テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
2件
テンプレのような夢...夢オチとは思いもしていませんでした!! 桃さんのことが好きなのが何より可愛くて大好きです...💕💕 桃さんの照れ隠しが最高に可愛かったです、!!
尊い✨青さんが桃さんのことを、性別とかではなく桃さんそのものを愛しているとこ、めっちゃ尊いです🙇最近投稿増えててめっちゃ嬉しいです!尊いのプレゼントありがとうございます✨
【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
女体化(?)な話なので、苦手な方はお気をつけください
目が覚めたとき、体がやけに重く気怠い気がした。
最近激務続きだったから疲労が溜まっているんだろうか。
寝て起きた瞬間からすっきり起きることができないなんて何故か少し損した気分になる。
「んー」と重い上体を起こしながら、ぐんと伸びをした。
近くの時計を確認すると、午前9時を迎える頃だった。
今日は土曜日で休みだからまだ寝ていられる時間だ。
午後にはまろと約束があるから、それまで二度寝をして惰眠を貪ることができるだろう。
そんなことを考えながら伸びをした腕を引き戻し、そのままがしがしと後頭部を掻く。
……だけど、その瞬間に異変を感じ取った。
「…え?」
ないはずの髪が…ある。
先日美容院に行ったばかりで後頭部の髪は綺麗に切りそろえられているずなのに、触った感覚が記憶にあるものと全く違う。
目を瞠りながらそのまま指を横にすいとスライドさせると、長い髪が指の間を縫うようにしてさらりと流れた。
「は…!?」
腰より少し上くらいまではあるだろうか。
どストレートというよりは少しクセのある髪質は確かに自分のものだ。
なのに憶えがないくらいに長い。
その髪の先端辺りを、再び指で掴んだ。
驚愕の色を浮かべた目でそれを見下ろした瞬間、俺は更に目を見開く。
俯き加減になったせいでようやく気がついたけれど、自分の体に覚えのない膨らみがあった。
服の上からぺとんとそれに触れると、独特の柔らかい感触が伝わってくる。
考えるよりも早く着ているTシャツの襟の部分をぐいと引っ張った。
中を確認すると、そこには作り物でもなんでもない本物のなだらかな丘が存在していて…。
「はぁ!?」
今気がついたけれど、そう言えば耳に返ってくる自分の声も何かが違う。
いつもより少し高めな声。
相変わらず少し掠れたようではあるけれど、男特有の芯のようなものは感じられない。
目が覚めたら女体化してました、なんてシャレにもならない。
漫画やアニメで散々見てきたもはやテンプレのような出来事が自分に起きるなんて、そんな非現実的なこと想像すらしていたわけがない。
でも今目の当たりにしている現実は確かにあって、冷静になろうとしている自分もいる。
頭の中では「これはいつか戻れるのか」「戻る方法があるとしたらどんな方法なのか」「もし戻れなかったら歌い手としての活動はどうなるのか」「グループとしてはどうするべきか」なんて客観的なことまで瞬時に考え始めていた。
「あ、まろに電話…」
とりあえず一番に相談しなくては。
そう思ったけれど、そう言えば今日のあいつは土曜なのに午前だけの半日休日出勤だった。
だから今日の出かける予定も、この後の午後からになったんだから。
仕事中に今この話を聞かされてもまろにはどうすることもできないし、驚かせるだけだろう。
昼過ぎにはここに来てくれることになっているのだから、その時話せばいいか。
