テラーノベル
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「もしもーし?………おーい」
ペチペチ、と頬に優しく叩くような刺激が繰り返される。
岩本照は、何処かで聞き覚えのある、その低いけれども優しい声のトーンに、次第に覚醒していった。
「……阿部…?」
「うん。阿部だよぉ?」
ベッドに両腕を拘束されたままでいる岩本を、小首を傾げ、眉を下げて、阿部は芝居がかった身振りで心配そうに見下ろした。
「俺……は…?」
「うん。ゆっくり思い出してみて?」
阿部はくすくす、と笑い、頬に片手をあてたまま、動けない岩本を見る。可愛らしい小振りの顔が笑顔で満たされ、白い前歯が口元から覗いた。
阿部の細長い腕が、岩本のワイシャツのボタンにかかり、ゆっくりと、そして焦らすようにそのひとつひとつを開いていく。指先が岩本の、顎、首、鎖骨と順番に撫でていった。
「なに……してんだよ……?」
阿部はその問いかけに反応し、吐息が掛かる位置まで顔を近づけたかと思うと、目を逸らさずにはっきりと言った。
「愛撫」
「………っ!…は???」
「これから、俺が照を愛してあげるの」
◆◇◆◇
小一時間前。
岩本は、阿部に誘われて、遠征先のホテルの部屋で紅茶を淹れて貰い、ご馳走になった。
ライブ終わりに、二人きりで話がしたいからと呼び出されたので、特に何も考えずに岩本は阿部の部屋へとやって来たのだった。その時にしたのは、他愛もない話ばかり。
何か込み入った相談ごとでもあるのかと心配して来てみたが、いつもと変わらない穏やかな阿部の様子に安心して、そろそろ…と、席を立とうとしたところ、急に眩暈がした。
「照?」
阿部が岩本の腰を支え、少し休みなよと、ベッドに横たえたところで岩本の記憶は途切れている。
◆◇◆◇
「照があんまり鈍いからさぁ、俺、こうして強硬手段に出るしかなかったんだよ」
「強硬手段て、、」
言葉の途中を遮られ、阿部の唇が岩本の唇に優しく重なる。そして、岩本の唇の感触を確かめるようにうっとりと味わうと、初めは触れるだけでそっと離れた。
「俺のこと、いや?」
いつのまにか、着ていたワイシャツは脱がされ、鍛えられた上半身が露わになっており、阿部の手は、続いて下半身を脱がしにかかっている。岩本は身を捩るようにして、ベッドヘッドに腰を押し付けた。
「それ以上下がれないけど?」
「阿部。落ち着いて」
「落ち着くのは、照の方」
「ちょっと……っ!!」
逞しい胸を確かめるように撫でていく阿部の掌が、胸の突起に繰り返しあたる。掌は時々返されて、さわさわと岩本の上半身を優しくなぞっていった。その焦ったいようなくすぐったいような感触に、少しずつ変な気分になっていく岩本は、阿部を恨みがましく見上げている。
「なにが…したいの?」
阿部はわざと考えるような表情を見せ、もったいつけるように言った。
「照とエッチしたい、かな」
「……………!!」
岩本の目が見開かれる。外そうとした手枷のタオルが、さらに手首に食い込んだ。
「跡付いちゃうからさ、あんま、暴れないで?」
……トントン。
その時。部屋の入り口のドアが、二度ほど遠慮がちにノックされた。
阿部は人差し指を口元に立てて、岩本に静かにするよう合図を送り、戸口まで行くと、ドアを開かずに言った。
「誰?」
「ごめん、阿部ちゃん。寝てた?」
「うん、もう寝るとこ」
深澤の声。
「照、知らない?」
「さあ?」
「……そっか。ごめんな、こんな遅くに」
「いいよ。おやすみー」
阿部はすたすたと悪びれもせず戻って来ると、もうこんな時間か、と一人ごちた。時刻は23時に差し掛かろうというところだった。
「少し、急ぎますか」
言いながら、阿部は、岩本のズボンを下ろし、下着に手を差し入れた。 ここへ来て流石に岩本も目を見張って抵抗し始めるが、同時に今度は荒々しく、阿部の唇が押し付けられて口の中を遠慮なく侵し始めると、その甘美な感触に次第に頭の中が痺れていくのを感じた。
阿部の手は岩本のものを柔らかく掴み、縮こまっていたそこを揉み込むように愛し始めると、岩本の意志とは無関係に徐々に硬度を増していく。勢い任せではない、丁寧な手淫に、岩本は堪らず小さく喘ぎ始めた。
「照、きもちいい?」
岩本は答えない。
被りを振り、目を逸らしている。なおも阿部が耳元で囁く。
「ねぇ、気持ちいいんだろ?もうすっかり硬くなったよ」
腰が上がったタイミングで、下着ごと岩本はズボンも剥かれた。
“自分は全裸にされて、服を着たままの阿部に見下ろされている”
それを考えただけで、激しい羞恥が彼を襲った。ましてや、今は愛された身体の中心が熱い。阿部に自分は襲われているのだと思うと、理解できずに、頭がどうにかなりそうだった。
「どうして?」
岩本の呟いた当然の疑問は宙に浮いたまま、阿部は、さらに深いキスを岩本にした。頑なに応じなかった岩本の口が緩むのを感じると、阿部は微笑み、欲望を扱く手を早めた。
「俺の口でイッていいよ」
言い終えるや否や、岩本の下半身に顔を埋める。手の愛撫で高められ、熱を持ったそこは、阿部の口内にやすやすと飲み込まれた。阿部の喉の奥を感じる。目がチカチカする。思考がうまく働かない。阿部は岩本の腰を掴み、優しく、時に激しく、岩本自身を吸った。
「出る、阿部……」
我慢できなくなった岩本は、阿部の口の中に欲望を撒き散らした。阿部は、それをほぼ全て飲み込み、溢れた分は指先で掬って、ニヤリと笑って岩本に見せた。
「照、これで俺たち、内緒の関係になったね。腕、辛いだろ?いいかげん外してやるよ」
手首を締め付けていた長細い戒めを外され、愛おしそうに汗で濡れた髪を阿部に撫でられる。岩本は今ではすっかり抵抗する気力を失って、その場に寄りかかったままでいる 。
阿部は、ベルトを外し、己のズボンを腰まで下ろした。岩本は諦めたのか、もはや抵抗しない。そして掠れる声で漸く言った。
「それで、俺、どっち?」
阿部の口角が、はっきりと上がった。
おわり。
コメント
8件
えすきかも💚💛 珍しい😳
💚💛珍しいけどめっちゃしっくりくる〜
いや〜💖💖💖 なに〜?この展開は! 好きかも...!