コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「魔王ギアンの夢か……」
「じいさまからきいたことあるな。そんなキケンなモノがでてきたとはなぁ」
ファナリアのエインデル城にて。
ネフテリアの報告を聞いて、ため息を漏らすピアーニャとガルディオ王。魔王の歴史は物語として語り継がれる程有名で、ファナリア人である王族はもちろん、リージョンシーカーを受け継いだピアーニャも当然知っている。王妃フレアは驚きのあまり震えていたりする。
「よく無事で……パフィちゃんに何かあったらと思うと……」
「わたくしの事は心配じゃないのね」
「……無事でよかったわ、愛するテリア」
「今の間は何!?」
相変わらず王女の扱いは雑だが、夢について現状判明した事を説明していく。
生き物としての意思はある事、ドルネフィラーに取り込まれたと思われる時期の記憶のままである事、本人に夢の自覚は無い事。
そして……
「アリエッタ嬢か、その能力が関わらないと討伐出来ない……か」
「それであのフシギなスラッタルも、パフィとミューゼオラがしとめるコトができたんだな」
「やはり女神の?」
「でしょうねぇ……」
アリエッタの正体を知る4人だからこそ、すぐにその答えにたどり着き、納得する。
「ドルネフィラーから生まれた存在が神の力なら、同じ神の力で何とか出来る。単純な話よね」
「わかりやすいな。そうかー、アリエッタかー……」
ピアーニャが頭を抱えてしまった。それもその筈、ピアーニャはアリエッタの事が苦手なのだ。
普通の者ならば子供扱いをしてきた場合、問答無用で教育してしまえばいい。しかし、説明が通じない幼い子供にとって同じ教育はよろしくない。
しかもアリエッタからは善意しか感じないせいで、むやみに拒絶も出来ない。説得する為にも、早く言葉を覚えて欲しいと願う日々である。
「そういえばアリエッタちゃん、ピアーニャに会いたそうにしてたわよ?」
「いやだっ!」
ピアーニャは思わず本音で叫んでいた。
「それはそうと、これからもアリエッタちゃんを連れまわすのかしら?」
「いや流石にそれは……危険な夢が相手だと、アリエッタちゃんだけが危険な目に合うので」
「どういう事かしら?」
「お前達が護ればいいのではないのか?」
「それが出来ればよかったんだけど、これが夢に干渉出来ないわたくし達と、夢に干渉してしまうアリエッタちゃんの厄介な差なのよ」
ネフテリア達は夢に触れない。夢の魔法にも触れない。という事は、その身を盾にする事も出来ないという事。その身をすり抜けて、アリエッタだけがその影響を全て受けてしまう。大人達は絶対に傷つかず、護るべき対象だけが唯一危険な状態なのだ。
「だが、アリエッタにふれていたミューゼオラは、ユメのヤガにふれるコトができた。アリエッタをだいていれば、まもれるのではないか?」
「あ、そっか。アリエッタちゃんをおさわりしていれば、ちゃんと庇えるんだ」
「それはそれで結局危ないわね」
「というか、幼い娘をそんな危険な場所に連れて行くなよ!」
『あ……はい。スミマセン』
ガルディオの至極もっともな叫びに、他3名はすぐに謝罪。
何故女神とはいえ、小さな女の子を危険地帯の最前線に連れて行って、どうにかして守る事が前提になっていたのか。れっきとした大人であるフレア達は、すっかり意気消沈し、黙り込んでしまった。
「ピアーニャ先生?」
「う、うむ! わちがわるかった! マオウもでるようなアンケンであれば、シーカーのほうでネンミツにチョウサをしてから、サクをねろう」
