テラーノベル
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鳥の声で目を覚ましたとき、窓の外はもう白み始めていた。畳の上、毛布にくるまって横たわるのは……
人間の姿に戻った健さんだった。
乱れた髪、浅い呼吸、額にうっすら浮かぶ汗。
「……健さん」
声をかけると、ゆっくりと瞼が開く。
黄金だった瞳は、もう元の深い黒に戻っていた。
『……見たんやな、全部』
その声は低く、諦めの色を含んでいた。
あんたは少し迷ってから、頷いた。
『……怖くなかったんか』
「正直、怖かった。でも……それ以上に、あなたが苦しそうに見えた」
健は一瞬だけ視線を逸らし、手で顔を覆った。
『俺は人を傷つけるもんや。……いつか、あんたもそうなる。』
「それでも」
あんたは遮るように言った。
「それでも、私はあなたのそばにいたい」
健の指先が、微かに震えていた。
その手を、あんたはそっと包み込む。
体温が伝わり、二人の間に静かな時間が流れる。
障子の隙間から差し込む朝日が、彼の横顔を照らした。
その光はまるで……
長い夜の闇を少しだけ溶かすみたいやった。
『……アカンな。そんなこと言われたら、もう離せへん。』
健の口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
けれど、あんたはまだ知らなかった。
この村で“離れられへん”という言葉が、どんな意味を持つのかを。
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