テラーノベル
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そこに身体の重さも相まって、真衣香は早々に抵抗をやめてしまった。
「……てか、一応聞きますけど、送るってどこまで送るつもりなんですか?」
「は? 家だろ、そんなもん」
なぜか喧嘩腰な坪井に対して、八木も負けじと不機嫌そうだが。
次に声を発した坪井の雰囲気は、それを更に上回って感じる。
「まさか、家の中に、上がり込まないですよね」
やけに一言ずつ区切って、ゆっくりと問いかけた。
それに対して八木は鼻で笑って、
「仮に俺が、マメコの家に上がり込んだとしてなぁ、それこそ押し倒して一発やろうが。 お前には関係ねぇし、そもそも知る権利もないだろが」
そう言ったのだ。
(い、いい、、一発やる、って!!なんてこと言うの!?)
「や、八木さん……っ」と、酷くなってきた喉の痛みもあって、小さな声で抗議して背中を叩いたけれど。
無視され、ついでに真衣香を持ち上げる手に力を込められた。そこからは〝黙ってろ〟の意をひしひしと感じた為、応じて黙る。
「っは、なんだそりゃ、面食らったって顔しやがって」
八木が呆れたように言った。 その坪井の表情がどのようなものなのか、真衣香には見えないし想像もできない。
「あー、そっか……。そう、っすね。はは、そーだな、そーゆうことですね」
見えない代わりに耳に届いた声。 呆気にとられたような笑い声を交えて、答えた坪井の声だった。
(……ほんと、何に、驚くっていうんだろ)
言葉選びはどうかと思う真衣香だったが、八木の発言は正論に近いと、さすがの真衣香も思ったし、そもそもなぜこの場に坪井が顔を出したのかも理解できずにいる。
「お前とこいつが、どんな付き合い方しようが俺には関係ないし口挟むつもりもなかったけどな」
「……はい?」
「若干巻き込まれてるから言わせてもらうぞ。 俺は、こいつからお前とのことは『勘違いだったみたいだ』そう聞いた。 つまり細かいことはわかんねぇけど別れてるんだよな、それは間違いねぇんだろ?」
八木が真衣香を米俵のように担いだまま坪井と、また話し始めてしまった。
しかもあまり聞きたくない話である。
(こ、公開処刑状態じゃん……。 私の勘違い確認)
「八木さん……、もうやめてくださいよ」
虚しさと恥ずかしさから真衣香が小さく抗議すると「お前はとりあえず黙ってろ」と、会話の内容的に当事者なのだが締め出される。
「立花がそう話してるなら、その通りですよ」
もちろん八木の問いに坪井は、さらりと答えた。
チクリと胸が痛んだけれど、同時に心の奥底に潜んでいた淡い期待がやっと砕けて消えた。
どうして……真衣香の様子を確認するような素振りでここに来たのか。 都合よく解釈しそうな心に歯止めをかけてくれたようだ。
「だったら話が早いだろ。 お前もうこいつと関わるな」
「は? おかしくないです? それ。 同じ会社で働いてるんですよ、無理でしょ」
ピシャリと言い切った八木に、すぐさま反論する坪井。
どことなく、八木をバカにしたようにとでもいうのか。 そんな口調に感じた。
坪井に思うところはあるのだろうが、八木はその声につられることなく淡々と返した。