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湊

1,222
(KAIRYU視点)
「っ……、ごめん、かいりゅっ、、きょう、っ、お店、お願いね、っ、?」
「……っ、え、…っ、ナオヤ…っ、?」
言葉を詰まらせながら、そう俺に託したナオヤの目には、涙が溜まっていた。
その顔を見た瞬間、何かがあったことはすぐに分かって、去っていくナオヤを引き止めることはできなかった。
「ナオヤ…、泣いとった、?」
心配そうに呟いたランと顔を見合わせながら、店に戻ると、奥からセイトが現れた。
「…おう、おつかれ、」
「セイト、…いつ戻ってん、」
「ん?ついさっきやで。…あ、ナオと会った?」
セイトの様子は、いつもと変わらなかった。
きっとナオヤは、何かで傷付いて、セイトにはそれを見せまいと去っていった。
……俺にも、見せまいと必死だった気がした。
「……ナオヤ、何か言うてへんやった?」
「今日はカメラの方の仕事あるからって、帰ってったで?」
「そんな事、あいつ一言も……、」
「……カイリュウ、?どないしてん、」
セイトが何も分からないんだったら、きっと知らない方がいい。
ナオヤが嘘をついていることを察して、口を噤んだ。
「……なんでもあらへん。とりあえず、海も人増えてきたし、ランは仕事に戻れ。」
「…っ、……うん、わかった。」
「セイトも、会社戻らなあかんのやろ。」
「おん、…じゃあ、ナオにもよろしくな、?」
2人にそう促すと、ランは仕事に戻り、セイトは少し不思議そうな顔をしながらも、俺の肩を叩いて店を出て行った。
***
(RAN視点)
客足が減り、カウンターでグラスを拭きながら、隣にいるカイリュウの顔をちらりと見る。
店に帰ってきてから、ずっと考え事をしているような表情をしている。
きっと、ナオヤの事を考えているんだろう。
カイリュウとぶつかったナオヤの顔は、今にも泣きそうだった。
俺達がいない間に、戻ってきていたセイトさん。
店を飛び出してきたナオヤ。
どう考えても、2人の間に何かがあったはずで。
でもセイトさんのあの様子だと、ナオヤが1人で傷付いている。
「……あいつ、絶対セイトとなんかあった。」
「え、?」
ふいにカイリュウがそう口にして、眉間に皺を寄せた。
「……あかん、あいつ、、また、、」
「また、?」
「いや、、なんでもあらへん。ラン、客少ないうちに休憩行ってこい。」
「…あ…うん、わかった…、」
なんだか複雑そうな顔をするカイリュウの事が心配になりながらも、休憩がてら店を出て、海辺を歩いた。
「……あれ、?」
賑わう人達の中に、一瞬ナオヤの姿を見た気がした。
目を凝らすと、やっぱりそれはナオヤだった。
“今日はカメラの方の仕事あるからって、帰ってったで?”
セイトさんの言葉と矛盾するその姿に、じわりと嫌な汗をかいた。
そのままナオヤを目で追っていると、見知らぬ男が声を掛けているのが視界に入る。
ナオヤはそのままその男と一緒に歩き始め、男の腕を掴むとどこかへ消えてしまった。
今まで、やたらと俺に距離を詰めるナオヤに、怒っていたカイリュウ。
“……あかん、あいつ、、また、、”
さっき、カイリュウの口から漏れた言葉を思い出す。
ナオヤに、そういう部分があることは、何となく察していた。
カイリュウに、言うべきだろうか。
でもきっと、言ったら、カイリュウはもっと考え込んでしまう。
少し考えた後、見て見ぬふりをして、そっと歩く方向を変えた。
***
ナオヤは、次の日店に顔を出さず、そのまま来なくなって数日が経過した。
カイリュウには、”カメラマンの仕事が忙しい”とラインが来たらしい。
でも信じ切っていないのか、カイリュウの顔はずっと浮かないままだった。
そんなカイリュウを見ていると心配になって、俺は海でナオヤを目撃したことをずっと言えていないまま、ここ数日を過ごしていた。
「おはよう」
「おはようさん、」
いつものように、セイトさんが配達にやってきた。
店を見渡して、ナオヤが来ていない事を確認しているような素振りを見せる。
「……ナオ、まだ忙しいん?」
「そう連絡きとるけどな…」
「……そっか、」
心配そうな顔をしながら、荷物を奥へ運んでいくセイトさん。
「まだあるから、ちょっと取ってくるな?」
「おん、わかった」
そう言って、一度セイトさんは店を出て行った。
***
(SEITO視点)
俺がナオに、”カイリュウが好きだ”と打ち明けた日から、ナオには会えていない。
あの日、カメラの仕事があると確かに言っていた。
思い起こせば、少しだけ、声が震えていたような気がした。
