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「自分より色んなものがハイレベルの相手と一緒にいるって、慣れないと思う。生活レベルを一度上げてしまうと、なかなか戻せないって言うし、捨てられたら路頭に迷うって思うと、夜も眠れないぐらい不安になる事もある」


「凄く分かる」


恵は真顔で頷く。


「……でも『彼は裏切らない』って信じる気持ちも必要だと思う。こんなに生活水準が変わって嘘みたいで、いつか夢が覚めるかもって不安になるのは分かるけど、尊さんや涼さんみたいな人たちも一人の人間で、それぞれの事情から自分を求めてくれているっていう事も、理解しておかないと駄目なんじゃないかな」


「……そうだね」


恵が頷いたあと、涼さんはカフェインレスティーを一口飲んでから微笑んだ。


「どうしても不安だったら、契約書を思いだして。俺が自分で書いたものでも、法的な拘束力はある。俺が裏切ったと感じた時は弁護士に相談して、がっぽり金をせしめていいよ」


「そ、そんな……」


恵は両手を胸の前で振って慌てるけれど、私は彼女の手をギュッと握った。


「涼さんを疑ってるわけじゃないし、全面的な味方です」


彼のほうを見てキッパリ言うと、涼さんは「うん」と頷く。


それを確認してから、私は恵の手を握ったまま彼女の目を見て言った。


「こういうハイスペ男性に捨てられたと仮定した時、恋心も何もかもズタボロになるし、下手すると仕事も失うかもしれない。こうやって転居するから住まいも失う。でも、もしも上手くいかなかった時、恵を支えてくれるのはお金だよ? 私にも言える事だけど、もしも! 万が一! 何かがあった時はお金をもらっておこう。こっちは人生を破壊されるわけだから」


「……そうだね」


恵がしんみりとして頷いたのを見て、涼さんはガクッと項垂れて苦笑いする。


「……いや、言いたい事は分かるよ? 恵ちゃんと朱里ちゃんの気持ちも分かる。……でも、もうちょっと俺と尊を信頼してくれないかな。……そんなに人でなしに見えるかな……」


最後は自信なさそうにブツブツ言い始めたので、私は焦ってフォローした。


「すみません。地球に隕石が衝突するぐらいの確率の話です」


「……うん、まぁ、……そうだね。うん、分かるよ……」


念には念を入れての言葉だったけれど、信頼されてないと思ったのか、涼さんを結構傷つけてしまったみたいだ。


「すみませんて。そんな極悪人……とは、思ってませんから。多分」


「…………多分かぁ……」


彼はさらにガクッと項垂れ、そのついでにソファの上に横になってしまった。


その姿を見て、恵はケラケラ笑う。


「大丈夫ですって。涼さんから悪い男オーラが出ていたら、私のセンサーが反応していたと思いますし。なにせ筋金入りの男性不信なので」


「うん、そうだね」


涼さんは起き上がり、少し乱れた髪を掻き上げて笑いかけてきた。


「第一関門である朱里ちゃんに認めてもらえるよう、誠意あるお付き合いをしていく所存ですので、宜しくお願いいたします」


「こ、こちらこそ」


彼に頭を下げられ、私も思わずペコリとお辞儀する。


「そんな朱里が篠宮さんに捨てられないように、私がしっかり見張ってるからね。安心して」


すると、涼さんが嘆息混じりに言った。


「婚約指輪まで買ったのに、あいつまだ恵ちゃんに信用されてないのか……」


ぼやくような言葉を聞き、私たちは顔を見合わせたあとドッと笑った。


そのタイミングでチャイムが鳴り、涼さんはフェリシア越しに対応する。


《俺だ。開けてくれ》


あまりにいいタイミングで尊さんが来たので、私と恵はケタケタと笑い合っていた。






「とりあえず、必要そうなもん詰めてきた」


家に上がった尊さんは、そう言ってブランド物のボストンバッグを私の前に置く。


「ありがとうございます」


私がバッグの中身を確認している時、涼さんが提案してきた。


「寝る場所はどうしようか。恵ちゃんは俺の寝室に来て、朱里ちゃんにベッドを使ってもらう?」


寝る場所の話になり、私たちは顔を見合わせる。


確かに、客間は三つあるけれど一つは漫画部屋として塞がっているので、涼さんの寝室以外に使えるベッドは二つだ。


そう言われた恵が一瞬恥ずかしそうな、困った顔をしたので、私はサッと助け船を出した。

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