たんぺん
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ぼくがきみを見つけた時は冬だった
寒さがさほどきつくない時。
ぼくはマフラーをしていた。
心の底から睨むような
誰かを見捨てるその目。
自分をなんとも思わずに
ただ貶しているだけな体と心
心と共に付けられたあざや傷は
治っていなくて、血を流して辛そうだ
ぼくは。ぼくはただ
きみのその姿に一瞬で好きになった。
きみは多分いつもの、として
僕をしたから見上げるように睨み、
体を隠しているように後ろへ下がった。
ぼくは名前を聞いた。
きみは名前を言えずに、
ぱくぱくと口を開くばかり。
言えないのか、はたまた
喉が潰れているだとか。
ぼくはとにかくきみの環境を
なんとなく、分かって思った。
なんて、できない子なんだろう。
きっとそう思われたんだろうなぁ。
今きみと出会って少ししか
たっていないのに思う。
できない子。本当になにも、
普通にできない子。
でもそんなところがぼくを
目立たたせてくれる気がする。
ぼくはすぐにきみの事を好きになった。
きみと過ごしていくと、
とても自分らしくいれた。
きみがかわいくて、きみの笑顔が
ほんとうに最高だった。
それにきみもぼくを頼って、
喜んだりしてくれた。
嬉しくて、ぼくといっしょ、
と言うときみは嬉しそうにする。
ぼくときみはずっといっしょ。
最後も、きっと、いっしょ。
毎日路地裏へみんなが見えない所で
きみと待ち合わせしていたら、
きみはぼくが思い出せないほど
綺麗な姿だった。
体についた痣も怪我も、
ちゃんと治している。
肩を見せて夏のような格好。
ワンピースのふわふわした
羽が綺麗だった。
ぼくはその姿にびっくりして、
唖然としてしまった。
きみは照れて、かわいくなった
自分の姿をみせている。
ぼくはその姿が見てほしくて、
街中を歩こうとした。
でもきみは傷がきたないからと
ぼくの服の素手引っ張った。
その時に見た腕が、
思っていたよりいたそうで、
きみが「きたない」という理由が
すこしわかったような気がした。
でもぼくはきみに似合う
ひまわりを引っこ抜いて渡した。
髪には白の花をつけて、
きみの黒い髪にはお似合いでかわいい。
その花を大切にすると
ぼくに笑ってくれた。
きみとの日々を過ごしていたある日。
きみはぼくに告白してくれた。
本当はぼくから言いたかったけど
きみは顔を赤くしてあの花を
片手に すき と言って、
ぼくを抱きしめた。
その時にきみのいたい傷が
ぼくの髪に摺れてきみは痛がる。
ぼくは不安で仕方なくて、
きみが消えそうで怖い。
ぼくの体にはないのに、
なんできみにはあるんだろう。
いっそぼくが、全部
ぼくになったらいいのに。
きみはいたがっていても、
ぼくへの思いは止まらなくて
きみはまた抱きしめてくれた。
嬉しかった。
きみの温もりって、
こんなにあったかい。
こうして、ぼくらは
結婚する約束まで交した。
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何十年、経った時の事だった。
僕自身かなり忙しくなって、
勉強に専念しなきゃいけなかった。
君に出会うことが少なくなって
君と一緒にいる時間が少ない。
君はなんともないと言うが、
僕にしては深い傷。
心にある深い傷が唸って、
痛くなりだす苦しさが悶える。
そこで、 勉強に空きが出来たら、
もし、そう出来るならば。
僕は自分が持っている全ての財産を持ち、
バイトであつめたお金を手にする。
このお金で指輪を買って、
君の綺麗な指に入れてあげる。
君に似合う綺麗な指輪は
シルバーの光を放つ綺麗な色。
内側には英語が書かれていて、
たしか「Will you marry me?」だ。
訳すと「結婚してください」
というシンプルな意味。
君がいる路地裏へいく。
君がずっといる路地裏へ。
息を切らして走った。
君と久々に会える。
話すことがとにかく楽しみすぎて、
大人になった僕を見て欲しい。
僕大学受験受かったよ。
僕、頑張ったよ。
君を救えるような医者になるって
君と出会った時から思ってた。
君がいる路地裏へついても
君はそこには居ない。
はっとして、路地裏の奥側に行く。
そういや、今頃じゃ
もう眠っちゃってるかもな。
そう思って、申し訳ないけど
起こそうと路地裏を歩く。
でも、君はいなくて
おかしい、と焦った
おかしいと思うのは遅いのか
早いのか分からなくなって、
僕の手から指輪が落ちてく
手のひらが見えないように
していた感情を教えてきて、
小さい頃に見た夢が再生される。
ピアノの音より芯のある
君の声が聞こえた気がして
夜に咲く美しい月のような
存在感が恐ろしくって
君の悲しさが残った
君の背中が残った路地裏に
あの日あげた、スミレが
白のスミレが散って
ぐるくるとまわる脳内にあるのは
君の長い髪の毛だけで、
あの日あげたスミレが、
泣き出しそうな程君らしくて
君と見たかった世界が崩れて
僕の中で静かに治っていく。
僕が思っていたよりも、
君は釣れなくて悲しい子だった。
気づかない間に傷が増えて
あんなに袖を濡らしていた。
君は僕の元から離れた。
今でも想っている。
マフラー巻いて、寒さに凍える
きつい瞳をした君の姿を。
今も覚えて、マフラー巻いて、
暖かくなっても君の姿を消えなくて
僕はまだ君に好きって言っていないのに。
僕から好きって言いたかった。
好きって、好きって言って春になって
僕ら一緒だねって
指輪を光らせて
でも、マフラー巻くと思い出す
君をできない子、と思っていた記憶が。
逃げ出そうとはしないのだ。
僕からは逃げない記憶なのだ。
これは僕にとって痛感だ。
みんなと同じ思考をした。
君は、ほんとうは、
できない子なんかじゃない
ひとりの女の子をまもれない
ぼくこそが、できないこ。
そう思った日から
きみはぼくの前へきてくれた
きみはいうんだ
わたしらできないこ。
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いつかあのひまわりに似合う、
君に出会えたらいいな。
ありがとうございました(満足)
白色のスミレは無邪気な恋。
本当は無邪気なんですよね。
コメント
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投稿あざます🙇♂️🙇♂️ 「できないこ」で締めるのかと思いきや、「本当は…」とぬるりと入ってきた主の一言で涙腺崩壊してもう一度最初から読み直してきました。 短編でも長編レベルに読者に満足感が与えられるのは本当に尊敬します…🙇♂️🙇♂️🙇♂️🙇♂️