前に一度、ナオがカメラマンの仕事が上手くいかず、酷く落ち込んだ事があった。
一晩かけて話を聞くと、やっと笑顔を取り戻し、その顔に安堵したのをよく覚えている。
ナオは、いつも俺には甘えてくれる。
カイリュウとの方が付き合いは長いけど、逆に長いからなのか、そういう時の支えとしては、俺の事を頼りにしてくれている。
だから、俺もナオの事を信頼しているし、カイリュウの事も打ち明けられたような気がする。
でも、ナオがここ数日来なくなってから、何度電話を掛けても出てはくれなかった。
“カメラの仕事があるから”と、あの時震えていた声。
また、カメラマンの仕事で落ち込んでるんやないかと、心配だった。
ナオが甘えてくれなかったのは、これが初めてだった。
「はい、これで終わりね」
「おん、おつかれさん。…ラン、こっち持ってくれへん?」
「うん、いいよ」
残りの荷物を届け、全てを確認し終えると2人で荷物を整理し始めるカイリュウとラン。
「……あ、カイリュウ、これで合っとう?」
「ん?見せてみ?」
ランがそう聞くと、カイリュウが近づき、2人で肩を寄せながら伝票を覗き込んでいる。
肩が触れていても、違和感を持つことなく特に離れようとしないその距離感に、チクっ、と胸が痛む。
ナオへの心配がずっと頭にありながらも、カイリュウとランが2人きりになっていることが、正直気になっていた。
やっぱり、俺のいない所で、2人の距離は確実に縮まっている。
ランに対して、焦りが出始めていた。
「……なぁ、今日、また来てもええ、?」
「えっ?」
俺の声に、カイリュウが振り返る。
「………昼過ぎ、また来るな、?」
「え、配達まだあるんか?」
「ないけど、また来るから。」
「え…っ、おい、セイト…っ、?」
そう言い残して、一度その場を去り、会社へと急いだ。
***
「お疲れさん、」
「あ、ほんまに来たやん。笑」
「来る言うたやろ。笑」
仕事の休憩時間を使い、再び海の家にやって来た。
幸いお客さんは少なそうやけど、手伝おうとカウンターの中へ入るとカイリュウに止められる。
「えっ、おい、何してん、」
「ナオおらんで大変やろ?俺も手伝うから」
「は、?お前は仕事があるやろ…っ、」
「休憩中やねん。せやから関係あらへん」
半ば強引に調理場に向かうと、慌てた様子のカイリュウが後を追ってくる。
「おいっ、!そんなん頼んでへん、」
「おん、頼まれてへんな。」
カイリュウの声に反応しつつも、
ぺらぺらと、仕入伝票をめくって目を通す。
「セイトっ、おい、!休憩なら休めや…っ、そんなん休憩にならへんやんけ、」
「お前が心配やねん」
伝票から目を離し、カイリュウの方を見た。
じっ、と見つめると、少し怯んだように目を泳がせるカイリュウ。
「っ、…おい、舐めんなや、俺が何年やってると…」
「……仕入、全部ナオがやってんとちゃうん?」
「え、」
ここでいう社員の立場はナオだけで、カイリュウはそこまでの責任を負っていないはずだ。
伝票も、いつもナオとやり取りをしている。
「…っ、そんくらい、なんとか、」
「俺の担当なんやから、俺が一番詳しいに決まっとるやろ」
「……っ、それは、そうやけど、」
「……それに、調理やったら俺も手伝えるやろ。」
「…いや…、でも…っ、」
「カイリュウ。こんな時くらい、俺を頼ってや。」
ランと2人な事が気になる。
そんな不純な気持ちもあったけど、ナオがいないまま店を回そうとするカイリュウを助けたかった。
切実な表情でカイリュウを見つめると、観念したように口を開いた。
「……ごめん。ほんまにありがとう、助かるわ。」
少し安心したような顔を見せるカイリュウに、役に立てたと嬉しくなる。
「ええねん、今度なんかお礼せえよ。笑」
「俺渋いもんなんか分からへんで?」
「おい!もうええっちゅうねん。笑」
「ぶはっ、お前がやたら拘るからやろ、」
「擦りすぎやねん。笑」
素直に頼ってくれた事がじわじわと胸を熱くさせて、安心したのかまた軽快に冗談を言い始めるカイリュウが可愛いなと思う。
「カイリュウ、……っ、あれ、」
接客を終えて戻ってきたらしいランが、こっちへやってきて俺を見ると少し固まった。
「……ラン、俺も少し手伝うから。」
「え…、?でも仕事は、」
「大丈夫やから。休憩の間だけな。…な?カイリュウ。」
「……っ、…ラン、セイトには悪いけど、ちょっとだけ甘えさせてもらうことにしてん、」
「………、そっか、…ありがとうございます、セイトさん。」
「ええねん、俺がおりたいだけやから。」
そう言うと、ランは少しだけ戸惑った顔を見せつつも、またホールの方に戻って行った。
ーーーーーーーーーーー
(TAKUTO視点)