「ええ、お願いしますよ。ただでさえアリエッタ嬢には迷惑をかけているのですから」
危険な可能性があるならば、アリエッタ本人の同行は極力控えなければならない。ヨークスフィルンのように巻き込まれるのとは違うのだ。
「あ、対策といえば、ミューゼの杖とパフィのナイフと同じように、アリエッタちゃんに色を付けてもらうってのはどうかしら?」
ネフテリアが考えた作戦は、武器をアリエッタに加工してもらい、それを夢調査のシーカーに渡すという事だった。
「うむ、それならば……」
「こらこら。小さなアリエッタちゃんに、大きな刃物を渡すの?」
『うっ……』
いきなり頓挫した。子供に武器は流石に危ない。
それならば、触るだけならば危険の無い武器であればいい。という訳で、
「じゃあまずは杖を10本持って行って、アリエッタちゃんとミューゼに頼んでみますか」
「上手くお願いできるかしら?」
「大丈夫。交渉材料がいるから」
「ぅおい!! いやだ! いきたくないいいい!!」
総長であるピアーニャに、他の者に任せる事が出来ない『リージョン間の問題が解決できる手段』を手に入れるという、重大な仕事の拒否権は無いのだった。
この後も雑談やアリエッタ達に関する情報交換、そして夢について色々話し合い、まとめていった。
「それでは、『夢』改め『ドルナ』と呼称。そしてそれぞれの個体名の頭に『ドルナ』とつける事にする」
「はーい」
「うむ」
最後に決まったのは、夢の呼び方だった。例として、ヨークスフィルンで遭遇した『スラッタル』であれば『ドルナ・スラッタル』と呼ぶ事になる。
シーカー達やドルネフィラーにも共有し、情報提供を呼び掛ける方針を固めたのだった。
「ところで最後に1つよろしいですかな、ピアーニャ先生」
「なんだ?」
「その強そうな顔で背伸びしている感じが可愛らしい魚の服は──」
「きくなぁっ!!」
「じゃあ違う服描いてもらった方がいいですか?」
「たのむからオトナっぽいフクにしてくれ!」
ピアーニャがミューゼに見せられた紙には、動物の長い耳がついた可愛らしいふわふわの服が描かれている。着ているモデルはピアーニャ。当然アリエッタ作である。
「ぴあーにゃ、おりがみ」(ほらほら、風船だよー)
「うんうんすごいな。だがダッコはやめろ。フクもいらん」
「よしよし~」
「……ミューゼオラよ。はやくコトバをおしえてやれ、いますぐに、ほら!」
撫でられれば撫でられる程焦る、最強の総長。しかしミューゼは教え方が少ししか分からない。
「まぁそんな事よりミューゼ。どう? お願いできる?」
「そりゃまぁ頼んではみますけど。思ったのと違っても、やり直せるかどうかは分からないですからね?」
「いいよいいよ。ドルナに対抗する手段さえ手に入れば、あとは知ったこっちゃないから」
「をぃ……」
予定通り、10本の杖を持って、ミューゼの家にやってきたネフテリアとピアーニャ。
まずピアーニャは、アリエッタのご機嫌取りという仕事から始める事になってしまった。なんとタイミング悪く、食事中に皿を割ってしまった後に訪問してしまったのだ。
パフィは気にしてはいないが、元大人のアリエッタは罪悪感でいっぱいである。
アリエッタの保護観察費用の他に、アリエッタ自身の服デザインでの稼ぎによって、当分は家族で遊んで暮らせる程の収入をアリエッタ自身が得ているが、そんな事はアリエッタが知る由も無い。パフィに無駄にお金を使わせてしまったと、しばらく嘆いていたのだ。
そのせいで、せめてもの贖罪とばかりに、いつもより激しい可愛がりがピアーニャを襲う。
(えーっと、ちょっと恥ずかしいけど、みゅーぜ達を見習わないとな。お姉さんなんだし!)
