この世は力さえあればモテる。
その言葉は俺が幼少期に、憧れの冒険者から言われた言葉だ。
俺は国境の小さな村で母親一人に育てられた。
純粋であった俺はそんな母が大好きで恩を返すためにひたすら努力した。
勉強を人一倍頑張った。知識があれば母のためになると思って。
魔法を人一倍練習した。冒険者で成功すれば母に楽な生活をさせられる。
そんな俺の人生には2度の転機があった。
1つ目の転機は男一人に複数の女性がいるパーティが村に来たこと。そのパーティの女は美女ばかりだった。
「どうすればあなたのように慣れますか?!」
気がつけば男冒険者にその言葉を投げかけていた。
今思えばそれが俺の性の目覚めだったのだろう。
俺は憧れてしまったのだ。ハーレムというものに。
「強ければモテる、この俺のようにな!」
返答は単純なものだったが、俺はその言葉に感銘を受けた。
俺はその言葉通り、強くなるために一層努力した。
もちろん母の恩返しのためでもあるが、魔法を訓練する理由は「モテるため」に変わっていった。
幸い俺には才能があった。みるみる実力が開花した。
そんな日々を過ごし15歳となり成人した。
俺は故郷を離れ独り立ちし、クレオス王国で早速憧れの冒険者となった。
王都では美女が多かった。そんな光景により一層やる気が増した。
強ければモテるという言葉を信じてひたすら貪欲にランクを上げ、実績を重ねた。
だが、現実はそうではなかった。
美女に話しかけても相手にされない。ひどい人では煙たがられ、もっと酷いと通報された。
力だけではモテることはない。
容姿も必要であったのだと後に判明した。
俺の容姿は平凡であった。
母親は茶髪の綺麗な容姿をしていた。
だが、その血は受け継がれず俺の容姿は地味面であった。
俺は絶望した。
何のために努力してきたのかと。
生きる気力がなくなり、数日酒に明け暮れた。
そんな俺にまた、2度目の転機が訪れた。
興味深い、同僚冒険者の話を耳にしたことだ。
ざっくりいうと、奴隷は最高だ。という内容。
奴隷は主人には逆らえない。
奴隷の中には訳ありで売られた美女が偶に売られるという内容に俺は食いついた。
モテないのなら金で権利を買えばいい。そうすればキャッキャ、うふふとイチャツキ、夜の営みもしてもらえる!
そう結論づけ、俺はその日から奴隷のことを調べた。
まず、必要なのは金と奴隷オークション会場の闇市場に入るためのコネ。
俺は目標達成のため努力を続けた。
冒険者の最高のSランク冒険者になった。
貴族や商人のコネを作りまくった。
結果、俺は数年かけて目的を達成した。
だが、そんな中俺はある欲が生まれた。
「どうせ奴隷買うなら絶世の美女で、穢れがない女がいい」と
それから俺は機会を窺った。
入札を確実にするために金を集め続けた。
オークションの商品を知るために情報をかき集めた。そんな生活をして早5年がたったとき、ついに情報が入った。
オークション市場最も最高の商品だと名高い女性が現れたと。
俺はその女性に狙意を絞り五年かかった計画に終止符を打とうとした。
そして迎えた当日。
「これより!本日最後、目玉商品となります」
この場にいる連中がその商品の女性を見て息を呑んだ。
その女性は「オークション市場最も美しい女」であった。
クレオス王国の王都ナダルの片隅。奴隷を求める貴族や裏社会の連中が集まる通称「闇市場」
ここでのルールは不干渉。互いに身元を探るのは御法度とされている。
会場はコンサートホールのようにスポットライトが美しい女性に当てられる。
女性は恥ずかしそうに白い布切れ一枚を羽織り、涙目で会場を見渡していた。
その光景をみて会場の人間はさらに興奮し、今か今かと待ち望む。
自分がこの入札を勝ち取り今日の晩のおかずにしようと考えているゲスの連中。
ふ、残念ながらそれは叶わんよ。
なんせ今回の落札するのはこの俺なのだから。
「では、10億ギルからスタートします!会場の皆様、ご検討をお祈りしております!」
その一言で始まった。
会場の連中は死に物狂いで指で合図を送る。司会者が一番額が大きい人の金額をよみあげる。
ふ、雑魚どもめ。そんな端金じゃ俺には勝てねぇよ。
どんぐりの背比べてをする連中に俺は嘲笑う。
「そろそろだな」
金額がそこそこ釣り上がったタイミングで俺は右手で司会者に合図を送った。
「なんと!10兆ギル!これは!……オークション市場最高額!……他にどなたかいませんか!………決定!96番の方に決定!では96番の方、ステージへどうぞ!」
俺は会場から罵声や殺気を浴びせられながらも気にせずに向かう。
「美しい」
ステージに着くと目の前にいる美しすぎる女性に息を呑む。
腰まで伸びた長く伸びた癖のない銀髪。シミや傷が一切ない綺麗な肌、この世のものとは思えない神秘な容姿。
年齢は10代後半から20代前半くらいか。
前評判通りじゃないか。今晩が楽しみだ。
「さぁ、行こうか」
「……はい」
俺は笑顔で告げる。少女の目は潤っていて、震えそうになっている。
奴隷商人に一括で金を払い会場を後にした。
礼服屋で彼女に似合う純白のドレスを購入し、宿屋に向かう。
少女は道中表情は暗かった。
