、エリカの体はすでにフェンスを越えて宙に浮いていた。
「あ……」
美波が呆然と漏らす。
九条は素早く動いた。
地面を蹴り、落下しかけていたエリカの手を間一髪で掴み取る。
フェンスの外でぶら下がるエリカと、それを引き上げる警察官たち。
私はその混乱のすべてを、無言で配信し続けていた。
コメント欄には、美波のフォロワーたちからの驚愕と罵倒が猛烈な勢いで流れていく。
『最低……友達を突き落とそうとしたの?』
『今の笑い声何?10年前のいじめって本当だったんだ』
『聖母のフリしてこんなんかよ』
美波が震える手で自分のスマホを見る。
画面には、自分が今まさに世界中から「怪物」として指弾されている現実が映し出されていた。
「違う……私は、悪くない…!!こいつが、エリカが先に殺そうとしてきたのよ!」
九条がエリカを屋上に引き上げ、手錠をかける。
そして、ゆっくりと美波の方へ歩み寄った。
「美波さん。君のスマホ、ずっとライブ配信されていたよ。…送り主は、君自身のアカウントからだ」
九条の視線が、スマホを向けている私の方へ向く。
私は静かにスマホを下ろし、ホワイトボードを掲げた。
『自業自得。……そうですよね、九条さん?』
九条は一瞬、口角を上げたように見えたが、すぐに表情を消して命じた。
「美波、殺人未遂の容疑で同行願おうか。…10年前の事件についても、たっぷり聞かせてもらうよ」
美波は力なく膝をついた。
女王の冠が、泥の中に沈んでいく。
だが、私の復讐はまだ終わらない。
『パンドラ』の画面には、次なる通知が灯っていた。
【第二の生贄】
残るターゲットは、B(秘書・沙織)。
彼女が隠している「真実の恋」を、処刑台に載せましょう。
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深冬芽以