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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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あれから十日後。全ての準備が整い、決闘の日を迎えた。

決闘に本人達の同意以外、必要なモノは無いのだが、組合長には準備が必要だった。

それは……


「遂にあの野郎が死ぬところが拝めるぜ…」「ゴールドランクの戦い…見逃せねーな!」「死ね死ね死ね死ね」


決闘の会場である魔物狩り組合訓練場は、多くの魔物狩り達で盛り上がっている。訓練場とは名ばかりのそこは、岩壁に囲まれただけの外であった。

3/4はレインへの呪詛の言葉だが、1/4はゴールドランクに対する憧れの声である。

これが組合長の狙い。どれだけ個人で力を持とうとも、自分の伝手を辿れば更に強い者を当てられるのだぞ?という、魔物狩り達への見せしめである。

この男の権力欲…いや自尊心は、止まるとどまるところを知らない。




組合長は全ての準備を終えたが、そこにはあと一つピースが足りなかった。

「ねえ…そのレインとかいう男はいつ来るのよ?」

足を小刻みに揺らし、苛立ちを隠そうともしないレキシーは、組合長にそう聞く。

今日もドレスに身を包み、男達の視線を独り占めしているが、その実、その視線にはずっと興味がない。

レキシーはこの格好が好き・・でしているのだ。

「約束の時間は朝イチ…まだ時間はある」

朝イチとは、朝一番初めに鳴る鐘のこと。今その時はとっくに過ぎ、二番目の鐘が鳴りそうであった。

普通、朝イチと言えば鐘がなった時のことだ。ただ明確な基準ではなく、そんなもの程度の基準であるため、組合長は何とも言えなかった。




「き、来たぞ!!道を開けろ!!」

殺されるぞ。そんな声が続きそうだった。

そして、人垣が海のように割れた所から、いつものようにレインが悠然と歩を進める姿が確認された。

「…やっと、お出ましね。依頼じゃなくても殺したいと思えたわ」

レキシーは山賊などの討伐で、殺人は行ってきた。

だが、私生活では殺しなどしたことがなかった。端的に言うと、殺すほどの怒りを覚えることがなかったからだ。

男性器を切った時は世の為、女性の為だと思い、切っていた。

分かりやすく言うと、美人であり、組合お墨付きゴールドランクの強者である自分に、恨みを買うような行動・言動をする者がいなかっただけだ。

もしいたら、殺していた。

そう自分でも自分の事を理解できているからこそ、強者で居られるのかもしれない。

「準備はいいな?」

待たされた組合長も怒りを覚えている。もっと長ったらしい開催の言葉も考えていたが、そんなモノ、怒りで飛んでいってしまっていた。

「ええ」

言葉で返すレキシーと、眉を少し動かす事で返事としたレイン。

レキシーはそこで漸くレインの顔を見た。正確には目を。




「始めっ!!」

取り決めは書面で正式に交わしてある。


余計な言葉は不要とし、いきなりの開幕であった。


開始の合図と共に身体強化したレインが、目にも止まらぬ速さで踏み込む。


レキシーはそれを魔法で受け止めた。


「あ、貴方…転生者なの?」

「……」


見つめ合う二人。動揺しているレキシーは額に汗が浮かぶ。

対照的にレインはいつもの涼しいが感情の窺えない表情かおをしている。

レキシーの動揺は、何も転生者という可能性に気付いたことだけではない。

魔法が……自身をここまでの存在にしてくれた魔法が、分解されているからだ。


「くっ…」バッ

タッ。


このままでは魔法障壁を突破される。

そう思ったレキシーは、爆風を魔法で作り出し、自身も巻き込まれる形で吹き飛び、距離を取った。

レインは初めて見るタイプの魔法に驚いていた。

もちろん、顔にも心にも、揺らぎは一切ない程度に、だが。


「少し話がしたいわ」

「……」


レキシーのその言葉に、レインは油断せずに周囲に視線をやった。


「なるほどね。わかったわ。少し待って」

「………」


レキシーはレインの気持ちを汲み、レインはレキシーのすることに注視する。


「魔力障壁で私達を囲んだから、声は漏れないわ。わかるでしょう?」

「…ゎかる」


レインは外部の魔力に干渉する事が出来る。その為、広範囲に違和感を感じ、それが障壁だとはわからないが、一応の納得はみせた。


「貴方、転生者なんでしょ?」

「なぜ?」


レインは言葉少なだ。それでも気にすることはなく、レキシーは続ける。


「髪と目よ。転生者はグレー系の髪色をしていて、目は深い闇の色をしている。これは私が調べた事よ。

ちなみにグレー系って言ったけど、正確には白と黒の間の色をしているから黒と白もあるわ」

「…なるほど。で?」


知識は与えられた。その感謝をなるほどで済ませはしたが、これは大きな進歩なのかもしれない。

俺が転生者だったらなに?と、レインは先を促した。


「私もなの」

「えっ?」


驚き。これ程の驚きは上位者との遭遇以来であった。

そして、心の声が漏れたのも、今世では初めてのこと。


これはコンタクトなの。度も入っていない単純な色ガラスなだけ。髪は地毛よ?綺麗でしょ?」

「………」


コンタクト。その言葉をこの世界で聞くことになるとは。

そして、その後の発言には文字通り言葉を失くした。


「不完全…魂」

「女性が聞いているのだから、嘘でも綺麗だと言うべきよ?

まぁ、いいわ。

そうよ。私も不完全らしいわ。ま。今となっては理解も出来るし、逆に転生して良かったと思っているけどね」


レインは驚いた。しかし、驚きと共に、恐怖がその身を包み込み始めてもいた。

前世では虐げられていた。この世界の奴隷が生ぬるいと思えるくらいには。

その記憶が沸々と蘇り、レキシーに虐められるのでは無いかと、物理的にあり得ない妄想まで思考を侵食し始める。

カタカタカタカタカタカタカタ。

尋常ではない震え。それを見たレキシーは理解する。

自分とは前世で抱えてきたモノの重さが違うことを。

いや、奪われてきたモノの多さを。


ザッザッ

ビクッ


近寄るレキシー。

それに恐怖し身体を縮ませ、震えが増すレイン。

レキシーは更に近づき、そして……


ギュッ


抱きしめた。


「大丈夫。ここはあの汚い世界じゃないわ。ここは単純で純粋な世界。強き貴方が震えなくちゃいけない世界ではないの。

大丈夫。私もこの世界に救われたの。だから、貴方もきっと大丈夫。

大丈夫。大丈夫」


震える雨宮少年の背中を、徳川少女は優しく摩り続けた。

日常が造った怪物

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