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第三部 冬
第十七話 冬の足音
「近づくほど、失うことを怖く感じる。」
十一月の終わり。
季節は秋から冬へ向かっていた。
朝の空気は冷たくなり、
制服の上に羽織るコートが必要になってくる。
校庭の木々は葉を落とし始めていた。
「寒い……。」
蓮が手をこすりながら言う。
「まだ冬じゃないのに。」
美桜が笑う。
「俺は寒さに弱い。」
「夏も暑いって言ってたじゃん。」
「つまり俺は一年中大変。」
「意味分からない。」
いつものやり取り。
湊はその会話を聞きながら笑っていた。
こんな何気ない時間が、今では大切だった。
*
放課後。
写真部の部室。
湊は窓の外を撮っていた。
葉の少なくなった木。
夕暮れの校舎。
冬へ向かう空。
「最近、景色の写真増えたね。」
振り返る。
紬がいた。
「朝比奈。」
「前は人の写真ばっかりだったのに。」
少しからかうように言う。
「そうだった?」
「そうだよ。」
紬は笑う。
その笑顔を見るだけで、湊の心は少し温かくなる。
「でも。」
紬が続ける。
「今の写真も好き。」
「なんで?」
「神崎くんが見てるものが分かるから。」
その言葉に、湊は少し照れた。
*
その日。
帰り道で紬が言った。
「この前、先生に言われたんだ。」
「何を?」
「海外の写真学校のこと。」
湊の足が少し止まる。
「……本当に行くの?」
紬は少し考える。
「分からない。」
「でも。」
「行きたい気持ちはある。」
夕方の道。
冷たい風が吹く。
「怖くない?」
湊が聞く。
紬は少し笑った。
「怖いよ。」
「知らない場所だし。」
「言葉も違うし。」
「一人だし。」
少し間を置いて。
「でも。」
「昔の私なら、怖いから諦めてたと思う。」
「今は違う。」
湊は紬を見る。
「変わったね。」
紬は笑った。
「神崎くんが変えたんだよ。」
その言葉。
嬉しかった。
でも同時に。
胸の奥が少し痛んだ。
*
夜。
湊は写真を整理していた。
画面に並ぶ紬の写真。
桜。
夏祭り。
海。
文化祭。
笑顔。
気づけば。
たくさんの時間を一緒に過ごしていた。
でも。
いつか、この写真の中だけになる日が
来るのかもしれない。
そんな考えが浮かんでしまった。
「……。」
湊はカメラを閉じる。
まだ来ていない未来を怖がるなんて。
自分らしくないと思った。
でも。
大切なものができたからこそ。
失うことが怖くなった。
*
翌日。
紬が写真部の部室に来た。
「神崎くん。」
「ん?」
「お願いがある。」
珍しい言葉だった。
「何?」
紬は少し迷ってから言う。
「私が行きたい場所。」
「また?」
「うん。」
「今度は、神崎くんに撮ってほしい。」
湊は驚いた。
「どこ?」
紬は笑う。
「冬の海。」
「最後に。」
その言葉に、湊は少し引っかかった。
「最後?」
紬は慌てて笑う。
「違う。」
「冬の海を見たいだけ。」
でも。
湊には分かった。
紬もきっと。
同じ不安を抱えている。
📷 Photo.017『冬の入り口』
撮影日:11月28日
季節は変わっていく。
変わらないでほしいと思うほど、
時間は静かに進んでいく。
コメント
4件
そうなんですよねー! 目で見るより心で感じるよりも何か強い感情が込められてると思うんですよねー! だって撮りたい!って思うからこそ撮るわけですし! この瞬間もこれからもずっと一緒にいれるように、 いつでも思い出せるように写真に残してるのかもですね🤭 はい!ちゃんと回収するので待っててくださーい!
冬に向かう季節と二人の距離の変化が重なって、切なかったです。「大切なものができたからこそ失うことが怖くなる」という湊の気持ち、すごく響きました。紬の「最後に」という言葉に引っかかる場面、二人が同じ不安を抱えているのが分かって胸が苦しい。写真に残すことの意味もじんわり来ました。続きが気になります。
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