ま、そうだろう。今からされることを考えれば俺も同情する。
だが、それでいい。奴隷の彼女には拒否権利はない。
ご主人様には従順なのだから。
ついに達成した。
俺は嬉しさのあまり今夜のことを考えニヤケが止まらなかった。
街を歩く中奴隷の女性を連れて宿屋に向かった。
「さぁ、ここが俺の泊まっている宿屋だ」
「……はい」
女性は表情をさらに暗くしながら返事する。
「早速部屋に向かおう。色々……しなきゃいけないことあるし」
「……はい」
おい、なんでそんなこの世の終わりみたいな表情してんだよ。俺が悪者みたいじゃないか。
「さぁ、行こうか」
「……」
俺は彼女の肩に手を置き、優しくエスコートする。
触れた瞬間ビクッと反応したが、今更だと思い、そのまま階段を上がり部屋に入る。
「……とりあえず、そこに座って」
「お気遣いありがとうございます。しかし、私はあなた様の奴隷です。そのような気遣いは無用です」
「そ……なら命令、そこの椅子に座って」
彼女は椅子に座った。
奴隷には契約が必要だ。それは胸に事前に奴隷商が書いた奴隷紋に俺の血を混ぜた特殊な液体を垂らす。
会場では狙われていたので、安全な場所で契約したいと思い、その場で契約の手続きをしなかった。
逃げられるかもと言われたが、俺がSランク冒険者と教えると商人は納得した。
俺は、奴隷商人から渡された液体を確認。一応、本物か調べる。
「よし……本物のようだ」
よし、間違いないな。
手順を頭の中で思い返し、彼女に視線を向ける。
だが、これから奴隷契約をする前に少し話をした方が良いと思った。
彼女は本当に挙動不審になっている。俺の一挙手一投足にビクビク震えている。
「……いや、そんなに泣かなくても」
「も、申し訳ありません!」
いや、なんで土下座するの。そんな覚悟じゃこの先心身が持たないよ。
興奮して我を喪いかけてたけど、急に冷静になってくると、俺完全に嫌われる行動してるわ。
やはり、この先は長いのだから信頼関係を築かなくては。
「まだ名前を聞いてなかったな」
「……アリシア……と申します」
はい、無言。……何を話せば良いのだろう?とりあえずここまでの経緯を少し話そうかな?
「君のことを探していたんだ。……ある知人から(奴隷について)話を……聞いてね。いやぁ、苦労したよ。情報を集めたりお金貯めたり」
「そ、それは本当なのですか?」
「え……うん。いやぁ、簡単だったよ。僕S級冒険者だから、強いんだ!」
「……」
はい、また会話終了。強さ自慢したくて言葉発したけど失敗だったかも。
やばい。魔法のことばかりで話術磨いてなかった。コミュ力ゴミだからな俺。
どうしよう、顔見れない。
俺は気まずさから視線を下ろす。
それにしても豊満な体つきをしているなぁ。
今夜が楽しみ……あ、少し見すぎた。
やばい!アリシア両手で胸を隠してる。
変態だと思われたか?……あれ?そういえばアリシアの胸のところから魔力反応?
何か隠蔽魔法のかかったネックレスをつけているのか。いや、そんなことはどうでもいい。まだやるべきことがある。
少し話したし、お互いのこと知れたかな。
このまま話進まないし、奴隷契約をしなきゃだね。
そう、次の行動を考え直し、俺は顔を上げる……だが、その時であった。
「……ど、どうした?」
アリシアは泣いていた。
「あなたが……母の言っていた救世主様なのですね」
「え?…うん」
反射的に返事をしてしまった。
アリシアからは安心したのか、恐怖や震えは無くなっていた。
だめだ。意味わからん。
状況の掴めないまま、アリシアは魔法で隠蔽されていたネックレスを外す。
「……は?」
するとアリシアの体に変化が起こる。
耳が長く変化した。
「……え?」
戸惑う。
だって耳が長いってエルフの特徴だし……なんでそんな偽装してたんだよ。
アリシアは俺の反応を見て微笑む。
そのまま洗練されたカーテシーをした。
「改めて助けていただきありがとうございます。ギネル様、あなたのことは亡き父から聞いております。ご存知かと思いますが、私の名前は、アリシア=フォン=ウェルトリアと申します」
……あれ?なんか変な勘違いされてる?
フォンってエルフの中でも王族、ハイエルフのつく苗字だよな?
あれ?……なんか状況やばくね?
ウェルトリアって最近滅んだって風の噂で聞いたことあるような。
「ギネル様、どうか私たちエルフを助けるため……協力をしてください」
その後詳しい話をアリシアから聞いた。
アリシアの母は、ある日魔王軍に攫われてしまったとか。
ウェルトリア王国を治るハイエルフは巫女の一族で、女神から神託を受け取れるらしい。
どうやら攫われたアリシアの母親が最後に残した言葉が俺に該当するとか。
アリシアは母親を助けるために国を飛び出したが、運悪く奴隷商人に捕まってしまったらしい。
こんな面倒事嫌に決まってる。
だが、話を聞いた手前、断れないんだけど。
「もちろんだとも」
どうすんだよこれ。
俺の5年間の集大成が……まさか、こんな形で終わるとは。
ハイエルフの王女に手を出したらエルフ国を敵に回すから下手に手を出せない。
奴隷にしたら、人間とエルフ国の戦争が勃発するし。
まじでどうしよう。