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剣を振るうように腕を伸ばすギル。

矢を放つように跳躍する菊。

どちらが優れているか、もはや観客には決められない。ただただ息を呑んで、目の前の光景を焼き付けるしかなかった。


――その時。


天井で煌めいていた巨大なシャンデリアが、不意に軋む音を立てた。

気づいた観客のざわめきが広がる。

だが舞台上の二人は止まらない。止まれない。


「菊ッ!」

ギルが叫んだ瞬間、世界は砕け散った。


シャンデリアが、光の塊が、轟音と共に落ちてくる。

菊の視界が白く染まり、ギルの手が伸びる――。

舞台は熱を帯びていた。

雪片のように舞う照明が、踊り手たちの動きを際立たせる。観客は息を呑み、ただただ舞台に釘付けになっていた。


その中心に、二人。


王子を演じる菊。

凍りつくように冷ややかで、ひとつひとつの動作が精密な機械仕掛けのように美しい。

悪役を演じるギルベルト。

爆ぜる火花のように荒々しく、力強く、観客を圧倒する迫力に満ちていた。


まるで氷と炎。

正反対の二人の存在は、物語以上の緊張を生み出していた。


ギルの目が、菊を捕らえる。

跳躍するその姿を見て、思わず心が震えた。

(……こいつ、本当にチビかよ)

苛立ちと同時に、尊敬にも似た感情が胸を満たす。


菊もまた、ギルを見ていた。

乱暴で粗削り、だがその力強さは誰も真似できない。

(あの人こそが、私が越えるべき壁……)


――その瞬間、轟音が舞台を揺るがした。


観客が悲鳴を上げる。

見上げた先、天井に吊るされた巨大なシャンデリアが、不吉な音を立てて傾いていた。

装飾の鎖が裂け、火花を散らしながら切れていく。


「……っ!」

菊は踊りを止めなかった。

それが舞台人の矜持だから。音楽が続く限り、彼は舞台を降りることを許されない。

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