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華やかな言葉を使い倒したいが為に書いたアメ日
◇政治的意図はございません
遥か頭上に,大輪の薔薇の如く咲き誇るシャンデリア。
「お手を,レディ」
しなやかでいて,力強い手がこちらに伸びる。その手を離すまいと,腕を絡ませた。
「レディと言うのは,頂けませんね」
「…無理がありますよ,その格好で」
ああそうだ。そういう格好なのだ。
「似合ってるぜ」
「…光栄です」
段々,あの素晴らしく綺麗な薔薇に近付く。一段,また一段。螺旋状の階段は途切れること無く,あそこまで導いてくれるのだ。
「もうすぐですよ」
幾重にも重なる光が,僕達を柔らかく包み込む。不安げに軋む足元とも,高過ぎるヒールとも,もう。
「…着きましたよ,お嬢さん?」
「…さっきレディ扱いしたばっかりなのに,次は子供ですか?」
「ええ,まぁ。これぐらいで,大変お疲れの様ですから。」
彼はそう言い,くすくすといたずらっぽく笑って見せた。悪魔みたいなひとだ。
「…からかうのは,もう結構。折角ここまで来たんですから,楽しみましょう」
「勿論です。…レディ?」
…ああ,これだから,このひとは!
何とも優美な音楽と共に,皆が踊り出す。その様子はまるで,風に揺られる花達のようだった。無論,僕達も例外ではない。
先程よりも確かに力強く,頭上に煌めくシャンデリア。本物の蝋燭を灯しているのだろうか。微かに,揺れている気がする。その様子をうっとりと眺めていると,突然横からぐんと引っ張られる感覚に,バランスを崩した。
「お嬢さん,貴方はまさか,あの光源をご覧にいらっしゃったのですか?」
「…まさか,そんな。」
いいや,そうだ。あれは只の光源ではない。この夜会を正常に乱れさせる為の,華。
「でしたら…俺を見て。」
何とも独占欲の強いひとだ。…僕は少しだけ,意地悪な答えをよこした。
「見ています,勿論。貴方は僕を…視ていますか?」
「ええ。」
即答。まぁ,彼のことだ。それは僕自身が一番知っている。
「…踊りましょう」
音楽に合わせて,ドレスが揺れる。白を基調とした地に,淡い桃。背から腰まではぴったりと吸い付くように。胸元は大胆に開いて。スカートはパニエを仕込んで,ふわりと広がっていた。おまけに,スパンコールを散りばめて。…あまり,こういう格好は趣味で無い。それでも,彼がせがむから。
「…綺麗だな」
「…何が?」
彼は何も言わない。そこは君が,と言う所だろう。
やがて音楽は鳴りやんで,花達も散り散りに。…僕達も帰らなければ。
顔に出ていただろうか。彼は優しく僕を誘った。
「レディ,あの薔薇に…もう少し近付いてみませんか?」
一段,また一段。足元が摩れて痛い。
「お手を,レディ」
今度は,さっきよりも強く。差し伸べられた手に,腕を絡ませる。
「…お疲れなんですね」
「…黙りなさい」
また,彼は笑う。そんなに可笑しいか。
見事な薔薇だった。ちらちらと揺れる蝋燭の光を吸って,光輝く。
「…綺麗ですね」
「…何が?」
「この,シャンデリア,が…」
ふと,頬に熱いものが触れた。と思ったら,次の瞬間には,唇に熱いものが触れた。
「日本が一番,綺麗だよ」
アメリカさんは,そう言った。
多分その時,僕の顔は,あの薔薇のような色をしていたに違い無い。