そう思って俺は、手に持ったスマホをぽいと再びベッドの上に投げた。
とりあえず水でも飲んで気持ちを落ち着けようと、ベッドから這い出る。
立ち上がると、いつもより目線の高さが低いことに気づいた。
10センチは違うだろうか。壁にかかった時計を見上げる首の角度がいつもと全然違う。
Tシャツから伸びる腕も透き通るように白くて細い。
指先の爪はいつもより細長く、ツヤがあるようにも感じられた。
着ていた服は寝る前のものと同じものなはずなのに、いくぶんかだぼっとしていてウエストもよりくびれている気がする。
己の体をそんな風に分析しているうちに、少し楽しくなってきた自分はやはり変わり者だと思う。
戻り方とか今後のこととか、考えなければいけないことはある。
…あるけれど、今すぐ考えたって答えが出ないならいっそのこと楽しんでしまえ。
そんな自分の悪い思考癖も顔を出してきたのを実感してしまった。
元々デザインによってはレディース物の服も着るし、クローゼットを漁ればとりあえずは困ることはないはずだ。
なんなら適当な服を着るだけ着て、まろが来たら一緒に買いに行けばいい。
そんなことを考えながらも、長い髪は邪魔ではあるのでヘアゴムで結い上げた。
男の俺が、前髪が伸びすぎたときなんかに使っていたゴムだ。
そこで初めて洗面所の鏡で自分の顔をまじまじと見た。
ピンク色の瞳はより大きく、唇はぷっくりと少し厚めになっている。
だけどそれでも自分の顔だと確かに認識はできるのだから不思議だ。
いつもはエチケット程度にする薄めのメイクも、化粧映えしそうなこの顔なら今日は楽しめるのかもしれない。
いつもよりしっかりとファンデーションを塗って、丁寧に眉を描く。
アイラインは濃いめ、ビューラーなんてものはないけれど長い睫毛は重力に逆らうように十分カールしていた。
口紅もないからとりあえず乾燥対策のリップを塗り、薄い潤いだけ乗せる。
そうして最後にブラシで髪を丁寧に梳かして、少し高めのポニーテールになるようにゴムで結んだ。
まろが見たら喜ぶかな、なんて一瞬でもちらりと考えた乙女的思考を自覚しては、「うげ」と自嘲気味に舌を出してしまう。
男の俺はいくらまろにでも「かわいいと思われたい」と思ったことなんてないはずなのに、体が変化しただけで思考まで女性化するのだろうか。
もうその頃には大分楽しんでいる自分がいた。
とりあえず一生戻れないのも困るから、何とか方法がないかだけは探る。
ベッドに腰かけてハーフ丈のパンツから伸びる足を組み、スマホを取った。
…いや「女から男に戻る方法」なんて検索したところで出てくるわけはないんだけど。
それでも他にやり方なんて思い浮かぶわけもない。
大した情報も得られない画面を、どれだけ眺めていただろう。
やがてインターホンの音と同時に、玄関の方からガチャガチャと鍵と扉を開く音がした。
まろだ。そう思ってベッドから飛び上がり、足早に玄関の方へ向かう。
「おかえり、まろ」
「ただ……え?」
俺の家だというのにもう入り浸りすぎていて我が家のようなものなのか、まろがただいまと答えかけた言葉を飲んだ。
靴を脱ぐために俯けていた顔を勢いよく上げ、その青い瞳に俺の姿を捉える。
「……」
当然だけれど、俺を見て瞬時に硬直した。
見開かれた目は驚きと共に現実を受け入れられないような色に揺らめく。
だけどきっと、目が覚めたときの俺と同じように頭の中はフル回転しているんだろう。
ようやく絞り出した予想と答え、言葉は俺の想像の域を越えていた。
「…えっと…ないこの妹さん…?」
