「すごいじゃん。紗季、おめでとう」
葵は笑ってくれた。でも、目の奥が少しだけ揺れていた。
「ありがとう……でも、迷ってる」
「どうして?」
「……もし東京に行ったら、また、葵と離れちゃうかもしれないって思って」
その一言に、葵は目を伏せた。
「そっか……」
「一緒にいたい。そう思うと、全部置いてここにいたいって思っちゃうんだ」
葵は少しの沈黙のあと、ぽつりと返した。
「でもさ、紗季の“書きたい”って気持ち、誰よりも知ってるよ。ずっと隣で見てきた。あの夢、諦めてほしくない」
「でも――」
「行っていいよ、紗季。私、ここで待ってる。夢を選ぶことって、あなた自身を生きるってことだもん。……私は、あなたの“今の気持ち”を縛る理由にはなりたくないから」
その声は震えていた。強がりだって分かっていた。
だから紗季は、言葉を探した。
言い訳でもなく、約束でもなく、二人の未来を形にする言葉を。
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