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それから私たちは婚約し、三ヶ月後に結婚することとなった。
婚約の手続きは、書類に私と彼の名前を書くだけで終わった。
私は彼の手元においてあるティーカップに紅茶を注ぎながら、ふと呟く。
「本当に、あっという間でしたね」
そう、時が経つのは本当に早かった。幼い頃、私と彼は出会い、その五年後、彼に伯爵家から救われ、公爵邸に戻ってきた。そして私たちは恋仲になった。今でも信じられない。
私の言葉に彼は頷いた。
「ああ、そうだな」
私はティーポットを机にゆっくりと置き、彼の向かいに座る。
彼はティーカップを持ち上げ、紅茶を口に含んだ。
そして目を見開く。
私は首を傾げた。
どうしたのだろう。まさかまずかったのだろうか。
「……また腕を上げたな」
その言葉に、今度は私が目を見開いた。
「そうでしょうか。ありがとうございます」
私は彼に笑顔を向け、礼を口にする。
彼はかぶりを振った。
「別に、事実を述べたまでだ」
「それでもありがとうございます」
私は笑みを深めた。
「……」
彼は何も言えることはないというように黙る。
その様子に私は少し笑いながら、ああそうだ、と彼に話しかけた。
「そう言えば、この前あなたが任務で北部に行かれた時に、魔物の影響でたくさんの人が怪我をされたと聞きましたが」
そう、一週間、婚約してからすぐの時、彼は北部に行ったのだ。任務内容は、魔物を討伐する事。その魔物たちの攻撃で、人々に大きな被害が及んだらしい。
「ああ、そうだったな」
彼は頷く。
私はにっこり笑った。
「そこでお願いなのですが、私も北部に連れて行ってくださいませんか?」
「…………………………………………は?」
彼は目を見開き、信じられないというような顔をする。
伝わらなかったのだろうか。
「ですから、私も北部に…」
「だめだ」
彼はスパッと拒否した。
まさか彼に断られるとは思ってなかったので、私は目を見開く。
「ど、どうして……」
すると彼は、深いため息をついた。
「どうしてって、まだあそこに魔物がいるかもしれないからだ。お前をそんな危険なところには連れていけない」
「そ、そんな……」
涙目でうなだれる私に、彼はもう一度ため息をつく。
「そもそも、何でそんなところに行きたいんだ」
私は俯いたまま言った。
「人々の怪我を治したかったのです」
でも、やっぱりだめか……。
しゅんと気を落とす私をよそに、彼は呟く。
「……そうか。お前らしいな」
まるで苦笑するような、穏やかな声。
その声に、私は顔を上げた。
彼の表情が少し明るくなっていた。
「わかった。お前を北部に連れて行く」
「ほ、本当に?」
私の口角が勝手に上がる。
だが、と彼は口を開いた。
「対価は払ってもらう」
「対価?」
彼は目を見開いて首を傾げる私の隣に座った。
かと思うと、私の肩を掴み、後ろに押し倒す。
長いすに私の背がぴったりと付いた。
気がつくと、彼の端正な白い顔がすぐそこにあった。
私が固まっていると、彼は私の唇を奪う。
「……んんっ…」
いつもより荒々しく、むしゃぶりつくような口づけ。
ああ、まただめだ。息が……。
私が息苦しさに耐えていると、唇が離された。
「…っはっ……はぁっ…はぁっ……」
私は開かれた視界で、やっと状況を理解する。
彼が横になっている私の上に覆い被さり、手首を固定され、まさに押し倒された状況だった。
彼は自分の唇をぺろりと舌で舐めながら、不適な笑みを浮かべる。
「いつも逃げようとするからな。これで逃げられないだろ」
私はすっかり真っ赤になり、反論を口にしようとすると、彼にまた唇を塞がれた。
「……んっ……」
長く、深く、貪るように。
彼は口づけながら、私の手に自分の指を絡める。
そのままぎゅっと握られ、私は彼の口づけから逃れられなかった。