そんな言葉が耳に届いた瞬間、俺は思わず肩をがくりと落とす。
…そう来たか。そりゃそうか。
「違う! おれおれ、俺だって! 朝起きたらこんなことになってて…」
挙手し、もう片方の指で自分を指しながら、オレオレ詐欺みたいな言葉を並べる意味不明な返ししかできない。
ぱちぱちと深く瞬きをしながら、まろはゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
手を伸ばせる距離で対峙すると、いつもよりかなり顔を仰向けなくてはならない。
その手が、ぐいとこちらに伸ばされた。
顎の横辺りを掴まれて、それから耳に触れる。
そして半拍分の呼吸を置いた後に「…ないこや」と呟いた。
「耳の裏のほくろがちゃんとある」
「そんなとこにほくろあんの!? 俺」
「あとこことか」
首の後ろの、付け根の辺り。
Tシャツの襟をぐいと下ろしてまろがそこに指で触れた。
自分では知らなかったそんな場所のほくろは、確かにまろぐらいしか気づかないだろう。
「え、何でこんなことになったん…?」
「いやそれが分かったら苦労しないって。朝起きてたらマジでこうなってたんだよね」
「…それにしては冷静やな。あれやろ、実はもう結構楽しんどるやろ」
「バレた?」
さすがに俺のことはお見通しなまろの発言に、あははと笑って返す。
「メイクとかしてたら結構楽しくなってきてさ。まろ、この後買い物行こうよ。せっかくだからいつもは着ないような服着たい」
俺の言葉を聞きながら、まろの手が髪に触れた。
さらりと指で梳くようにしてから、青い瞳が再び俺を見る。
「ポニーテールにしたん、わざと?」
「…う、だってお前好きじゃん」
今度はまろが「ふふ」と声を出して笑った。
指先で触れる長い髪を持ち上げ、そこにそっとキスをする。
「かわいい、ないこ」
あまりにもストレートに俺の目を見て言うものだから、ドクンと胸が大きな音を立てた気がした。
一瞬固まった俺の唇に、そのまままろがキスを落とす。
ちゅ、と優しく触れたかと思うと下唇を食むように挟んだ。
「…ん…っ」
いつもより身長差があるせいで、首をより傾けなくてはならない。
少しだけ背伸びをしてまろの首に腕を巻き付けると、普段よりも細い腰にまろが手を這わせる。
「ないこかわいい。好きやで」
優しい声がキスの合間に漏れた。
だけどその瞬間、胸の奥底からざらりとした感情が浮いたのを感じる。
かわいいと思われたくなってメイクをしたし、ポニーテールにもした。
だからそう言われて素直に嬉しいはずなのに…。
……何だ? この感覚…。
いつもより優しいキス。
壊れものを扱うように、大事そうに重ねられるその唇。
いつもの、もっと噛みつくような…激しく求めてくるようなキスとは全然違う。
「…待っ、てまろ…っ」
「何で? このままシたい」
制止する俺の声に構わず、まろの手がTシャツの裾から侵入してきた。
撫でるように這い上がるそれが気持ちよくないはずがない。
ぴくりと反応を示した次の瞬間、いつもはない胸の膨らみにまろのその手が到達した。
女の体になったと言ったって、いわゆる巨乳とはいかないその胸。
だけどまろの手は、それを愛しく大事そうに包みこむ。
そこでようやく気付いた、自分の感情と胸の奥に沸き起こる違和感。
……違う。こんなの俺じゃないじゃん。
今の体は偽物で、何らかの間違いが起こって変化したものでしかない。
それを見て「かわいい」なんて言われても、嬉しいわけがない。
いつもよりキスに余裕があって優しいのは俺が今、女だから?
