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第十八話 冬の海
「寒い季節ほど、人の温かさに気づく。」
十二月。
冬の海は、夏とは全く違っていた。
観光客の姿は少ない。
波の音だけが静かに響いている。
空は少し曇っていて、風は冷たい。
でも。
その静けさが、湊は嫌いじゃなかった。
「寒いね。」
隣で紬が笑う。
「うん。」
「でも、来てよかった。」
湊は海を見る。
「どうして?」
紬は少し考えた。
「夏の海は、楽しい場所って感じがする。」
「でも冬の海は……。」
「自分と向き合える気がする。」
その言葉が、少しだけ寂しく聞こえた。
*
二人は砂浜を歩いた。
足跡が残る。
でも、波が来ればすぐ消える。
紬がそれを見ていた。
「不思議だね。」
「何が?」
「残したいって思ったものほど、消えていくことがある。」
湊は何も言わずに聞いていた。
「写真もそうなのかな。」
紬が言う。
「残したつもりでも。」
「時間は進む。」
「人の気持ちも変わる。」
湊は少し考える。
そして言った。
「でも。」
「残す意味はあると思う。」
紬を見る。
「消えないようにするためじゃなくて。」
「その時、大切だったって思えるようにするため。」
紬は静かに笑った。
「神崎くんらしい。」
「そうかな。」
「うん。」
「写真じゃなくて、人を見るところ。」
*
少し歩いた先。
小さな灯台が見えた。
紬は足を止める。
「ここ。」
「知ってる場所?」
「うん。」
「昔、お父さんと来た。」
湊は黙って頷く。
もう驚かなかった。
紬にとって、大切な場所にはいつも過去がある。
「ここでね。」
紬は海を見る。
「最後に写真を撮った。」
湊は静かに聞く。
「お父さんが?」
「うん。」
「私、笑ってた。」
「すごく楽しかった。」
少し間。
「だから。」
紬は小さく息を吐く。
「写真を見るのが怖くなった。」
風が吹く。
「幸せだった記憶ほど。」
「なくなったことを感じるから。」
湊はカメラを握る。
でも。
今日は構えなかった。
今は撮るより、聞く時間だった。
*
「でもね。」
紬が続ける。
「最近、少し変わった。」
「写真を見ると。」
「苦しいだけじゃなくなった。」
湊を見る。
「神崎くんの写真があったから。」
その言葉に、湊は驚く。
「俺?」
「うん。」
「写真って、過去だけを見るものじゃないんだって思えた。」
「新しい思い出を作れるんだって。」
紬は笑う。
「だから。」
「もう一度、写真を好きになりたい。」
湊は頷いた。
「なれるよ。」
「神崎くんなら?」
「うん。」
「紬なら。」
その一言。
紬は少し目を伏せた。
寒い風の中。
二人の間には、温かい時間が流れていた。
*
帰る前。
紬が言った。
「写真、撮ってくれる?」
湊はカメラを取り出す。
「いいの?」
「うん。」
「今日は残したい。」
湊はファインダーを覗く。
そこにいる紬は。
過去を見て泣いている少女じゃなかった。
未来を見るために立っている人だった。
カシャッ。
冬の海に、シャッター音が響いた。
📷 Photo.018『冬の海』
撮影日:12月10日
消えないものを探していた。
でも本当に残したかったのは、
消えていく時間を大切にすることだった。
コメント
2件
紬もきっとこの瞬間を残したいって強く思ったんでしょうね、、、 だから撮らせてくれたのかもです! ちゃんと一歩ずつですけど前に進んでますよー!2人のペースだからゆっくりかもですけど! 取るよりも聞くことを大切にしたくなったの最高ですね!やっぱり成長してて嬉しいです🤭
第18話、冬の海の静けさがすごく沁みたわ…。紬が「写真を見るのが怖い」って言うところ、胸がぎゅっとなった。でも最後に「今日は残したい」って笑って撮らせてくれたのが、ちゃんと前に進んでる感じがして、こっちまで温かくなった。湊くんの「撮るより聞く時間」って判断、めちゃくちゃ良い男だな。冬の海のシャッター音、こっちにも聞こえてきたよ。