「いやホオズリはちょっと……やめ……はなせぇ!」
結果、ピアーニャは話には参加出来ず、ミューゼとネフテリアだけで杖に絵を描いて貰うように頼むという作戦会議をしていた。
ちなみにパフィは簡単なシーカーの仕事に出掛けている。帰りには、いつも通りクリムもやってくるだろう。
(あ、そうだ。アレ見せてあげよう。きっと喜ぶよね)「ぴあーにゃ、ぴあーにゃ」
「……こんどはなんだ?」
アリエッタは一旦ピアーニャを膝から降ろし、自分専用の道具箱へと向かった。ミューゼ達と区別出来るように、絵を入れる箱の近くに荷物を固めていた場所なのだが……
「あそこはアリエッタの縄張りです」
「せめてジンチとかシハイケンとかいってやれ」
幼く1人部屋を持てないアリエッタの為に、ミューゼ達はアリエッタが自由に出来る場所を与えていた。要するにおもちゃ箱である。
何度かアリエッタの道具を片付けたり、アリエッタに片付けさせたりしたことで、しっかりと『ここが自分用スペース』だと認識させる事に成功していた。
その場所にある道具箱の中から、アリエッタは1本の筆を取り出した。いつものアリエッタの髪で作られた筆の1本である。
「あ、もしかしてアレを見せたいのかな」
「みせたい? ああ、なるほどな」
「ふんす!」(よーし!)
アリエッタは髪の色をピンク色に変え、目の前で筆を動かしていく。すると、エルツァーレマイアがやったように、空中に線が描かれていく。
「ほう、これが……」
「はい、あれから練習したみたいで、今では綺麗な絵を描くんですよー。流石アリエッタ」
シャダルデルクで絵を描いたのはエルツァーレマイアだったのだが、そんな事は知らないミューゼ達は、慣れない技術だから練習したら上手くなったと解釈していた。
実際は、精神からエルツァーレマイアの絵を見ていたアリエッタが、睡眠中にそういう事出来るのかと問い詰めたのがきっかけである。
『空中に絵って描けるの?』
『ほら元々私は空中に色を作るじゃない? 筆で形を作ったっていう解釈になるけど、私に出来るならアリエッタにも出来るわよ。筆を使うのはアリエッタの方が上手なんだし』
という流れで、今の能力と筆があればという前提と、アリエッタの方が上手く出来るという女神からの太鼓判を信じたお陰で、『自分の筆ならどこにでも絵が描ける』という認識が出来上がった。お互い無意識だったが、ほぼ刷り込み現象である。
それでも少し疑心暗鬼で常識化しきっていないのか、空中の絵を保持する時間は短い。
「できた!」
「ふふっ、ピアーニャ可愛い♪」
「う、うむ……」
まだまだ能力練習中のアリエッタが描いたのは、ピンク色のデフォルメピアーニャ(サメバージョン)。『がおー』としているのがとても可愛らしい作品となった。
(ふふふ、これならぴあーにゃ喜んでくれるね! こんなに可愛く出来たし!)
普通の子供の感性なら間違いなく喜ぶであろう。しかし、既にピアーニャはこの事を報告で知っていて、なおかつ可愛く描かれてしまったせいで渋い顔になっている。
「わちこんなにカワイクないぞ……」
「いやいや可愛いでしょう」
(あれ? よろこ…ばない?)
驚き喜ぶ姿を期待していたアリエッタは、困った顔でネフテリアと話すピアーニャを見て、愕然とした。
「もっとこう、つよそうなカンジがよかった……ん?」
喜ばせようとして空回りした時、人は落ち込みやすい。特に感性が強い子供の精神であれば、その落差もひとしおである。
「う……ぐすっ……」(あ、あれっ…ちょっと失敗しただけなのに、涙が……)
しかもアリエッタは、女神によって定められた天性の泣き虫なのだ。落ち込む時の感情のコントロールなど、絶対に不可能なのである!
「ふええええ~~!」
「あわーっ!? 可愛いから! ピアーニャちゃんの絵凄く可愛いからっ! ほら総長も!」
「えっあっ、そそうだぞアリエッタ、かわいいぞ! ありがとう! だからなかないでくれー!」
この後3人で必死にアリエッタを泣き止ませたが、結局その日はアリエッタに杖の件を伝えるどころではなくなり、ピアーニャは宿泊せざるを得なくなった。それも2泊。
ミューゼの家に泊まれたネフテリアはご満悦だったが、アリエッタの作業が終わった日には、ピアーニャの目は完全に死んでいたという。