本物の俺にはない胸の膨らみに触れながら「好きだ」と言われても、全然心が揺さぶられない。
それどころか、どこか空しくなってくるなんて。
「ごめ、まろ…違う…っ」
「違うって、何が」
こっちの言葉なんて聞き入れないかのようなまろが、その手を徐々に下ろしていった。
情けないことにもう既に反応し始めているそこは、自分でも下着を濡らしてしまっていることが分かる。
ハーフパンツごと下着をずらしてそこに触れられたその瞬間、俺はついに「いやだ!」と大きな声を上げた。
「ないこ、ないこ??」
力の限り大きく叫んだと思った瞬間、肩を大きく揺さぶられた。
見開いた目に映るのは、見慣れた白い天井。
何が起こっているのか分からず茫然としていると、そんな俺の顔を、覆い被さるようにして覗き込む影に気づく。
「……ま、ろ…?」
目の前の青色に、思わず小さく声が漏れた。
「どうしたん、めっちゃうなされとったけど」
「え……」
言われて、視線をぐるりと周囲に這わせる。
天井が見えるということは、今自分はベッドに横たわっているということか。
そう認識してから、「ゆめ…?」と震えそうな言葉が零れた。
それから、慌てて手を後頭部にやる。
そこに腰近くまでの長い髪はなく、いつも通りの感触。
次に触れた胸の辺りは当然ぺたりとしていて、柔らかい膨らみなんて存在していなかった。
「なんか悪い夢でも見た?」
「……あ、いや…」
悪い夢…ではなかったはずなのに。
でもやけにリアルだったのは、自分の感情のせいか。
あのまま気持ち良さに身を委ねていれば良かったものを、どうやら夢の中でも現実的な思考をするらしい。
「目が覚めたら女体化してる夢だった…」
ぽつりと答えた俺に、まろは一瞬手を止めた。それから「ふはっ」と眉を下げて笑う。
「何その漫画のテンプレみたいな展開の夢」
「……な」
「それにしてもいいご身分ですねぇ社長。人が半日とは言え土曜出勤させられとるときに、昼過ぎまで寝て女体化の夢って?」
言葉ほどいじわるな響きは乗せず、まろはそう言ってから「よいしょ」と立ち上がった。
ベッド脇に膝をついていた態勢から体を起こして、俺を見下ろす。
「水持ってくるな。汗かいとるやん」
そう言い置いて台所に行ったかと思うと、まろはペットボトルの水を持ってすぐに引き返してきた。
それを手渡されて受け取りながら、俺は自分もベッドの上に体を起こす。
「俺さぁ、女になったら自分でもびっくりするくらいかわいかったんだけど」
その夢が自分にとってはまるで悪夢だったことをごまかしながら、何でもないことのように俺はまろにそう言った。
ペットボトルの蓋を開けて中身を呷ると、冷たい感覚が喉を潤し、流れていく。
「へぇ、まぁそうやろうな。ないこのビジュじゃなあ」
普段から「ビジュ推し」と宣うだけあって、「自分で言うなよ」とか「調子に乗るな」と否定はされない。
「髪も腰ぐらいまであってさ、ポニーテールも余裕でできるし」
「ふーん」
続ける俺の言葉に、まろは小さな呟きだけを返した。
聞いているのに興味がなさそうな、そんな雰囲気で。
「なぁ、それよりこの後出かける予定やったけどどこ行く? 靴買いに行きたいんやっけ?」
現に会話が一瞬途切れたと思ったら、俺の話なんて二の次だと言わんばかりに違う話を振ってくる。
「いや、聞いてる? 俺の話。夢の中のまろもめっちゃ興奮するくらいかわいかったんですけど!」
「はぁ…でもそれ、女体化なんやろ? じゃあそれはもうないこであって、ないこではないやん」
大して興味ないなぁ、なんて続けられたまろの言葉に、俺はまた大きく目を見開いた。
…あっさり言うんだな、本物のお前はそういうことを。
俺が女だったらよかったのに、なんてきっと一瞬でも考えたことがないんだろう。
まろの中では、性別がどうこうよりも「俺」が「俺」であることの方が重要なのかもしれない。
夢の中では「かわいい」「好きだ」なんて言われて軋んでいた胸の奥底から、嘘のようにもやが晴れていく。
「…まろのそういうとこ、好き………かも」
最後に余計な言葉がついたのは、最大の照れが出た証拠だ。
普段はほとんど言わないそんな言葉を漏らしたせいで、まろは一瞬眉を持ち上げてこちらを見つめ返した。
「んはは、ないこかわいい」
丸みを帯びた体もポニーテールにできる長い髪も、媚びるような高く甘い声すらないのに。
それでも現実のお前は、その言葉を今言うんだよな。
バカじゃねぇの、と照れ隠しに言いかけた俺の唇に、まろが噛みつくようにしてキスをする。
大きな手は耳をなぞるように触れ、激しく…深く求めるように。
一見乱暴に見えるそのキスの方が、本当は優しいんだななんて気づかされる。
酔いしれるように目を閉じて、俺はそんなまろの背中に腕を回した。