“俺、諦めんけん。……気付いとるやろうけど、俺、たっくんの事が好き。…俺が、絶対忘れさせるけん”
俺がまだ先生の事を好きだと知っても、そう力強く告白までしてくれて、忘れさせると言い放ったリュウキ。
正直、離れていくことを覚悟していたのに、離れるどころか、それでも傍にいたいと言ってくれた。
素直に、その言葉が嬉しかった。
あの日以来、リュウキはその言葉を体現するように、俺の日常に入り込んできていた。
『リュウキ:おはよー』
『リュウキ:このスタンプたっくんに似とらん?』
『リュウキ:今日おもろいことあったから聞いてくれる?』
挨拶からくだらない事まで、あの日から、リュウキは毎日俺に何通もラインを送ってくるようになった。
仕事が忙しくて返事ができなくても、怒りもせず、ただひたすらに、毎日欠かさずに連絡をくれた。
……まるで、先生の事を、考える隙を与えないかのようだった。
そんな意図があるかは分からないけど、本当に有言実行しようとしているリュウキの真っ直ぐさに、癒されているのは確かだった。
「っ、…ふふっ、」
ダンススクールの事務所で仕事をしている最中に、ふと、リュウキのくだらないラインを思い出して、1人で小さく吹き出した。
日常に、リュウキの存在が少しずつ、溶け込んでいく。
ピコン、とスマホが鳴って、確認すると、”リュウキ”と表示されたその画面に、思わず顔が綻んだ。
『リュウキ:たっくんやっほー』
何の内容もないそのラインに、また少し吹き出しながら返事を打つ。
『どうしたの?』
『リュウキ:仕事忙しい?』
『ううん、大丈夫』
『リュウキ:ちょっと外出れる?』
「……え、?」
通知を見た後、事務所のドアを開けて外に出てみると、ドアの端に紙袋が置いてあるのが見えた。
それを拾い上げようとすると、人影がふっ、と死角から飛び出てくるのを感じた。
「わっ!!」
「っ、うわっ、…!」
驚かせる声と共に、急にリュウキが姿を現してきた。
「っ、びっ、くりしたー、」
「いえーい、びっくりした?笑」
「ふふっ、うん。笑」
俺の驚く顔を見ると、ペカペカの笑顔を見せ、満足そうに笑った。
……ふふっ、今日も元気で、可愛い奴だな。
「差し入れ持ってきた。仕事中にごめんね」
「ううん、ありがとう」
中身 を確認しようとすると、リュウキが慌てたように俺の手を掴んだ。
「あ!後で開けて!」
「なんで?」
「え、…さ、サプライズっ、?笑」
「なんだよそれ。笑」
「ええけん!」
「…気になんじゃん。」
「あ!だめやって!サプライズって言っとうやろ!」
「ふふっ。笑」
冗談で、リュウキの言葉を無視して開けようとすると、必死に止めようとするその姿に思わず笑ってしまう。
「俺が帰ってから開けて!もう帰るけん」
「…帰るの?」
「…おってほしー?笑」
「ぶっ、、(笑) 帰れ。笑」
「おい!笑」
からかうのが楽しくて、つい、帰れと言うと、そのままあっけらかんと、じゃあねー!と手を振って帰っていった。
……少しだけ、本当に帰んのかよ、と思いながら、リュウキの明るい声の余韻に浸った。
リュウキが帰って袋を開けてみると、いくつかお菓子が入っているのが見えた。
手を潜り込ませると、一番下でお菓子じゃない何かの感触がして、取り出してみる。
「っ、…あ。笑」
それは、リュウキとゲーセンに行った時に、俺の誘導で取れた謎のキャラクターのキーホルダーだった。
……あいつ。(笑)
キーホルダーの写真を撮って、リュウキにその画像を送った。
『おい、返すなよ。笑』
『リュウキ:もっかい取りに行ったんよ!取れたからあげる!笑』
「え?笑」
わざわざ取りに行ったのかよ。
可愛くねぇって言ってたくせに?
そう思いながら笑っていると、ピコン、とまたスマホが鳴る。
『リュウキ:おそろ!!笑』
そこには、しっかりとリュウキのバッグにつけられているキーホルダーの画像が添付されていた。
「っ、ふ…っ、ふふっ、ははっ、!なんだよ、気に入ってんじゃん、笑」
可愛くないと、言い合ったことを思い出して、独り言を言いながらまた笑ってしまう。
でも、大事そうに付けているリュウキがなんだか可愛くて。
キーホルダーを見ながら、自然と口角が上がっていく。
事務所に戻ると、そのキーホルダーを机の一番目につくところに置き、少し眺めた後、仕事を再開した。
コメント
10件
遂に読み終わってしまった😭 続きが待ち遠しい🥹♡
ひーー🥲🥲 ほんまに最高すぎやし話が進む度に楽しみで仕方ないです🥹 とにかく💖ちゃんが心配で仕方ない🥹 感情移入しまくって顔面ぐちゃぐちゃです笑🥹🥹

楽しみにしてました!!待ちきれず何回も読み直してました🥹次も楽しみすぎて眠れません(?