使者の一行は四人だけだった。 全員馬に乗り、前に一人、真ん中に一人、後ろに二人で進んでくる。特に真ん中の騎士が目を引く。身体が大きく威圧感がすごいのだ。
リオは、目は騎士に向けたまま、アトラスに小声で聞く。
「あの真ん中の人が使者だろ?」
「そうだよ、よく気づいたね」
「アトラスは、あの人を知ってるのか?」
「知ってるよ。一度だけ見かけたことがある」
「へぇ、どこで?」
「王城で。騎士になり、ギデオン様付きを任命された時に見かけたよ。すごく睨まれて怖かったんだよ」
アトラスの情けない声に、リオは視線を使者からアトラスに移す。
視線に気づいたアトラスもリオを見て、へにゃりと笑う。
失礼だけど、アトラスは本当に騎士なのかと疑うほどに、頼りないとリオは思っている。
「…なんかやらかしたのか?」
「え?違う違う。俺はちゃんとしてた。手順通りに挨拶したし。立派だったよ!」
「へえ…」
「なにその目!本当だからね!俺はいざという時はやる男だよっ」
「…へぇ」
アトラスは親指を立てて笑い、窓枠に手をついて身を乗り出した。隠れる気が一切ない。
|覗き見《のぞきみ》していることがバレるじゃんかと、リオは逆に隠れるように身を引く。
これで注意されるならアトラスだけだぞと、アトラスを見て小さく息を吐き出した。
アトラスは、窓の下の使者を見つめながら口を開く。
「あの使者の人、たぶんギデオン様のことが嫌いなんだよね。ギデオン様が自らそう仰られてたし。なぜ嫌われているのかはわからないらしいけど」
「ふーん、二人の間に何かあったのかな?」
「さあ。詳しくは俺も知らない。しかしあの人が使者かぁ。ギデオン様、大丈夫かな」
「大丈夫じゃないか?ギデオンは常に冷静だし」
「まあそうだけど」
「なあ、使者は大広間に入るんだろ?」
「そうだよ」
「こっそり覗ける場所ある?」
「なにするの?」
「使者が何しに来たのか気になる。それにギデオンに失礼な態度を取らないかも気になる」
「あー…まあな。でもゲイルさんがいるから、|露骨《ろこつ》に失礼な態度はとれないと思うよ」
「そうだといいけど」
リオが再び、窓の外を覗いていると、アトラスがこちらを見て口元を押さえ「ぐふふ」と気持ち悪く笑った。
リオは思いっきり渋い顔をアトラスに向ける。
「なに?気持ち悪いんだけど」
「いやいや、リオは心配性なんだねぇ。大丈夫だと言いながらギデオン様のことを気にして、ギデオン様のことが本当に大好きなんだねぇ」
「はあ?」
いきなり|突拍子《とっぴょうし》もないことを言うアトラスに、リオの口から心底わけがわからないという意味の「はあ?」が出た。
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